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新型コロナ後遺症による嗅覚・味覚異常、どうしたらよいか

こんにちは、ミネソタよりコーイチがお届けします。

新型コロナウイルス感染症は後遺症が問題になっています。
その中でも味覚嗅覚の異常が特徴的であるということで注目されてきました。同時に、コロナウイルスの神経系や認知機能に対する影響は非常に難解で、研究が遅れているところでもあります。
この度、質問をいただきました。

「味覚や嗅覚がない状況が続くと、食べ物への欲も薄れちゃうんですか」

これに関しては、はい、その可能性が高いです。というお返事になります。では味覚・嗅覚の異常はどうして起こるんでしょうか?どのような影響があるでしょうか?どうしたらよいと考えられるのでしょうか?

今回はここから、新型コロナウイルスの嗅覚・味覚異常に関して、現在わかっていることとわからないことなどを含めてまとめたいと思います。
※僕は医師ではなく、あくまで医学研究をしている博士の個人的見解として読んでいただけますと幸いです。健康に心配がある場合は医療機関に早めにご相談を!

COVID-19による嗅覚・味覚異常

COVID-19新型コロナウイルス感染症患者において嗅覚(におい)異常が起こったという割合はかなり高く、アメリカでは8割近くで見られたということです(参考資料1)。ただし多くの場合60日以内に回復しているとのことです。
一方で、2021年末のアメリカにおける資料ですが、”6ヶ月以上”の嗅覚障害を起こしたと推定される新型コロナウイルス感染症の患者人口は70万人から160万人に上るとされています(参考資料2)。40代の感染者の中では4.2%、80代では39.4%に上ります。
しかもこれは報告が上がっている数からの計算なので、実際にはもっと多いと予想されています。
嗅覚に異常をきたすと、その機能上、密接に関わりのある味覚にも影響があります。風邪をひいて鼻が詰まっている時、味が感じにくかったという経験がある方も多いと思います。

一方で、今年の後半では多くのウイルスがオミクロンに置き換わっていますが、こちらは当初のコロナウイルスに比べて嗅覚や味覚の異常を起こす割合が約3分の1程度に落ちていることが報告されています(参考資料3)。それによっていわゆる普通の風邪と判別しにくくなっているので注意が必要です。(喉の痛みに関してはひどくなっているようです。)
ただしオミクロンの亜種と言えるBA.5では再び嗅覚の異常を訴える人が増加しているようです。ですので、引き続き注意が必要ということになります。

では、どうしてウイルス感染で嗅覚や味覚の異常が生じるのでしょうか?

ウイルス感染による嗅覚・味覚異常のメカニズムは不明

ウイルス感染による味覚や嗅覚の異常は新型コロナ以前からよくあることです。風邪をひいた時に鼻が詰まっていて、なんだか味が変に感じる、美味しく感じないと言うことは多くの人が経験していると思います。味覚や嗅覚はとても繊細で複雑なメカニズムによって生じているのですが、実はウイルス感染による味覚・嗅覚異常のメカニズムというのはこれまでよくわかっていませんでした。

2020年にはすでに、鼻の粘膜の細胞にはコロナウイルスが感染しやすそうだ、ということがわかっていました。
※少し詳しく言うと、コロナウイルスが細胞に侵入するのに必要なACE2という受容体タンパクを比較的多く発現しているということです(参考文献4)。

今年の2月、有名な科学誌Cellに掲載された論文がメカニズムに関して報告しています。それによると、「嗅覚を担当する神経細胞の働きが妨害されている」ということです(参考資料5)。実はこれまで、嗅覚の神経にはウイルスが直接感染して影響を及ぼすのは難しいとされていましたが、ウイルスが感染できる細胞がすぐ近くに存在していたのです。まずはその細胞に感染して炎症反応を引き起こし、結果として嗅覚に関わる神経まで妨害されているということがわかってきました。つまり、かなり複雑なメカニズムがそこにあるわけです(これが新型コロナ以外のウイルスによる嗅覚異常でも共通かは不明)。

メカニズムの解明はまだ少しずつ、というところです。

嗅覚・味覚異常による影響

味や匂いがわからなくなるということは、生活の質の低下と、栄養摂取の障害に直結すると言えます。

嗅覚や味覚が衰えると、食事に魅力がなくなります。それによって食べる量が少なすぎると、栄養失調や脱水症状、不健康な体重減少の危険性があります。味覚を感じにくい状態で味つけをすると、砂糖や塩を入れすぎてしまうことがあります。これは糖尿病や高血圧のリスクを高める可能性があります。
また、うつ症状にも関連があることが報告されています(参考資料6)。

それらに加えて、例えば食べ物が傷んでいることに気づかないかもしれず、食中毒のリスクが上がったり、煙の匂いやガスの匂いに気づきづらくなることで、火事などのリスクも上がったりする可能性があります。

どんな人が後遺症が残りやすいか、まだ不明な点が多く残されていますが、現在多くの知見が集まりつつあるところです。また、後遺症が長く残るのは重症化した場合に多いですが、逆に軽症であっても長く症状が残る方もいます。その違いがどこから来るのか、どうして重症化する人としない人がいるのか、そういったメカニズムの解明はまだまだこれからです。
引き続き、新しい知見が集まってきたら、改めてお伝えしたいと思います。

