経過勘定の整理と計算問題の解き方

経過勘定の理屈を整理するとともに、計算問題の解き方を提案します。


はじめに

経過勘定は、簿記の学習を「ルールの習得」から「理屈の理解」に変化させることに適した題材です。経過勘定に関する会計処理をパターン化した何個かのルールを暗記するよりは、「発生主義」という一個の理屈を理解した方が簡単なためです。

とはいえ、経過勘定の「発生主義」という核心の部分はともかく、発生主義による収益費用の認識を達成するための仕組みを理解することは、決して簡単なことではないとも思います。この記事では、前半はそのあたりの論点を含めた経過勘定に関する処理を行う会計上の理由を、後半は計算問題の解き方を考えます。計算問題の解き方だけに関心があるという方は、該当の項目まで飛ばして下さい。

経過勘定とは何か

企業会計原則には、以下の定めがあります。

すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。(注5)

企業会計審議会「企業会計原則」(第二・一A)
※企業会計基準委員会「会計基準検索システムASSET-ASBJ」で参照できます。

前段の本文を「発生主義の原則」、ただし書きを「実現主義の原則」といいます。後段については、企業会計原則注解5は「経過勘定項目について」と題して、これらの各勘定の定義と説明を行っています。そのため、ここで挙げられた4つの勘定を、一般に「経過勘定」といいます。

この定めは、全体としては「発生主義」による会計処理を求めるものです。

現金主義と発生主義

収益費用の認識を、現金収支(キャッシュフロー)をもってする考え方を「現金主義」といいます。

企業会計の一般的な計算期間(会計期間)は1年ですが、この会計期間を「企業の設立から清算までの期間」とした場合は、その期間の純利益は「投下した資金」と「回収した資金」の差額となります。あらゆる資産を投資のリスクがないもの(現金)に替え、あらゆる負債を返済した後に残る金額であり、これをネットキャッシュフロー(正味の現金収支)ともいいます。つまり、企業の存続期間を区切る必要がなければ、収益費用は「現金主義」によって測定できます。

しかし、今日の企業は、清算まで純利益計算を保留することはありません。企業は投資家や銀行等から資金調達を行い、その対価として配当や利息の支払いを行い、その事業活動の経過を報告する必要があります。企業を規制する会社法は、事業年度ごとの計算書類等の作成と公告を要求しています。租税に関しては、例えば、法人税法は最長でも1年ごとの確定申告書の提出と納税の義務を課しています。

このように人為的に区切られた期間を会計期間とする場合は、各期のネットキャッシュフローは、必ずしも企業の活動を反映するものではなくなります。現金主義は、収益費用を「現金の変化」のみによって捉えようとする考え方であり、企業の信用取引や投資に関する一連の活動を反映させることができないためです。商品を仕入れたものの、まだ売り上げていない場合のその期末商品すらも認識できません。

こうした問題を解消し、企業の活動をより適切に捉えるために考え出されたものが「発生主義」です。発生主義のもとでは、収益費用は、現金の変化ではなく、企業が有する経済的資源や義務の変化(資産負債の変動)によって認識されます。商品を売り上げた場合は、現金や売掛金といった資源が生み出されることによって収益(売上)が認識されます。それに対応して、その商品という資源が消費されることによって費用(売上原価)が認識されます。固定資産についても、収益を得るために当期に消費した価値の分だけ資産が減価し、それに見合った費用(減価償却費)が認識されます。

ちなみに、現金の変化にこだわらない発生主義ではあっても、収益費用が現金収支に枠付けられているという事情は同じです。そのため、各会計期間の純利益の合計をとっていけば、最終的には存続期間全体の純利益であるネットキャッシュフローになります。これを「一致の原則」や「合致の原則」といいます。この関係は、日本基準においては「利益」を測定するうえでの基本的な制約とされています(財務会計の概念フレームワーク第3章10)。

経過勘定の役割

収益費用を発生主義に基づき、発生した期間に正しく割り当てることを「期間帰属」といったり、期間帰属の処理がなされた損益計算を「適正な期間損益計算」といったりします。企業会計原則以来の日本基準は、人為的に区切られた期間において、いかにして「適正な期間損益計算」を行うかということを重視してきました。

この考え方は、日常取引の会計処理にも反映されています。売上や仕入れを掛けで行った場合に、売掛金や買掛金といった債権債務を相手勘定として収益費用を計上するのは、発生主義の考え方による処理です(債権債務を相手方として収益費用を認識する考え方を「半発生主義」という場合もあります)。一方で、日常取引を現金主義の考え方で記帳する取引も存在します。その代表が「継続的な役務提供契約」に基づく取引です。

