『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める
『Godzilla x Kong: The New Empire』(2024年)☆・・・。
近年でも稀に見る知能指数の低さで…そんなことを恥じ入るべくもなく。どこまでも怪獣プロレスに徹する1時間51分。もうCHA-LA、HEAD-CHA-LA。
日本に限らず、アメリカの観客が『ゴジラ-1.0』をとびきり楽しんで評価するのも、わかる。ハリウッドがこれだけ割り切った代物を作っていると知れば、わかってあげられる。これは見紛うことなきモンスター・パルーザ的WWEで、怪獣映画に知性をもたらそうという努力とは無縁な娯楽作品だ。
北米興行予測を裏切って、とびきりの金星で数字を叩き出しているのも『-1.0』効果あってのこと、と言っても過言じゃない。
公開3日で全世界1.94億ドル(およそ294億円)を叩き出し、今年の興行収入記録を塗り替えた本作の公開タイミングは、運が良かった。
何せアカデミー賞を受賞していながら「あの話題作は一体どこで見られるのか」というニュース記事が話題に出ているくらい、一般のアメリカ人にはアクセスのなかったゴジラへの観賞欲が高まっていた。
東宝 x レジェンダリー間の契約関係によるもの、とも言われているので、『-1.0』にとっては商機を妨げられたという話なのかもしれないけれど。
本編
ゲーム音楽かと空耳する80-90年代インスパイアな劇判からの、プロレス全開の走り出し。キングコングとゴジラ、各々のアクションで映画は幕を開ける。前作から続投している科学者のアイリーン・アンドリューズ(レベッカ・ホール)と、彼女が養子に迎えた原住民系の女児・ジア(ケイリー・ホットル)との人間関係が、作中唯一のドラマらしいドラマ。だが、それも開始数分で二の次だという思いを抱くのは、2人の関係が前作ありきで「おさらい」から入るからだろう。
続くは2作目からのコミック・リリーフで陰謀論ポッドキャスター役のバーニー・ヘイズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)。笑いが取れる希少キャラなのだが、数シーン見ていくと徐々に鬱陶しくなる。映画全体のノリに、観客目線で的確なツッコミを入れてくれないからだ。
とはいえ今作からの初登場で一番の収穫は、「怪獣医」でアイリーンの元恋人らしいトラッパー(ダン・スティーヴンス)のパフォーマンスと設定だろうか。コングの「歯痛」を治す、というシークエンスは突飛で、トンデモな世界観にも馴染ませてくれた。彼とバーニーとの絡みをもっと活かせていたら、人間ドラマの方も前作程度には笑い飛ばせる水準になったのでは。
以後は…常人には厳しい。
よほど入れ込んでいる愛好者でなければ、スライスチーズよりも薄い人間ドラマに関心を持ち続けることは難しいと想像する。
絶え間ない音楽と破壊音、食傷気味のヴィジュアル的スペクタクル、『猿の惑星』プリクエルシリーズの下位互換的な野獣同士の無言の猿山争い。極め付けは、深刻な都市破壊と災害レベルの殺戮が行われているだろうクライマックスのバトル。これには、もはやこれで儲けようという現実のビジネスマンたちの倫理感を疑うレベルの規模だ。
寄り添うべきキャラクターたちへの距離がすこぶる遠かったり、皆が皆、プロレスの実況解説者に徹するだけの今作は、少なくとも私のストライク・ゾーンからは外れる。
ただ、破壊のカタルシスは概して有効だし、逃避としてのバイオレンスやアクションが映画に不可欠なのは確か。少なくとも前作よりも総合的に劣るのは観た全員の総意のようだけど、そんな前作よりもアクセルを踏み込んだ破壊衝動を見ることに喜びを見出せるのなら、本作はピッタリな一本なのだろう。
(鑑賞日:2024年4月4日 @Regal Edwards Aliso Viejo)
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