キリマンジャロを描いた話(3)
image view: Kilimanjaro National Park_ Tanzania, United Republic of_ キリマンジャロ国立公園_ タンザニア連合共和国 2013年9月の日記より
●2013年9月9日 登山2日目 マンダラハット〜ホロンボハット
初めての寝袋だったけど、ゆっくりと休むことができた。
7時くらいにウエイターのトムが、朝ご飯には、おかゆのような無味系のスープと卵とソーセージとパンを持って来てくれたので起床した。もりもり食べて、午前8時出発した。
マラングゲートからはずっと森だった景色が少しずつ変化していく。植物はその身長をどんどん短くしていった。前に進めば進むほどに足下くらいにまで植物が小さくなって、それと同時に遠くの景色がよく見えるようになっていく。
本日の行程は全部で5時間程度。アストンの歩調に会わせてゆっくりゆっくりと歩く。松田も岡本さんも自分なりに好きな景色を見つけては足をとめてシャッターを切る。その度にアストンは待ってくれる。
だけど昨日から雲で姿を表さないのはキリマンジャロ山だった。
少し小高い丘で、アストンは言う。
「いつもはここで見えるけど、今日は曇ってるね。明日の朝には見えるよ。」
キリマンジャロは着いた時からずっと山頂付近に雲がずっとまとわりついていて、なかなかその姿を現さない。見えそうで見えないギリギリの服を着た女性のような感じがしたので、山をキリちゃんと呼ぶことにした。
「まさかずっとみえないんじゃ…。」
少しずつ不安が募ってくる。松田はアストンに質問した。
「昨日からずっと雲で見えないけど、今日キリちゃんは見えるかな?」
「ああ、お昼には見えるさ〜。」
それから何時間か歩き景色はどんどん変わって行く。
雨は一滴も振らずとてもいい天気。でもキリちゃんは雲を来たまま微動だにしない。そうこうしているうちにランチタイム。昨日と同じランチメニュー。なんだかあまりお腹が空かなくて、サンドイッチ、マフィン、ピーナッツなどを残した。
松田はアストンに訪ねた。
「昨日からずっと雲で見えないけど、今日キリちゃんは見えるかな?」
「ああ、夕方には見えるさ〜」
午後も2時間ほど歩くと、ホロンボハット(標高3720M) に到着した。このハットより上には水道がないとのこと。これ以上気温がさがると水に触ることすら困難になるため、松田は思い切ってここで頭を洗ってみることにした。
さすが富士山級の高度。午後3時前なのに、水の温度は0度に近いように感じる。頭に水をかけて、シャンプーをざざーー、水をかけて、水をかけて、、、
「頭痛った!!!!!」
冷たすぎて頭が痛い。かき氷を一気に10人前食べたような感覚。
「こ、こんなに水って冷たくなれるんやっけ…」
4、5日間頭を洗えないとはいえ、ここで頭を洗うのは、あまりおすすめではないことが判明した。
この時間になってもキリちゃんは雲で隠れているようなので、松田は今日も山を描くのをあきらめて反対方向に広がる雲海を絵にすることにした。
ブーツ以外はいたってシンプルな服装だった。ブーツはmont-bellのアルパインクルーザーで、ハイカットで防水でがっちりしている。mont-bell 広報のスエムラさんもこの靴で世界一周プラスキリマンジャロ登頂を果たしたとのことで、このブーツは安心感のある一品だった。パンツはインドで購入した200円のぺらぺらのもの。上はタンクトップ、シャツ、寒くなったらゴア防水ジャケットを着るという具合。暑くなったら全ての上着を腰に巻いていくのだ。岡本さんは帽子は防水のゴアがいいと言ってたけど、松田の帽子は友達からもらったデニムのハットで、特に防水とかゴアではなかった。キリマンジャロはシンプルに、昼間は暑く、夜は寒い。乾燥しているので、汗だくになるという印象はなかった。
先ほどの水浴びによる頭の痛さも治まってきて、ダイニングで岡本さんとお茶を飲んでいるととなりで外国人グループと楽しそうに話す日本人男性が見えた。
「写真を撮ってー」
といわれたので、外国人グループと彼にフォーカスを合わせてシャッターを切る。
「僕はカタツムラ。学生です。」
彼は2ヶ月間のヨーロッパ、アフリカ縦断旅の途中らしい。
ノルウェーから南下して来たとのこと。
「さっきしゃべっていた中に南アフリカのやつがいて、次はそいつの所に泊めてもらえることになったよ。」
カタツムラ君はこれまでに40カ国以上を巡っている旅の上級者、強者だ。
異国の道端で見知らぬおじさんが汚い手でむしり取った果物を「食べろ」と言われれば「食べる」そんな人だった。目の前で起こる出来事は全て一旦裂けずに通るようにしているらしい。カタツムラ君をかっこいいと思った。
そんな挑戦的な彼だが、黄熱病予防のイエローカードをドイツで取得し、マラロンを服用し、A型肝炎の予防もしていて予防を怠っていないところがまたいい。しめて4万円程度。しめるところは締めるのが大人のたしなみだ。年齢の話になり、学生で若々しい彼はその風貌とは裏腹に38歳だということで、ものすごくびっくりしたが、彼の世界旅行話がおもしろすぎて、夢中で聞き入っていた。そんな時アストンが興奮気味にドアを開けた。
「みえるぞ!!」
ダイニングハットを出ると雲が晴れた空が広がり、念願のキリちゃんが顔を出していた。
3人は同時にさけんだ。
写真だととても遠くに見えるけど、松田の目にはとても大きな山が映っていた。松田はこの山を見るために、そして描くために遠く離れたこの地まではるばるやってきたのだ。もちろんすぐにペンを取り出し、雲で隠れる前にスケッチした。アストンの言ったとおり、夕方キリマンジャロを拝むことができた。
カタツムラ君はその翌日にスケジュールを前倒しして、ここからウフルピーク(山頂)を目指すらしく、次の日は朝4時起きなのだそうだ。
さすがに明日に差し支えるだろうということで、募る話を強引にストップしてダイニングを出た。すると、、、
「おおー!!!!!」
夜空には見たことのない星空が広がっていた。