企業会計原則注解5は、経過勘定を計上する要件として、以下の2点を挙げています。

  1. 一定の契約に従い、継続的に役務の提供を行うか、又は受けている。

  2. 役務の授受と、対価の受払いが一致していない。

1のような契約を「継続的な役務提供契約」といいます。「継続的にサービスを授受する契約」という意味であり、以下のようなものがあります。

  • 電気、ガス、水道の供給契約

  • 物件の賃貸借契約

  • 金銭消費貸借契約(利息を対価とした金銭の貸付けや借入れ)

  • 保険契約

  • 労働契約

簿記の問題としてよく取り上げられるのは家賃、貸付金や借入金の利息、保険料といったものですが、水道光熱費、通信料金、賃金給料、社会保険料といったものも経過勘定による処理の対象になります。逆に、サービス契約でなかったり、サービス契約であっても単発的な契約である場合は、経過勘定による処理の対象にはなりません。

サービスは、それを授受した「瞬間」を切り取れば、商品のような「財」と同様に、経済的資源(資産)として捉えることができます。これは現在の収益認識基準でとられている考え方ではありますが、サービスには元々なじみにくいものです。さらに、サービスが継続的に提供されているという条件が加わった場合は、そのサービスの授受に応じて経時的に収益費用を認識していくことは、より困難になります。例えば、水道光熱費や家賃を、日々の発生に応じて計上していくことは現実的ではありません。

そのため、継続的な役務提供契約については、期中においては対価の受払いによって収益費用を計上し、期末の決算整理でそれを発生した金額に調整するという方法がとられてきました。

計上と再振替仕訳

継続的な役務提供契約に関する収益費用について、発生主義による認識を達成するためには、具体的には、以下の会計処理が必要になります。

  • 対価の受払いに応じた収益費用の計上(期中仕訳)

  • 経過勘定項目の計上(決算整理仕訳)

  • 経過勘定項目の消滅(再振替仕訳)

経過勘定というと決算整理に注目しがちですが、実際はこれらの会計処理のうちどれが欠けても、発生主義による収益費用の認識は達成できません。

このうち「経過勘定項目の計上」は、「収益費用を発生主義によって認識したとした場合に、期末日時点で債権債務となっている金額を、資産負債として計上する」という処理です。期末日時点では、前払費用や未収収益のような経済的資源(債権)は資産であり、未払費用のような義務(債務)は負債です。前受収益は、金銭的な債務ではありませんが、対価の前払いを受けたことによって発生した「サービスを給付する義務」(債務)と理解されています。経過勘定項目として資産負債を計上すれば、それに見合う分だけ収益費用が増減します。

なお、経過勘定項目の計上については、「収益費用を発生主義によって認識したとした場合に、当期に帰属する金額に一致するように、収益費用そのものを調整する」といったような理解がされる場合もあります。この理解については、後述する妥当性についての疑問は置くとしても、長期の契約では(詳細は省きますが)注意を要する面があることや、再振替仕訳の重要性を軽視させる面もあるため、あまりおすすめはできません。

経過勘定とこれに対応する収益費用は、当期末において計上した後は、必ず再振替仕訳によって消滅させる必要があります。再振替仕訳により契約期間全体においては経過勘定項目の計上による影響は消去され、対価の受払いに応じて計上された収益費用(期中仕訳)のみが残ります。発生主義による収益費用の合計をとっていけば、最終的にはネットキャッシュフロー(受払いした対価)になるという関係と同じものです。

企業会計原則は、再振替仕訳を行うべきタイミングについて特段の定めを置いていませんが、経過勘定は貸借対照表に経過的(一時的)に計上されるものであり、翌期首に直ちに消滅させるべきものと理解されています。

ただし、企業によっては月次決算の都合上、再振替仕訳を行わず、一般的な債権債務勘定と同様に、いったん計上した経過勘定をそのまま計上しておく場合もあります。例えば、毎月100円のサービスの対価を1年後に支払う場合に、時間の経過とともに100円、200円と増加していく未払費用の計上と再振替仕訳の処理を毎月行うのではなく、毎月100円の未払費用を順次計上していくという運用方法です。ここでは再振替仕訳の影響を考慮する必要がないため、「当月に帰属する金額に一致するように、収益費用そのものを調整する」という考え方によったとしても結果的に不都合は生じません。

見越しと繰り延べ

経過勘定項目の処理は、伝統的に「見越し」「繰り延べ」と表現されてきました。英語圏では、未払費用と未収収益は「発生(accrual)」した収益費用を表す資産負債、前払費用と前受収益は「繰り延べ(deferral)」の処理が行われた収益費用を表す資産負債としてそれぞれ説明されるようです。

