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既往研究のリサーチの基本~これから修論や卒論を書く人へ

このnoteでは、既往研究や文献、事例のリサーチの仕方について整理します。研究を始めるにあたりまず必要になるスキルかと思われます。主に卒論、修論を書いている人向けですが、リサーチの手法自体はビジネスやデザインに関わる人にも参考になるのかもしれません。このnoteでは、「いかに深ぼって既往研究のリサーチを進めるか?」ということを主題にしたいと思います。

基本的な考え方:リサーチの3step

おおよそのイメージとして、リサーチを3段階に分けてみました。

Step1:「浅いキーワード」から「より深いキーワード」へ
Step2:「より深いキーワード」の深掘りと内容理解
Step3:議論の相対化とさらなるキーワードの発見

段階的に説明していきます。

Step1:「浅いキーワード」から「より深いキーワード」へ

Step1はほとんど当たり前のことだけです。まずはひたすらググってとっかかりを探す作業から入ります。とりあえず思いつく言葉を検索エンジンに入れ、事例や重要な人物、概念の名称など、ひたすらキーワードや研究の引っ掛かりをひたすら増やす作業。とりあえずキーワードが見つかればOKです。

①Googleでキーワードをたくさん調べる

まずはもちろんGoogleを使いましょう。まずはGoogleの検索ワード自体はかなりシンプル(ex.「香り」×「空間」とか)でOKです。各検索ワードごとにトップページだけではなく20ページやMAXぐらいまで、ジャンクのようなものが出てくるまでとりあえずどんどん見ていきましょう(きちんと最後まで見ない人多いけど、必ず20ページくらいはみよう)。

とにかくきちんと最後くらいまでみましょう

Step1ではとりあえず関連しそうなキーワードを列挙(事例、研究者など)するイメージです。すると強く関係するものや、やや関係あるかもくらいのレベルのキーワードがどんどん増えていきます。

とにかく、検索にかけるキーワードが見つかればいい、くらいの意識で大丈夫です。記事とかを見たりしながら、事例名、人物名、会社名、論文タイトル、などなどが出てくればいい。

②YouTubeやTEDで研究者や事例を調べる

YouTubeなどで調べてみるのも結構有用です。研究の動画が出てきたりしますし、学会や有名な人がチャンネルを持っていることも最近は多いです。

研究者を調べるのであれば、TEDでキーワードを打ち込むのも有効です。有名な研究者くらいはわかります。すると研究者名が次のキーワードになるわけです。

Virtual realityといれるだけで292もヒットする。

例えばテック×建築とかだったら、Wiredで過去記事を調べてみるとか、Tedを使うとか、何かしら良いオピニオンリーダーを集めようとしているメディアの検索エンジンにキーワードを打ち込んで検索することもかなり有効です。建築やデザイン系なら、AXISなども使えるかもしれません。

③Amazonで書名を調べる

google リサーチと並行して出てきた本なども並行して調べるとよいです。キーワードを調べる過程で出てきた書籍名もちらっと見ておきましょう。

Amazonの検索欄にキーワードを入れることで、本がリストアップできることもあるのでおすすめです。その際は関連書籍やおすすめリストの中から探せます(教科書でない本も含めて)。

また、専門書などは誰かが記事で言及していたりするので、記事に出てきた本などはリストに入れてチェックできるように整理しておきましょう。

Step1の際に考えておくこと

とりあえず初期リサーチの段階でキーワードを増やしていくことが大事です。検索でヒットした事例から、類似サービスの存在を考えたりもしつつ、キーワードをとにかく探しましょう。

その際には、メディアなども見つけておくと良いです。質のいい記事を書いている、自分の興味テーマと近い毛色のメディアが何かしら見つかると思うので、そういうものもリストアップしておき、それを探索しながらキーワードを拾っていきましょう。VR系だとMogura VRなど。

また、建築の場合は特に、論文誌に発表するよりも論考の形式で残っていたり、雑誌などで発表されている場合も多いので、そういう意識を持って資料やキーワードを探すようにしましょう。

Step2:「より深いキーワード」をもとにした検索

Step2は、Step1で見つけたキーワードをとっかかりにしてさらに検索をかけるイメージです。例えば「VR 建築」と調べて、「Unity」とか「Unreal Engine」とかってキーワードが得られたとしたら、それって一体なんだろう?とまたそれを検索エンジンに入れて調べて内容を理解していくイメージ。

こういうことはある程度自然とやるかと思いますが、既往研究の調査では、ある程度キーワードが見つかってきたら、Googleなどとは少し違う検索エンジンも併用して調べていくと良いです。

④論文の検索エンジンを使う

キーワードがある程度出てきたら、ひたすらGoogleと、論文の検索エンジン(j-stage, google scholar, ciniiなど)にキーワードを突っ込んでみましょう。

論文の検索エンジンは色々とあります。もちろんGoogle scholarやCiniiなどは有名ですし、日本の論文だとJ-stageも使えます。

建築系だと、黄表紙と呼ばれる「日本建築学会論文集(構造系、計画系、環境系)」は参考になるので、ここに検索ワードを入れてみると良いです。

VRくらいであれば、そもそも建築系の論文集であればすぐにある程度お目当てのものが出てきますが、例えばHCI系の論文集でVRと検索しても膨大に出てくるので、ある程度キーワードを調べて絞って検索することも有効になります。

