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アカデミア発のイノベーション

大学や研究機関の研究成果をもとにしたイノベーションについて考える。

研究成果である技術シーズを産業界へ移転することを技術移転(Technology Transfer)と呼ばれるが、アカデミア発のイノベーションには、2通りの方法が考えられる。
一つは、既存の企業にアカデミアの技術シーズを移転する方法と、新しく企業を設立して、そのスタートアップに技術シーズを活用してもらう方法がある。Technology Transferのやり方には2通りの展開あるということだ。Technology Transferは、特許ライセンスやMTA(Material Transfer Agreement)など様々な形態があるが、ここでは特許ライセンスについて考えてみたい。
技術シーズを特許権などの知的財産権として持つ大学や研究機関から、その権利の利用許可(実施許諾)を企業に対して行うのが特許ライセンスである。
一般に、ライセンス契約は、ライセンスを与える側(ライセンサー)が、ライセンスを受ける側(ライセンシー)に対して、一定の対価(実施料や使用料など)により、実施許諾する契約のことである。
特許ライセンスによって、ライセンサーである大学や研究機関は、ライセンシーである企業の実施によってロイヤリティ(対価)を得ることができる。その対価は、契約一時金やランニングロイヤリティなどの形で経済的(金銭的)対価が多い。技術シーズの価値が大きければ大きいほど、そのロイヤリティは大きくなる。よって、アカデミアの技術シーズの経済的価値をロイヤリティによって測ることができる。

ランニングロイヤリティ=売上×料率

ここで、私の前職である理化学研究所のロイヤリティの推移を見てみよう。

理研特許収入

 『理化学研究所百年史』(理化学研究所 2018年)

2016年には、3億円の特許料収入(ロイヤリティ)を得ていることが分かる。ちなみに、私は2010年から10年間、理研に在籍して、研究成果の産業界へ移転活動を行っていた。最低のロイヤリティから、良い時では約10倍まで引き上げてきた自負がある。

さて、ここで、3億円のロイヤリティを得るには、どのくらいの売上が産業界側にあるのか、ひとつ計算にしてみよう。
料率は特許ライセンス契約ごとに決まるので、一概には言えないが2~5%くらいが多いため、平均して3%としてみる。さらに、ロイヤリティは全てランニングから来ていると仮定すると、売上としては、
売上=ランニングロイヤリティ÷料率=3億円÷3%=100億円
となる。
つまるところ、理研の研究成果をもとにして産業界側は稼いでくれた額は100億円という、大きな額である。
研究機関の研究成果をもとにしたイノベーションとして、100億円の経済効果を生み出したことになる。
ただし、本当はロイヤリティのうち半分以上は一時金などによるものなので、売上に貢献しているのは、半分以下である。
アカデミア発のイノベーションを生み出すことで、アカデミアは「研究成果を社会に還元する」ミッションを行っている。

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