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『真面目なエッセイ』ああ、もう秋だな<今日は何の日?>

ああ、もう秋だな。
だって、6月30日は「夏越しの祓え」。翌7月1日から秋になるので、夏越なごし、夏を越えるという。なので、もう秋。かの西行もこんな歌を詠んでいる。

    水無月祓へ
みそぎしてぬさ切り流す河の瀬にやがて秋めく風ぞ凉しき

『西行全歌集』 岩波文庫/山歌集(上)夏 より

ちなみに「夏」の項はこの歌がラストで次から「秋」になり、その最初の一首がこちら。

    山家初秋
さまざまのあはれをこめて梢吹く風に秋知る深山辺みやまべの里

『西行全歌集』 岩波文庫/山歌集(上)秋 より

うん、風も涼しくなって・・・じゃないっ! 秋どころかやっと梅雨に入ったというのに。
日本の暦は情緒があって美しいけれど、陰暦でいうところのそれとはどうしてもずれが生じる。特に最近の気候とはますます合わなくなってきた。四季の名前も2ヵ月くらいずらすべきでは、ともおもってしまう。


水無月は水の無い月ではない

「夏越しの祓え」は別名「水無月祓え」とも言う。ネットで「水無月」で検索すると最初に和菓子が出てくるけれど(は、僕だけか?)、水無月というお菓子は僕は知らない。平安の昔、何でも宮中では氷を食べるのに庶民の口には入らなかったから、白いういろうを氷に見立てたのだとか。
お菓子の「水無月」についてはこちらの記事がお詳しい。

ここでちょっと疑問。宮中で食べていたものについて、庶民もそんなによく知っていたのか? だって、見てないとわかんないでしょ。しかも削る前の固形の氷。ただ冬のあいだに氷室に氷を入れたり、夏、氷室から宮中に氷を運んだりした人が、その作業の様子を話したってことは考えられるかも。でないと、

「道長さん、氷食ってるべ」
「おらがたも食いてぇなや」
「無理だべ、そりゃ」
「だば、ういろうでこしらえっぺか」
「そりゃあええ考えだな」

とはならないとおもう。

ところで、ういろうというと名古屋近辺ではやはり、

白黒抹茶、上がりコーヒー、ゆず桜

だろう。若い人は知らないかもしれない。
そもそも「ういろう」という食べ物自体、僕は名古屋だけのものだとおもっていた。で、上記は名古屋の和菓子の老舗、青柳総本家が「青柳ういろう」のTVCMで流していたCMソング。
実はこの「上がり」を僕は「あずき」と記憶していて、調べてみるとどっちも正しいらしい。要は使われていた年代の違い。ちなみに「上がり」はこしあんのことだそう。昭和34年の、現上皇陛下のご成婚の際に献上されたのが最初で、おそらくその元は、江戸時代に尾張徳川家に献上された、羊羹よりもっと柔らかいこしあんのお菓子からきている。献上する=差し上げる、で「上がり」。
黒は黒砂糖で、僕はういろうの黒砂糖はあまり好きではなかった。

もひとつちなみに(そう言えば、タレントの鈴木ちなみさんは岐阜県出身だったな。今はどこやらの国にいらっしゃるようだけど)、名古屋のういろうと他県のういろうとは微妙にモノが違うらしい。

さてこの話もここで「上がり」。


・・・えっと、何だったっけ?


そうそう、水無月。
いろいろ説があるけれど、みなづきの<な>は<の>=格助詞で、<水の月>。6月は田植えの季節で水が必要になるからだという。<無>はないことではなく、おそらく<な>の当て字。なので<水無し月>ではない。

水無し川も昔はそうさ
空にとどけとさかながはねた

「水無し川」作詞:松本隆 作曲:吉田拓郎

の水無しとは違うのだ。

10月の<神無月>の<無>も同じで<神の月>。とすると、地方の神様が出雲に集まるという話はどうなる? 旺文社の古語辞典によるとそれは俗説で、<神の月>=<神祭りの月>が正しいのでは、とのこと。そう言われると、10月は各地で秋祭りが行われるのに肝心の主役(神様)がいらっしゃらないのでは話にならない。

村の鎮守の神様の
今日はめでたいお祭り日

「村祭り」文部省唱歌 より

などと歌っても意味がないのだ(もっとも最近では鎮守の森も減ってきたので、神様もやっぱり居辛かろう、とはおもう)。


6月30日は金子光晴忌

ところで昨日(2024年6月29日)、作家の梁石日やんそぎる氏が亡くなられた。昔、在日朝鮮人の友人がいて、決して他人事とはおもえなかった。こうしてまた心に残る忌日が増えてゆく。

6月30日は戦争に異を唱えた詩人、金子光晴の忌日。

戦争とは、たえまなく血が流れ出ることだ。
そのながれた血が、むなしく
地にすひこまれてしまふことだ。
僕のしらないあひだに。僕の血のつづきが。

『日本の名詩』 大和書房/7「戦争と平和⎯反戦・反軍 戦争:金子光晴」より

こんな詩を口ずさみながら、戦争について、少し考えてみようか。


6月30日は夏越しの祓え、光晴忌。

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