企業会計原則は、経過勘定項目に関して「見越し」「繰り延べ」という表現を使用していません。ただし、企業会計原則注解5は、経過勘定項目の処理により損益計算に加除し、資産負債に計上されるべきものは「役務に対する対価」であると明記しています。そのため、「見越し」「繰り延べ」を企業会計原則に枠付けられた形で使用するならば、その主体は「役務に対する対価」でなければなりません。しかし、実際は「見越し」「繰り延べ」の主体は「収益費用」そのものであると理解している方が大半だと思います。本来、発生主義のもとでは、収益費用の「発生」の時点は一意的に定まるものであり、「見越し」「繰り延べ」によって操作するものではありません。それにもかかわらず、このような考え方が(妥当性はともかくとして)成立するのは、継続的な役務提供契約に関する収益費用が、期中においては現金主義という発生主義とは異なる考え方で認識されるためです。

この点について、日本商工会議所は、平成31年(2019年)に向けた出題区分表の改定で、「見越し」を「収益・費用の未収・未払い」に、「繰り延べ」を「収益・費用の前受け・前払い」にそれぞれ変更しました。その趣旨について、以下のように説明しています。

(改定内容)「収益・費用の繰延と見越」を「収益・費用の前払い・前受けと未収・未払いの計上」に改めた。
(改訂の趣旨ならびに検定試験への反映)繰延と見越は3級受験者にとって考え方を理解しにくい論点である。また、特に見越という用語の使い方が受験者の理解を妨げる一因になっていることが危惧される。そこで、項目名の記載を改めることとした。今後の出題においても見越という表現を極力避けることとする。

日本商工会議所「商工会議所簿記検定試験出題区分表などの改定について」(平成30年4月2日)

改正内容が単純な言い換えであることからも分かるように、これらの表現が意図するところは同じです。ただし、日本商工会議所が「考え方を理解しにくい」「使い方が受験者の理解を妨げる一因になっている」と判断した理由の詳細は分かりませんが、「見越し」「繰り延べ」という表現には、前述のように曖昧な部分があることも事実ではあります。

企業会計原則が「見越し」「繰り延べ」という表現を使用していないのは、収益費用を主体とした調整という考え方(又はそのように解釈させる可能性がある表現)によって、「期末日時点で債権債務となっている金額を、資産負債として計上する」というシンプルな要求を、かえって煩雑なものにしかねないためではないかと思います。

実務的な処理方法

継続的な役務提供契約の対価を正しい期間に割り当てることは、月末締めの請求であれば難しい話ではありません。しかし、水道光熱費は月中の中途半端な時期に検針日があり、その検針日が月によって前後したり、基本料金と従量料金の別があったりするため、期間帰属を厳密に考えようとすると相応に面倒な話になります。経過勘定の話ではありませんが、収益認識基準の審議においても、電気会社やガス会社が検針日基準による収益認識を認めるように要望していたという話がありました(結果としては検針日基準は認められず、合理的な見積りをすることが必要とされました)。

一方で、継続的な役務提供契約の対価は、(現在のような物価上昇局面においては当てはまらなくなる場合もありますが)請求ごとにそれほどは大きく変動しないといった特徴もあります。

こうした実務上の煩雑さや重要性の観点から、企業会計原則注解1は、以下のように定めています。

重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも、正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。

企業会計審議会「企業会計原則注解」(注1)(抜粋)

「経過勘定項目として処理しない」という表現は、2通りに解釈できます。

一つは、期中の現金主義による収益費用を、発生主義による収益費用に調整しなくてもよいという解釈です。経過勘定をどこまで厳密に立てるかについては、費用対効果の要素も関係します。製造業のような原価計算上の必要がある場合は、担当者が継続的に検針をしたり、稼働日割計算をしてでも、厳密な実際発生額を算定すべきかも知れません。一方、中小企業で原価計算をする必要がない業種であれば、この重要性の原則を適用したり、検針日時点で確定した債権債務(実際に請求があった金額)をその検針日が属する会計期間に発生した金額とみなすといった折衷的な認識基準によってもよいかも知れません。

もう一つは、収益費用の調整は行うものの、経過勘定に特有な勘定科目は使用せず、一般的な債権債務勘定を使用してもよいという解釈です。企業によっては、未払いの電気料金を、未払費用ではなく(おそらく請求に応じて)買掛金で立てる場合もあります。このような処理は特に間違いともいえず、金融商品取引法の財務諸表等規則でも認められているものです(財務諸表等規則ガイドライン47-2)。

