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【短編小説】女神はいる

※この物語はフィクションです。
 実際の会社名、団体名とは
 一切関係ありません。


俺はラテちゃんに
命をかけて推すと決めた。


俺は24歳、新卒2年目の
ギリ、ぴちぴち社会人ってやつだ。

都内の中小企業に入社した俺は
いわゆる「八方美人」。

周りの上司やお偉いさんに
ペコペコペコペコ、
ごまをすりすり。

そんなこんなで
「営業部リーダー候補」
に選抜されたのである。

同期のやつらからは
「すごーい!」
「ほんますごいな」
「俺も負けてらんねえな」
と褒められる。

俺は、完璧だった。
人生の流れは、ゆるやかに
うなぎ登りであった。

ただ、一点を除いて。


「なーんでラテちゃん出ないんだよ!
 ガチャ100連目だぞ!
 絶対俺のアカウントだけおかしいわ!」

そう、「ガチャ運が無い」のだ。

そもそもなぜ、ガチャを引きたいのか。

それは俺の推し、
いわゆる「LOVE」に近い感情を
心に抱いている。

アニメ『サンシャンフォーチューン』
メイン主人公の一人、浅場ラテ

(23歳、白髪のショートヘア、誕生日は2000年12月24日、身長153㎝、チャームポイントはタンポポの髪飾り、自由奔放で回りを笑顔にし、時にはトラブルに周りを巻き込むこともあるけど、でもそれはそれで可愛くて、まあ確かにアニメは有名じゃないけど、特に親友の八木恵ちゃんとの会話の尊さといったら他に例えようが………)


とまあいった感じで、
とんでもなく好きなのだ。

いや、わかってる。
自分でも2次元に恋するのは……



まあいっか!
俺にはラテちゃんしかいない!

と、いわゆる
「ガチ恋オタク」というわけ。

きっかけは大学一年の時に
同じサークルの……

っと、これ以上は
また長くなりそうだから控えておこう。

ただ、一個だけ。
いやあ、全然許せるんだけどね。

まあ、あれだ。


めっちゃ貢いだ。
お金たくさんつかった。

公式アプリでイベントが開催、
それでラテちゃんの新絵が追加。
もう何百、何千連したか、わからん。

グッズが出れば、
体調不良ずる休みの術で買いに行き
部屋の中がラテちゃんに覆われるほど。

ライブなんてあろうものなら
それはもう狂喜乱舞。
日本中を駆け回った。

ゆえに、大学の時から
アルバイトの嵐、
そしてそのお金は
ラテちゃんに捧げる。

そして社会人になり
給料のほとんどを
彼女に投資した。

だって、俺は彼女に
幸せになってほしかったから。


そんな日々が続いた。

続いてたら良かった。

でも、続かなかった。

あの日を境にして。


衝撃だった。

アニメの制作会社による
資金の横領。

経費として落とされたお金を
2人でキャバクラに行き
1000万使ったというのだ。

しかも、
その全員がサンフォー、
サンシャンフォーチューンの
代表製作者だった。

彼らは
「欲に負けた。
迷惑をかけた皆様に
申し訳なく思う。」


アニメ会社の落ち度となれば
その矛先はアニメ自身にも。

サンフォーは
「呪いのアニメ」と呼ばれ

ニュースでも
会社の悪行の映像とセット。

アニメの認知度は
悪い方面に上がり続けた。


推しのアニメが
いわれもない理由で罵倒される。

そんな日を想像してみてほしい。

さあ、あなたに質問です。


「それでもあなたは
 推しを愛せますか?」


どうでしょう。


色んな選択肢があると思います。

さあ、彼はどうするでしょうか。

ふう。
腹はくくった。

俺はラテちゃんを愛し
彼女に命をかけて推すと決めた。

例え会社がやらかしてても

アニメの風評が
どれだけ悪くても

俺は彼女を推す。

そう決めたからには、
絶対に曲がらない。


俺はとにかく
彼女を守った。

ラテちゃんのグッズは
俺がきちんと奉納金で
日本中から集めておいた。

SNSでアニメの悪口を言う
本当の不届き者には

逆に俺が叩いて回ったし

ラテちゃんの事を
悪く言うやつには

特にきつい制裁、
住所を全世界に大公開する

ということを予定している。


そして、
ラテちゃんの声優さん。
(俺は女神と呼んでいる)

彼女の仕事も
あまり入っていないみたい。


アニメ放映直後には
他アニメの出演も
決まっていたはずなのに

気づけばそれは
無くなっていたみたいだ。


可哀そう。

本当に可哀そう。


「俺が守るんだ」


ふと、気づいた俺は

女神様の神殿に来ていた。


ああ、ここが天国か。

あ、女神様がこっちを見ている。


なにか大声を出しているな。
歓迎の言葉かな?

なんだか、遠くて聞こえないや。


あれ、俺、

動けない?


何か、手元に。

金具?

カチャカチャ、

カチャカチャ、、


……ガチャか。

今回のガチャは
ハズレみたいだったけど

初めてのお家デート
とっても楽しかったよ。


そうして彼は
神殿を後にした。

女神の飼う犬の
甲高くも深い遠吠えが
あたりに響くだけだった。


(終)


著:大場康平
見出し画像:https://pixabay.com/ja/
2024/05/23

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