モーガン・フリーマンの至言
三谷のコラム「撮影初日の感慨、契約の世界」のトピックに絡んで、少し横道に逸れつつ、むかし話。モーガン・フリーマンに投げかけた質問への回答と、コラムが触れている「プロデューサーの仕事」のあり方とのつながりに触れます。
「父の日」をはじめて父として迎え、「父」の肩書きにお似合い(?)なビール腹をさすりながら、穏やかな週末を過ごす日曜日。
全米ではこの週末に公開されたピクサー最新作『インクレディブル・ファミリー』(日本では8月1日公開)を家族で鑑賞することができたので、お父さんパワーは充電済み。今週も頑張ろう、というところです。
先週はアヌシー、E3、そしてロシアでのW杯開幕と、コンテンツおよび放送界で大きなイベントが続々、ニュースも続々でした。分量の関係上、今号のmofiのニュース欄ではビジネス面での動きを中心に追うことになりましたが、その他のニュースもおいおいピックアップしていくつもりです。
そこで。
この「はみだしコラム」では、まず今号の三谷コラムをご紹介します。
撮影初日の感慨、契約の世界 | mofi 210号
スター俳優と監督の特別講義
少し、むかし話をしましょう。
AFI在学中の2011年、『ラスト・サムライ』や『ブラッド・ダイヤモンド』のエドワード・ズウィック監督と、その年の「AFI Life Achievement Award(AFIが表彰する生涯功労賞)」を受賞することになった名優モーガン・フリーマンが、揃って学校を訪れたことがありました。
2人がタッグを組んだ1989年の名作『グローリー』の上映を挟んで、両氏のプロフェッショナリズムやキャリアの築き方、次世代のストーリーテリングについての対談を拝聴する、正味4時間。在学生に向けた講義としては、中身の濃い1日でした。
モーガン・フリーマンはいま、#MeTooのムーブメントの渦中にいる男性セレブリティのひとりでもあるので、扱いに困る人物ではあるのですが...。今回は構わずに取り上げることとします。悪しからず。
名優とのQ&A
「フリーマン御大に、なにか質問がある者は?」
ズウィック監督は講義の後半、例によって劇場内のぼくら学生たちにQ&Aの時間を設けてくれました。せっかくだからと思って勇気を振り絞った私は、4、5人の受け答えのあとに挙手。
運良く指名を受け、マイクを渡されておそるおそる質問を投げかけました。
「トップを走る俳優や監督やスタッフたちにとって、撮影現場での理想的なプロデューサー像ってどんな姿ですか」
学生映画とはいえ、スタッフとキャストを合わせて4、50人もの関係者を現場で抱えるようになった、AFIでの短編撮影実習。アニメ作品のプロデュースならまだしも、実写作品のプロデュースがはじめてだらけだった私にとって、この質問の本質は個人的に解決すべき大きな課題でした。
いや、これはアニメか実写かに関わらないトピックだと言った方がいいでしょう。「現場」における「プロデューサー」の立場は、扱っているメディアを問わず常に特殊なものだからです。
英語圏ではよく「スーツ」と揶揄される、プロデューサーや管理職。「プロデューサー巻き」的な出で立ちで現場を我が物顔で歩き回り、人に無理難題を押し付ける悪代官のような存在として見られがちです。
技術屋でガテン系の現場スタッフや、撮影日の一分一秒を惜しみながらフレームにアートを収めようと戦う監督や俳優たちにしてみれば、プロデューサーなど偉そうな顔をしているためだけにいるようなもの。「アーティスト気取りな邪魔者」だと思えていても、不思議じゃない。
そんなとき、自身の感性や、能力を現場で活かすにはどんな心持ちでいればいいのか? チームワークに貢献するにはどんな姿勢でいればいいのか? 当時、私の最大の疑問はそんなポイントにありました。自分の立ち位置の、座り心地の悪さに悩んでいたわけです。
モーガン・フリーマンを前にして必死に語りかけたものの、内容をまとめきれなかった私の口調は文字通りしどろもどろだったはず。でも、フリーマン翁は内容を理解してくれていたようでした。
一瞬、宙を見つめたと思ったら、彼はあのいたずらっぽい表情で答えました。
「常に笑顔でいて、ぼくと目があったら『よくやってくれているね』と言ってくれれば、現場でのプロデューサーはそれで十分だね」
会場はドッと笑って、すぐに次の質問へ移ったわけですが...。周囲にとってはわかりきった答えだっただろうし、これを読んでいるみなさんの中にも、当然のことと思える方は多いでしょう。
でも、当時のぼくはこの答えだけで、ずいぶん安心させてもらったのでした。
プロデューサーの「現場」
どうしてこんな話をしているか、というと。このモーガン・フリーマンの冗談めいた至言と、今回の三谷コラムの本質とは決して無関係じゃないはずだからです。
なぜ、撮影現場でのプロデューサーは「笑顔」でいさえすればいいのか? いや、言い換えましょう。むしろ、なぜ「笑顔」でいられるようでなければならないのか?
それは「撮影に入った時点で、プロデューサーは仕事の折り返し地点を迎え、大部分の勤めを終えているはずだから」です。
監督にも、俳優たちにも、撮影監督にも、そのほか多くのスタッフにも、それぞれの主戦場がある。多くの場合、それらは撮影現場で正念場を迎えるわけですね。
でもプロデューサーは必ずしもそうとは限らない。
プロデューサーにだって「現場」があり、「主戦場」があります。撮影現場のカッコいい「舞台裏写真」に写るような、きらびやかな「現場」ではないかもしれませんが。
モーガン・フリーマンの言葉は、そんなことに気づかせてくれる力があったわけです。これが、彼の返答を聞いて私が「安心した」理由です。
では、プロデューサーの「主戦場」とは?
それは、今号の三谷コラムで詳しく知ってもらいましょう。
ニュースも(相変わらず)盛りだくさん
さて、私が編纂した今週の映画ニュースはこちら:
「父の日」興行で家族映画フィーバー
大型契約でビジネスは激震 | mofi 210号 ニュース
興行収入、スタジオ大手の地殻変動、W杯にまつわるアメリカの興味深い視聴率の話、そして次世代のコンテンツ製作に関するパートナーシップの内容に至るまで、幅広くピックアップしました。
では今週も、楽しんでいってください。
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