反対に、前述のように、経過勘定を使用していても、再振替仕訳を行わないために、その運用方法が一般的な債権債務勘定となんら変わらないという場合もあります。

法人税法上は、継続的な役務提供契約について計上した前払費用のうち、支払日から1年以内にその支払いに対応する役務の提供の全部を受けるものについては、継続適用を要件として、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入してもよいとする特例があります(法人税法基本通達2-2-14)。税法会計に従う場合が多い中小企業においても、この特例に準じた会計処理が認められています(中小企業の会計に関する指針31(2))。前払いの家賃や保険料といったものが対象となる特例ですが、これを適用している中小企業も多いと考えられます。

経過勘定の問題の解き方

経過勘定に関する計算問題を解くために確認すべき事項を、ここでは以下の4点に整理します。

  1. 経過勘定項目のサイクルに関する理解

  2. 経過勘定項目となる契約と、対価や契約期間といった条件の確認

  3. 経過勘定項目の選択

  4. 月割計算(又は日割計算)

1については、経過勘定の役割は、決算整理項目として計上して終わりではなく、翌期首の再振替仕訳により消滅するところまでが一つのサイクルです。経過勘定の問題としてはだいたい計上時の処理が取り上げられますが、再振替仕訳はそれと同等に重要です。当期首の再振替仕訳が未処理といった形で、推定の材料にされる場合もあります。

2については、経過勘定項目となる契約の要件は、前述のように「継続的な役務提供契約」であり、かつ、「役務の授受と対価の受払いが一致していないこと」です。ただし、このような要件を満たす項目は、簿記の問題としては決算整理事項として(諸条件を含めて)呈示されるため、その識別をするための技能は必要ありません。

経過勘定の問題として主に問われるのは、3の経過勘定項目の選択と、4の月割計算です。

経過勘定項目の選択

企業がある継続的な役務提供契約に関して立てるべき経過勘定項目は、以下の2点の検討で一意的に定まります。

  1. 企業がサービスを提供する側なのか、提供を受ける側なのか

  2. 既に対価の受払いをしたのか、していないのか

これを図表にまとめると以下のようになります。

この図表からは、経過勘定は少なくとも「企業の立場」「対価の受払いの有無」「資産負債」の3つの基準によって分類でき、これらが見事なまでに入り組んでいることも分かります。「収益費用」による分類も考えられますが、これは「企業の立場」と一致します。

従来の「見越し」「繰り延べ」にせよ、現在の「収益費用の未収・未払い」「収益費用の前払い・前受け」にせよ、これらは期中における「対価の受払いの有無」による分類です。この分類は、経過勘定の意義や役割を説明するためには便利ですが、企業の視点からすれば、ある継続的な役務提供契約について、サービスの提供をする立場と、提供を受ける立場が混在することはありません。そのため、簿記の問題においても、最優先で適用すべき分類は「企業の立場」ということになります。「企業の立場」を固定させれば、当期の「対価の受払いの有無」によって計上すべき経過勘定項目は定まります。

経過勘定項目の選択についてややこしいと感じる部分があるとしたら、一般的な経過勘定の説明に使われる分類と、実際の簿記の問題で使うべき分類の差異を整理し切れていないために、本来必要のない検討をしてしまっているためではないかと思います。例えば、サービスの提供をする側の経過勘定の処理にあたって、サービスの提供を受ける側の立場を考慮する必要はありません。図表でいえば、下半分の検討は最初に切り捨ててしまって差し支えありません。

月割計算

ある継続的な役務提供契約について、サービスを提供するという義務を履行したり、提供を受けたサービスを消費したりすることは、必ずしもその契約期間を通じて均等に行われるとは限りません。ただし、簿記の問題ではだいたいこの仮定に基づいた月割計算が指示されます。

月割計算は「ある金額を、ある期間に含まれる月数に応じて均等に配分する」というシンプルな計算技術ですが、ここからさらにシンプルにすることができます。月割計算においては、1月あたりの対価の額は均等(つまり、共通項)と仮定されているため、各期間に対応する「金額」の検討は、各期間に含まれる「月数」そのものの検討に置き換えることができます。この意味で、月割計算は、月数計算が本体であるといえます。

以上を踏まえると、経過勘定項目を立てる際の月割計算に必要な計算基礎は、以下の3つとなります。なお、ここでの「契約期間」は、1回の対価の受払いに対応する期間という意味で使用しています。1回に6月分の対価の受払いをするのであれば6月、1年分の対価の受払いをするのであれば1年です。

