『Why the world does not exist』は『なぜ世界は存在しないのか』と訳したら、あかんよー。『なぜただ一つの世界は存在しないか』だよー ─ ガブリエルの新しい実在論(20210906)

 以下、拙著『ことば学』p.155からの一節。

グッドマンは、わたしたちの生活世界や社会の現実に始まり、文学や歴史や宗教にとどまらず科学も、そして音楽や絵画などの芸術もすべて、言語やその他の記号や象徴手段を媒介としてわたしたちが作った世界であると言う。一方、ガブリエルは、すべてを包摂する世界(the world)というようなものは決して存在し得ず、わたしたちにあるのは、各々の文化、宗教、学術研究などの観点で構成されるさまざまな世界だけであると言う。ガブリエルによると、そうしたさまざまな世界が入り組み合い、連携し合い、時には拮抗しながら存在している。そして、わたしたち一人ひとりは、常に何らかの観点から見据えた世界を見、その中に生きていると言う。興味深いことに、ガブリエルの論では、フィクションの世界や夢や幻想も現実と見なされる。それらが現に経験されたり起こったりして、わたしたちの経験の一部として現に存在するからである。


 今、ガブリエルを再度呼んでいます。改めて、「ガブリエル、おそるべし!」と感じています。でも、ガブリエルは、存在論しか論じてくれていません。存在論にからめた言語論は、『Why the world does not exist』と他のガブリエルの本を見ましたが、論じられていません。かれの「新しい実在論」にからめて言語論をしたいと思っています。
 また、『発話の文法』(定延利之)も注目中。

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