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「知ってる」と「使える」で評価が全然変わる経営戦略手法、アンゾフのマトリックス

「知ってる」と「使える」の間には大きな隔たりがある…ということはよく言われますが、つくづく経営学という学問分野はこれが大きいと思います。そして不思議と「知ってる」のほうに教える側も学ぶ側もエフォートを割くのは、経営スクール学長として大きな社会問題だと思っています。

とはいえ。かくいう私も「知っている」にとどまり、過小評価をしていた理論があります。

1960年代、経営戦略論の祖のひとり、イゴール・アンゾフが成した「アンゾフのマトリックス」。

会社の成長戦略は4分類できる。製品・サービスが既存か新規か、市場が既存か新規かの2軸による、4分類。

アンゾフのマトリックス

分類学としてみたとき、「ふーん」で終わってしまう内容だと思うんです。
・当たり前だな
・抜け漏れがあるよな
・ここから分析を進められないな
・ざっくりしてるな

私自身、こんな感想を、持ってました。

はい深く反省しています。

どうもね、学者としては、ポーターとかが登場してから精緻化されていく堅牢な理論の方に興味がいくんですよね。

でも、このアンゾフのマトリックス、経営者さんやコンサルさんの間では意外と愛用されている様子をみて、これはどうも、実務家の思考パターンによくハマるものらしいと(アンゾフは学者であり経営者です)。で、実際、自分で事業を始めてみると、なるほどこういう感覚なのだなと気づく。会社の成長戦略って、要するにこの4つだ。

ただ、この手法単独では、全く機能しないのは事実。実際、アンゾフの本も、このマトリックスに至るまで、さんざっぱら色々な方法で分析をしてきているから、ここにたどり着けるかたちになっています。自社の製品・サービス、そして自社のあるべき発展方向性について、かなり検討を深めないと使えない。

そんな中で、アンゾフ・マトリックスを、最大限イージーに機能させるための方法となるのが、「事業ドメイン」の理論との組み合わせです。最近の一押し!

事業ドメインは、自社の事業に関する3つの問いからの整理です。
Who 誰に(顧客)
What 何を(製品)
How どのように(自社の強み)

まさに今、自社の事業がどういうものであるのかを端的に説明するものであり、経営戦略やビジネスモデルの第一歩となるものです。たとえばカシオさんであれば、中年男性に、デジタル時計を、タフに堅牢につくる技術で提供している事業だと言える

そして―お気づきだろうか、この事業ドメインの3軸のうちの、前2つはちょうどアンゾフの設定した軸と重複するわけです。

まず自社の事業ドメインを整理したうえで、それらのいずれを変えるか―と発想していくと、アンゾフのマトリックスに繋がってくる。それが、非常に使いやすい理論として眼前に広がってくる。

市場浸透戦略
Who 誰に→既存
What 何を→既存
How どのように→新規
既存顧客に既存製品を、新たな技術や能力で提供していくのが市場浸透戦略。例:中年男性に、デジタル時計を、更なるアップデートされた機能を登載して提供し、市場を深掘りしていく。

製品開発戦略
Who 誰に→既存
What 何を→新規
How どのように→新規or既存
既存顧客に、既存or新たな技術・能力で、新しい製品・サービスを提供するのが、製品開発戦略。例:中年男性に、タフで堅牢な機器をつくる技術で、スマホやカメラなどを発売する。

市場開拓戦略
Who 誰に→新規
What 何を→既存
How どのように→既存
自社の技術・能力を使った既存製品を、新たな市場で売っていく市場開拓戦略。例:中国市場で、Gショックを売っていく。

多角化戦略
Who 誰に→新規
What 何を→新規
How どのように→既存or新規
全く新しい製品を、全く新しい顧客に売っていく。それにあたって、既存の能力を活用するor新しい能力を獲得するのが、多角化戦略。例:タフで堅牢な装置をつくる技術で、災害現場のための電子機器を生産する。

どうでしょうか、あ、これめっちゃ便利じゃん、と気づいていただけたでしょうか…。分類学としてではなく、使うためのものとしてみた時、アンゾフ・マトリックスって、実務的思考に沿っていて、たいへん便利だなとようやく気付いた次第。

というわけで最近一押しの手法が、アンゾフ・マトリックスです!
What、Howを問うていくのはサイモン・シネックの「ゴールデンサークル」(パーパスWhyを探る問い)とも関連しています。その意味では、パーパス経営に紐づいて、アンゾフ・マトリックスや、事業ドメインの理論もまた再注目されてくるのではないかなと、思っています。

長くなりましたが…以上のことを動画でも説明しています。

…そして何より、
新刊の著作でも説明しています!
新刊本タイトルはまさに「今日から使える経営学」でして、使うという観点で全ての理論を見直しています。

ぜひ、アンゾフのマトリックスを、そして、すべての経営学を、あなたの今日を生きるための力として―すなわち、使うためのものとして、学んでくださいましたら幸いです!

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