ずっと「急場しのぎ」を続ける!? ─ 初級日本語教育を「蝕む」文型・文法事項中心の教科書とそれにしがみつく教師(20210929)

 表現活動中心の日本語教育を勉強しても、一方で、「困った現実」は続いています。文型・文法事項積み上げ方式の教科書に基づく「授業」の要求です。そして、その「現実」に少しでも対処しようとして、「即座に教科書を変更することができず、文型積み上げ式の教科書で授業を行わなければならない場合、どのような工夫をすれば習得の促進につながるか」と考えます。
 表現活動中心の日本語教育を勉強した人が、そこで学んだ視点や原理や方法なども参考にして「少しでも学生のためになる授業をしたい!」と思うのはよくわかります。そして、「困った現実」の中で何とか工夫をして少しでも学生の日本語の上達に資する授業をすることは重要です。しかし、・・・。それは、どうしても「急場しのぎ」です。すでに、ここまでで言葉になってしまっているように、「文型・文法事項積み上げ方式」と「学生の日本語の上達に資する授業」というのは、すでに矛盾しています。そして、同時に、そもそも、その教育企画(教科書しかありませんが)は文型・文法事項というところに教師を縛ろうとするという性質をもっています。(←きちんと文型・文法事項を使ってfull sentenceを正確に言えるように指導をしないと「厳しい!」主任の先生に叱られます!) そんな事情ですので、現在の「困った現実」下で「日本語の上達に資する授業」をしたければ、文型・文法事項の指導(&「厳しい!」主任の先生)をかなりの程度ないがしろにして、授業をしなければなりません。「急場しのぎ」を「こっそり」!? 「急場しのぎ」の「こっそり」は、いかにも不健全ですね。

 従来の教科書は「適切な筋道をつけてくれる」のではなく、「間違った筋道」をつけています。そして、「間違った筋道」で教師に手かせ足かせをはめています。ですから、重要なことは、その手かせ足かせを外すことであって、手かせ足かせをしたまま「前進」しようとするのは、もっと不健全、あるいは、不健全の継続です。また、そもそも、主任さん?も含めてほとんどの人は、文型・文法事項積み上げ方式はどうも「具合が悪い」、何とか「他」はないかと、「他」(alternative)を探しています。そして、その場合の「他」(alternative)が「他の教科書」という発想になってしまいます。教科書を取っ替えても無理です! 重要なのは教育企画と教授実践を支えるリソース(としての教科書)です。次元の違う発想をしないと、決して優れた教育実践はできません。(表現活動中心の日本語教育の考え方や原理や方法を論じた本のタイトルを『新次元の・・・』としたのはそのためです。)

 「現在の目の前の学生」にももちろん関心をもってほしいと思いますが、「これからも来る将来の学生」のことをもっと考えてほしいと思っています。基礎日本語教育はこれからも文型・文法事項積み上げ方式に縛られた授業をしていていいのでしょうか。
 教師が手かせ足かせ状態を「忍耐」し「放置」して「もがく」のは勝手ですが、それで「犠牲者」「被害者」になるのは、誰よりも学生たちです。そんなことを考えると、基礎日本語教育の改革は本当に急務だと思います。文型・文法事項積み上げの教科書に「しがみついている」相変わらずの仕事をしていていいのかなあー。

 ああ、最後になりましたが、「急場しのぎ」の方策の「柱」は以下です。そして、実際には、この「柱」の組合せを適宜に。

1.それまで学んだ文型・文法事項や語彙などを組み合わせて実行する言語活動をたっぷりする。(文型・文法事項や語彙の「復習」ではない! 言語知識の言語技量への熟成化です。)
2.1の際に、先生が、「学生が聞いてわかって楽しめる」話をたくさんする。(これが、熟成化のための重要な「養分」です。)
3.NEJのナラティブなどを活用して自己表現活動の指導を入れる。


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