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【詩】瞬き(作:小林亀朗)

夜が明けたとき
少年は
空の青さを知りました
茶色い殻を破った蝉が
夏の暑さを知るように
窓の外では鹿が鳴き
朝餉の支度の音がする
ぎいこりぱたんとんとととん
鹿の親子が草を食む
つれない霧がおしゃべりをした

散歩に出かけ
少年は
空っぽな気持ちを知りました
鳥籠の中にいた鳥が
空の広さを知るように
どんぐりがあんまり囃し立て
幽霊のようにつきまとう
ぱちぱちぱちちぱちぱちち
どんぐりたちを踏み潰す
見えない冬が風邪をひいてた

家に帰ると
少年は
ベッドのぬくさを知りました
生まれたばかりの猫たちが
夢の見方を知るように
山と裸の桃の木へ
雪虫たちが積もってる
はらはらふわりはらふわり
雪虫たちが説得し
曇天は雪を降らすのを諦めたようです

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