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東南アジアの密林の中、斧で追いかけられる “海外お香放浪記①”

あまり意識しないことかもしれませんが、お香は大自然からの賜物です。なぜなら、お香の基本原料となる香木は東南アジアの伽羅(きゃら)・沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)など、自然変異により香りを発するようになった木、そのものだからです。私はもう30年以上、香木を求めて海外に通っていますが、その話を少しずつ出来たらと思います。

1. 香港とシンガポールに集まる香木たち
2. ジャングルの奥で斧で追いかけられたり
3. グローバル経済による香木市場の変化
4. 香木の人工栽培


1. 香港とシンガポールに集まる香木たち
 香港やシンガポールといった貿易港には、ベトナム・インドネシア・タイ・マレーシア・カンボジアなどの国々から、多種多様な香木が集まってきます。そこには貿易センタービルのようなところがあって、専門の卸業者さん達がひしめき合っています。私も23歳の時に香港へ行って以来、30年近く通っています(このコロナ禍で最近は行けていませんが…)。
 たとえば、コーヒー豆の味が農園によって全然違うように、香木もまた国や産地によって全然香りが違ってきます。10年ほど香港やシンガポールに通ううちに、「ここに集まってくる前(採取される現地)を見ておかないといけないぞ」と思うようになりました。ビニールに包まれた木片ではなく、香木が生えているところ。どんなところで、どんな風に香木があるのか。それから、ボルネオ島やブルネイなどのジャングル奥地への旅がはじまりました。

2. ジャングルの奥で斧で追いかけられたり
 ボルネオ島の密林と聞くと、「探検隊みたいに大変な思いをしたんでしょうね……」と思われるかもしれませんが、日本よりも蚊に刺されませんでしたし、食事や水に関しても閉口することは全くありませんでした(あくまでも私個人の感想ですが)。たとえば、牡蠣が出てきて美味しく生でいただいた後に鍋が出てきて、「あーこれ、鍋に入れる用だったんだ…」とかはありますよ。文化の違いとして笑えればいいのですが、いちど値段交渉で電卓叩いて見せた後に断ったやり方が、どうもマナー違反だったらしく、ジャングルの奥で斧をもって追いかけられた時は、さすがに肝を冷やしました。

3. グローバル経済による香木市場の変化
 香木は自然からの賜物。限られた資源ゆえに、自然破壊にもつながりかねない大変貴重なものです。20年前に私が現地に足を運びはじめたのも、その頃から香木の市場環境が大きく変化したからです。それまでは香木を買い求めるのは、日本かアラブの石油王くらいであったのが、グローバル経済の影響で東南アジア諸国が豊かになり香木の価格も上がりはじめました。そして追うように、巨大な中国市場がお香を買い始めたのです。「このままでは将来的にマズいことになる!」と思いました。
※ 沈香(じんこう)採取 ↓

沈香栽培3 (3)

4. 香木の人工栽培
 たとえば、沈香(じんこう)という香木は、樹木が傷ついた部分の腐敗を防ぐために分泌した樹脂部分が、長い年月を経ることで形成されます。タイやベトナムでは香木の人工栽培もおこなわれています。樹を植林し育て、人工的に樹を傷つけて薬品を施し化学反応を起こし、それを伐採するというものです。それまでの自然現象で香木ができる確率は100万本に1本とか言われていましたから、それに比べればずいぶんと進歩(?)してはいるものの、ビジネスとしては難しい部分もあります。果物なら5~6年も待てば実がなり、その後も毎年収穫することができますが、香木はそうはいきません。苗を植林し、樹脂化し伐採、また植林…という10年以上にわたるロングタームは事業化のネックになっています。とはいえ栽培技術もどんどん進み、樹脂化もよりオーガニックに近い状態になっているので、「原材料がないからお香が作れない!」という状態に今すぐにはならないと思います。
※ 沈香(じんこう)の人工栽培 ↓

沈香栽培2 (1)

(つづく)

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