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【信州】いいりんごです。でも青いりんごの取材は嫌いです~私の取材旅行記~

食品に関する取材のお仕事をしていた頃に書き留めておいたメモを手直ししてnoteします。今回は1999年7月の信州への旅から風景記です(お店の名前や料理、地域名、栽培方法など記事の内容は当時のものです)。


梅雨の晴れ間。
長野県北部にある飯綱高原。
りんごの里『三水村』を見下ろす丘の上。
初夏のさわやかな風が吹き抜ける。
ピンポン玉程の実を付けたりんごの枝は、透明な空気の中でサワサワサワと揺れていた。

「見た目が良くないからね」

「今年は凍害でサビ果がでているんだ。サビ果は皮を向けば何ともないけど、見た目が悪いからね」
三水フルーツセンターの指導主任さんは言う。

りんごの花が咲きほこっていた4月10日。
午前2時頃から気温はぐんぐん下がり、3時を過ぎて氷点下5度前後になったそうだ。
そのため花の子房の表面が凍りついた。
これが成長して実になると、表面がザラついた感じになるという。
取材に訪れたのは、その日から3か月後の7月10日。
私の見た目では全くわからないが、ここからの成長の中で見えてくるらしい。

りんごの木には、一枝に2個から5個のりんごが成っている。
直径6センチ程の青いりんご。
外側の日光に当たるほうが、ほのかに赤味を帯びている。
「あと2か月くらいかな」と野崎さん。
今からの季節には台風による落果が恐ろしいという。

一年中作業が続く

冬の雪の中で整枝作業。
実をつける枝を決め、樹形を整えるのである。

花の頃は摘花作業。
りんごの花は5つ程がまとまって咲く。
それを中心花だけを残して摘み取る。
これをやらないと葡萄のような小さな実が5個まとまって付いてしまうそう。

実になると摘果作業。
摘花で取り残し、実になってしまったものやキズの着いた実を取り除く。
枝毎に実の数の調整を行なうため。

そして収穫作業となるが、その間に農薬を散布しなくてはならない。
一般的には15回程度の農薬散布だそうだが、三水村では12回をメドにしているという。
実験的にもっと減らして栽培している農家もあるそうだが、収穫できない年がでるそうだ。
実際に案内してくださったりんご部会の副部会長さんも、その経験を持つお一人。
「消費者の人たちも農薬はいやだろうけど、わたしらも農薬はいや。コストもかかるし、散布する時は怖いからね」と言う。
しかし、やはり病気や害虫の影響を考えると、農薬ゼロにはできないと言う。

りんご・なかなかのモノだ

三水村のりんごの林に立つと、足元の草の中から、どっしりとした幹。
そこから広がる枝。
枝間から見える青空。
むこうにある斑尾山からおりて来る透明な風音…

…知恵と生命、誘惑のアダムとイブの林檎
死と再生の象徴の白雪姫の林檎
圧政に抵抗する父ウイリアム・テルと息子の信頼の林檎
地球に吸いよせられニュートンを有名にした林檎
ニューヨークは眠らないビッグアップル
戦後復興への元気を与えた、唇寄せた赤い林檎
アメリカンドリームの象徴、齧りかけの6色の林檎のコンピューター
若者と大人の間に山田太一のふぞろいの林檎
月曜9時のテレビドラマの中で真実の愛を映し出したガラスの林檎…

…人は洋の東西を問わず、歴史的に『りんご』が好きなのだと。

収穫の頃は美味くなるのだろうけど

三水村は晴天。
清々しい透明な風が林檎の林を吹き抜ける。
取材の途中、まだたまご程の林檎をいただきナイフで割る。
青く酸味のある、それでいて林檎独特の甘味の香りがたつ。
薄く削いで口に入れる。
酸味の向こうに若干の苦み。
口一杯広がる青臭さ。

だから私は、収穫期前のりんごの取材はきらいなんだ。

取材日:1999年7月10日

◆20年以上前・初めて長野を訪れた際に書き留めておいた取材旅行記番外編のひとつです。よかったら「スキ(♡) 」を押していただけると励みになります。

※見出しイラストは
カメラマンのイラスト by Loose Drawing 少し加工しました。

https://loosedrawing.com/illust/1034/


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