  • 1月あたりの対価の額

  • 当期末までに経過した契約期間の月数

  • 当期末までに受払いした対価に対応する契約期間の月数

当期末までに経過した契約期間は、選択すべき経過勘定項目の別にかかわらず共通です。期末日時点の債権債務の算定が目的であるため、「当期に経過した契約期間」ではなく「当期末までに経過した契約期間」であることに注意して下さい。契約期間が1年以内であれば、経過勘定項目を立てる1年目の期末日において過年度の契約期間は存在しないため、この2つは同義です。

当期末までに受払いした対価に対応する契約期間は、対価の受払いがあった場合(繰り延べの場合)はその期間、対価の受払いがなかった場合(見越しの場合)はゼロです。よって、当期末までに経過した契約期間との差異は、それぞれ「将来の契約期間」と「当期末までに経過した契約期間」を意味します。

経過勘定の問題は、対価の受払いの有無によって経過勘定項目として処理すべき対価の中身が変化し、これは債権債務の分類とも整合しません。金額ベースでその対価が意味するところを含めて整理しようとすると極めて煩雑に話になりますが、上記のように月数ベースの検討に置き換えると、結局は2つの月数の差異に単純化することができます。

これらの計算基礎を使って「経過勘定項目として処理すべき対価」を算定する過程をまとめると、以下の通りです。

この図表は、以前の記事でもご紹介したワークシート方式(又はスプレッドシート方式)による計算表です。必要な情報は黒字で示した3つで、グレーで示した部分はこれらの3つの計算基礎によって機械的に計算することができます。

ワークシート方式の計算表については、日本商工会議所が提供しているサンプル問題を題材に、運用方法を例示します。

サンプル問題を題材にした検証

日本商工会議所が日商簿記検定の受験者向けに提供しているサンプル問題のうち、3級の第2問(1)サンプル3が経過勘定を取り扱っています。この問題は物件の賃貸借契約(家賃)を題材にしたものですが、単なる経過勘定項目の計上の処理だけでなく、経過勘定のサイクルである再振替仕訳が盛り込まれています。

月割計算に必要な計算基礎に関する検討は、以下の通りです。勘定記入の説明については省略します。

  • 企業はサービスを受ける側(費用認識する側)です。

  • 期首の前払家賃400,000円は4月分の対価の額であるため、値上げ前の1月あたりの対価の額は100,000円です。

  • 値上げ後の1月あたりの対価の額は100,000円×1.1=110,000円(又は660,000円/6月=110,000円)です。

  • 2月支払い分の契約期間は6月、そのうち当期末までに経過した契約期間に属する月数は2月です。

以上をワークシート方式の計算表にあてはめると、以下の通りです。

受払いした対価は6月分、当期末までに経過した契約期間は2月であるため、差し引きの4月分が経過勘定項目として処理すべき対価に対応する契約期間となります。これに1月あたりの対価(110,000円)を乗じると、経過勘定項目として処理すべき対価(△440,000円)が算定できます。

このワークシート方式の計算表は、符号の都合上、本来は「対価」を主体にした金額を算定すべきところを、「収益費用」を主体にした金額を算定するように意図的に構成しています。そのため「経過勘定項目として処理すべき対価」は、プラスであれば収益費用を加算し、マイナスであれば収益費用を減算する金額とみて処理を行います。この場合の△440,000円は費用(支払家賃)からみた場合の減算項目であるため、支払家賃を減額し、その相手勘定として資産(前払費用)を計上します。

参考として、同じ条件、及び対価の受払いがないこと以外は同じ条件として4つの経過勘定項目を立てる場合について示すと、以下の通りです。

受払いした対価に対応する契約期間が長期に及ぶケースとして、同じサンプル問題のうち2級の第3問サンプル2の決算整理事項7について、4年分の会計処理を示すと、以下の通りです。他の勘定科目と異なり、前払費用については企業会計原則の定め(第三・四(一)A)により流動固定の区分が必要となりますが、その区分のための振替処理等は省略します。

最後に、月数計算については、数直線等で視覚的に整理する方法も有効ではありますが、1年以内の契約期間であれば指折り計算で数え上げた方が遥かに速くて確実です。最初に取り上げた問題であれば、2月、3月と2月分の指折り計算をするだけであり、手を開けば即座に検算に移行することもできます。また、電卓を使った方法として、満了月(3)から起算月(2)を控除して1を加算する(マイナスになる場合は、さらに12を加算する)(3-2+1=2月)という方法もあります。

いいなと思ったら応援しよう!