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【小説】世界一の嘘つき 〜去勢 〜 No.4

そうして、その日の夜。

俺はアルバイトに行っていた。

飲食店、そして土曜日という事もあり、
店内満員状態。

てんやわんやの状態で
時間はあっという間に過ぎた。

そして、休憩に入る。

まかないを貰い、
「さあ、いただきます」
といったところ。

ふと、携帯を見て、俺は

食事を取る手がピタッと止まった。

Kからの返信だ。

「お前のせいで人生が狂った。」

「何で俺を誘ったんだ」

「死ね。2度と俺の前に顔を出すな。」

LINEにて10行を超える長文。
要約するとこんな感じだ。

俺は、わけが分からなかった。

俺は即座に社長に連絡。

「KからこんなLINEが来たんですけど
 何か聞いていますか?」

俺の声は、相当震えていたと思う。

「いや、何も聞いてないよ。
 あいつがこんな事言うとはねえ」

俺も、頭になかった。

熱心に運用に取り組んでいたKが。

俺の話を真摯に受け止め、
聞いてくれていたKが。

こんな事になってしまうなんて。

俺は、Kに連絡しようか、
迷いに迷った。

だが、こう言うKに対して、

かける言葉も

送るメッセージも

今後の対応も

何もかもわからず、
頭が真っ白になった。

人に「死ね」と言われた事は
何回もあった。

だが、そこに
“殺意”というものは無かったと思う。

俺は生まれて初めて
「命の危機」を感じたのだろう。

手に取ったまかないから出ていた湯気は
気づけば無くなり、冷め切っていた。

Kの心も同じように冷め切ってしまったのか。

俺のことは信頼してくれていて
その状態で送ったものなのか。

はたまた何かを指示されたのか。

その真相はわからない。

だけど、はっきりと
この時に俺の心は
何かが折れる音がした。

その後は悲惨だった。

続々とグループメンバーが
辞めていく。

一度できた氷が
急速に溶けていくように

2ヶ月後には、グループメンバーは
誰もいなくなり、

残ったのは俺1人だけだった。

「このままじゃまずい。」

「何とかまた復活するんだ」

「人生を変えるんだ」

そう意気込んだものの
何かが心で引っ掛かっていた。

金は無い。

ゆえにアルバイト漬けの日々。

誘える人脈ももう無い。

中高のクラスメートとは
ほぼ疎遠になってしまった。

そのため、
日払いバイトに行き

そのバイト先の人を誘う日々。

だが、
全てが空回りした。

運用も全くと言っていいほど
結果を出せなくなり

アルバイト漬けになり
大学の単位も足りず、留年。

「俺に人生を変えるなんて
 できないのか…」

と、心が折れかかっていた。

…今になって考えてみれば
Kにああ言われたこと。

“挫折”を味わったこと。

ある意味、「社会で生きていく」
ことをこの時初めて
知ったんだと感じる。

そして、この経験に俺は感謝している。

ああ言ってくれたKに、
空っぽの俺に喝を入れてくれた彼に

俺は本当に感謝している。

でも当時の俺は
“彼を見返す”事しか
頭になかった。

だからこそ、俺の人生は
また大きく動いていった。

そう、ある“師”との出会いによって。


続く。

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