食事をより楽しいものにするには

食欲が減って食事が楽しめなくなると、生活の質に大きく直結してきます。食欲がなくなって栄養が偏ると別の健康上の問題も発生してきてしまいます。
残念ながらメカニズムがはっきりしない以上、薬などでこの症状に対処するのは医学的に難しい状態です。

ではどういう対処法があるかというと、僕の所属しているメイヨークリニックの発行している記事では嗅覚トレーニングというものが紹介されています(参考資料7)。

「クローブ、レモン、ユーカリ、ローズを用意します。この匂いを1日2回、15秒間、数週間から数ヶ月間、嗅ぎ続けてみてください」

Mayo Clinic Minute: Hope for COVID-19 patients who’ve lost their sense of taste, smell

(本当かよ…と思いますが、これによって味覚と嗅覚に改善効果があったという論文が2009年に報告されています。参考資料8

神経細胞は「可塑性」といって、何歳になっても新たに回路を作る力があります。つまり、強烈な匂いを嗅ぐことで、新しく感覚神経を教育する、ということになります。
(とはいえやはりこれも医師の指導のもと行うのがいいでしょう。)

より一般的な、身近にできる対処法に関しては、米国クリーブランドクリニックの記事を例にお伝えします(参考資料1)。

(1) 味の強めの食材(チーズ、ベーコンなど)を少量料理に加える。
(2)香りのあるハーブや調味料、スパイス(塩を避ける)を使って、風味をアップさせる。
(3)食感や色のバリエーションを増やす。

Cleveland Clinic: Loss of Taste and Smell

ポイントは、塩分の摂りすぎを避けることです。そのためにはスパイスやハーブなどを利用して味にアクセントをつけることが基本になります。
そして味というのは味覚そのものだけではなくて、食感や色(触覚や視覚)からの情報も頼りに脳の中で構築されます。そのため色や食感にバリエーションをつけて食べるというのも結構重要です。

後遺症が長期化してしまっても、嗅覚や味覚の異常は95%の人が1年以内に治っていくとも言われています。美味しく食事するというのは、人生においても幸福度に大きく作用するものだと思いますので、ぜひウイルスに負けないぞ、という気持ちで自分なりの食事法の工夫を試してみてください。それによって新たな美味しい食べ方、健康的な食事にたどり着けるかもしれません!

あとがき

ここまでお話ししてきましたが、前提としてコロナ後遺症って何でしょうか?
それはコロナ感染後に出てきた症状を指すものですが、「他の病名で説明されないもの」というところが大事なポイントです。つまり、コロナの後遺症だ、と思っていたものが実は他の病気によるものだった、ということだと問題です。

コロナ後遺症には様々なものがあるので、それによって他の病気が隠れてしまうと、治療方針も違うかもしれませんし、別の病気の発見が遅れるかもしれません。

ですので、どうしても異常が目立つ、気になるという場合は適切なお医者さんの診断と指示に従ってください。
そのことは留意しておく必要のあることです。

参考資料

1)Cleveland Clinic: Loss of Taste and Smell
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/16708-loss-of-taste-and-smell

2)Khan AM, Kallogjeri D, Piccirillo JF. Growing Public Health Concern of COVID-19 Chronic Olfactory Dysfunction. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2022;148(1):81–82. https://doi.org/10.1001/jamaoto.2021.3379

3)Boscolo-Rizzo, P, Tirelli, G, Meloni, P, et al. Coronavirus disease 2019 (COVID-19)–related smell and taste impairment with widespread diffusion of severe acute respiratory syndrome–coronavirus-2 (SARS-CoV-2) Omicron variant. Int Forum Allergy Rhinol. 2022; 1– 9. https://doi.org/10.1002/alr.22995

4)Sungnak, W., Huang, N., Bécavin, C. et al. SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes. Nat Med 26, 681–687 (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0868-6

5)Zazhytska, Marianna et al., Non-cell-autonomous disruption of nuclear architecture as a potential cause of COVID-19-induced anosmia. Cell, Volume 185, Issue 6, 1052 - 1064.e12 https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.01.024

6)Ilona Croy, Steven Nordin, Thomas Hummel, Olfactory Disorders and Quality of Life—An Updated Review, Chemical Senses, Volume 39, Issue 3, March 2014, Pages 185–194, https://doi.org/10.1093/chemse/bjt072

7)Mayo Clinic Minute: Hope for COVID-19 patients who’ve lost their sense of taste, smell
https://newsnetwork.mayoclinic.org/discussion/mayo-clinic-minute-hope-for-covid-19-patients-whove-lost-their-sense-of-taste-smell/

8)Hummel, T., Rissom, K., Reden, J., Hähner, A., Weidenbecher, M. and Hüttenbrink, K.-B. (2009), Effects of olfactory training in patients with olfactory loss. The Laryngoscope, 119: 496-499. https://doi.org/10.1002/lary.20101

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