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私達はそれを、愛、夢、伝統、意地などと呼ぶ。「サンクコスト」

先日、サンワード貿易さんにて、投資・経営の意思決定理論のタイトルで、講演をさせていただきました。

意思決定の基本理論から始まり、
その後は「私たちはなぜ間違うのか」の理論解説をしながら、
投資や経営の判断を誤らないためのポイントをお伝えしました。

そんな中から、当日も一番反響の大きかった、「サンクコスト」についてお話しします。

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宮迫博之さんは、なぜ焼肉店にこだわってしまうのか。有識者や、堀江貴文さん、フォロワーもリスクを強調し、大方の見方が「上手くいかない」であっても、宮迫さんは「既に多額のお金を投資している」ことから「今撤退したら、死ぬ」として、3月のオープンを決断。

…これって、投資で言う「損切りできない」というやつですよね。
一番、損失が膨らむものとして知られるやつです。
既に投資をしているから、もったいないから撤退ができない。

この現象には、理論として「サンクコスト」の名が付いており、実務界隈では「コンコルド効果」の名前が付けられています。

コンコルドは、英仏で共同開発が進められた超音速旅客機でしたが、プロジェクト中途からは、このまま続けても黒字にはならないと見込まれていました。しかし、事業者たちは「既に多額の投資をしてしまっていた」ことから、開発を続け、赤字を膨らませ続けました。結局、開発会社は倒産。航空会社も、赤字を垂れ流しながら2000年まで運行を継続しました。

やめればいいのに…!

もう投資をしていて、勿体なかったから、ということで、関係者全員が損失を出し続けたのが、コンコルドだったのです。こうしてコンコルド効果の名前が付きました。

経済・経営の理論としては「サンクコスト」と呼ばれます。sunk、すなわち、「埋もれた」コスト。もう取り返しがつかないわけです。でも、人はそれを取り返そうとしてしまう。

スッパリそれをやめて、別のことをした方が、有意義なのに、です。

しかし、これは私達人間の、ある意味での本質です。
この現象に、愛だとか、夢だとか、伝統だとか、意地だとか、キレイゴトを付けて正当化しようとする程度には。

私達は過去にこだわって生きる生き物です。過去を、否定したくない。自分の歩みを、正当化するようにして、過去の延長線上に未来を描こうとする。

長く続けたスマホゲームは、やめられない。
アイドルやキャラクタの推しメンは変更できない。
他競技で芽が出そうでも、10年続けた元の競技から離れることはできない。
小学生から読み続けてきた漫画を、切ることはできない。

そして、

他に儲かるビジネスがあっても、すでに数億を投じた事業をやめることはできない、のです。

…これが、人間のひとつの習性です。

しかし、現実に経済的な損失が膨らんでいる状況であれば。問題が、ビジネスのものであり、そこに仲間たちの成功や生活が懸かっているのだとすれば、リーダーとしては、ときに過去を断ち切る判断も、大切となるのです。

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以上が、私が当日お話しした内容です。

で、その後の質疑応答では、このような質問を頂戴しました。

過去のサンクコストを引きずって生きていますが、どうやって断ち切ったらよいでしょうか。

…これは、たぶん、重いやつ…。

私には正解が分かりませんでしたが、このように、お返事をさせていただきました。

「捨てられない過去にこだわって生きるのも、ひとつの生き様、ひとつの美学ではないでしょうか。人生というのは、そういうものだと思います。」

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