もちろん、はじめから論文系の検索エンジンを使ってもOKです。

⑤有料版の論文サービスをVPN接続でつかおう

VRとかテック×建築系だとACMの検索エンジンも有効です。CHIなどのカンファレンスの論文はいろいろと参考になります。

こうしたジャーナルの検索エンジンは有料であることも多いのですが、大学で契約していることも多いので、VPN接続で家からでも見られる場合が多いです。「大学名 ジャーナル VPN」などで調べると出てくると思いますので調べてみましょう。

⑥博士論文のリストアップには機関リポジトリ

自分の興味テーマについて概要を知るにあたり、おすすめなのは「博士論文」を読むことです。自分の興味に近い博士論文や自身が気になる研究者の博士論文を読むと良いです。

博論は最初の1~3章は自分の研究の立ち位置を明示する(教科書みたいなことを書く)ことが多いので、その分野の概要を知るのに役立ちます。つまり教科書的に使えるわけです。もちろん研究のスコープによってはある程度の偏りはありますが、それでも分野をざっと知るのに有用であることが多いです。

博論などをリストアップしたい場合には、大学の機関リポジトリというものがあります。

この検索エンジンを使うことで、博士論文などをリストアップできます。

東大の場合だと以下のようなものです。他の大学にもあります。いろんな大学のを使ってみると良いと思います。

⑦論文誌を知っておく

自身専門分野の論文誌について知っておくことはとても大事です。これは1次リサーチでも頑張れますし、Step2でも、論文を探すだけでなくそれが載っている論文誌を見ることも大事です。重要なカンファレンスや論文誌などを頑張って探す意識をもちましょう。

先生や先輩に聞いたりしながら自分の領域の専門誌を知っておくのもおすすめです。

論文誌が分かれば、Step2として、Step1で出てきたキーワードをその論文誌の検索エンジンでどんどんひっかけていくことができます。

⑧本のありかを探す

Step1で見つけた書名の探し方です。Amazonでさっと出てくる場合はそれでOKですが、出てこない場合もあります。その場合NDL(国立国会図書館)などで調べるのがおすすめです。

もしくはググって見つけた書名やISBNを学校の図書館の検索エンジンにかけるのも有効です。

国立国会図書館などでの書類の貸し出しや閲覧は色々手続きが面倒だったりするのでスケジューリングは早めの方がいいです。

⑨読んだ論文の参考文献リストをチェックする

Step2を通して色々と論文を見つけて読み終えたら、必ずその論文の参考文献リストをチェックしましょう。様々な論文や文献を引用しているはずです。類似した研究をそこから探せるのはもちろんですが、アカデミアには、「まあこの議論するならこれは引用するよね」という類の文献や先行研究が多くあるので、そういうものを見つけたい時にもこのチェックはとても有効です。

⑩Connected papersを用いて論文を探す

関連論文を探す上では、「Connected papers」というサービスも有用です。これを用いると、キーワードである程度論文を検索できるほか、自分の気になっている論文のタイトルを打ち込むと、それと関連する論文をグラフィカルにまとめて表示してくれます。

 Tips:信頼度をきちんと見極める

論文や論文誌を見ていく上で重要なことは、その信頼度をきちんとみることです。報告と全文査読の論文は、業績として分けられているので、査読つきの論文を調べるようにすることも有効だと思います。

学会の論文や報告などだと、そもそも査読がなかったりもします。要するにほとんど誰もチェックしていない内容の報告書と言うことなので、それはキーワードや動向を調べるのには使えても、あまりその中身をそのまま信用するには好ましくなかったりもします。

論文誌も同様に、査読がきちんとあるのかどうか、その査読の精度や難度はどうなっているのかなどを調べて、論文と論文誌の信頼度を確認するようにしましょう。

一つの目安として、論文の参考文献のリストをチェックすることも有効です。引用している文献がきちんとした論文を選んでいたり、これはおさえないとだよねというものをしっかりおさえたりしているか。建築の場合だと、参考文献の欄に大会論文ばかり引かれていると(学会論文)、ちょっとどうなのかなあ、と思ったりします。

Step3:議論の相対化とさらなるキーワードの発見

Step1では自身の知っている(パッと思いつく)「浅いキーワード」をもとに、「より深いキーワード」を探していきまず調べる範囲に「あたり」をつけたのでした。Step2ではキーワードを中心に、それがどういうものか検索し理解を進めていくことが大事なのでした。

Step3では、そうした議論を相対化しつつ構造化しましょう。

リサーチでは調べるのと並行して、文献やキーワードをnotionなどに書き連ねていくなどして、調べた内容を整理して構造化していくことがとても重要です。とにかくエクセルに入れていくのでもいいのですが、個人的には普通に箇条書きに書いていって、それをグルーピングしたり並べ直したりすることも有効だと思います。

なぜ構造化が大事かというと、そうしてリサーチを構造化することで、「どこにリサーチの不足がありそうか」「自分のリサーチにはどのような偏りがありそうか」などが可視化されるからです。

もう少し具体的に説明します。下図のように、Step1では自分のテーマ設定をもとに、「浅いキーワード」を色々調べてみたのでした。

Step1

その結果「より深いキーワード」を見つけ、さらに深掘りつつリサーチをしたのでした。

Step2

で、ここからですが、こうした↑情報を整理してみることが大事です。

Step3

なぜなら、こうして整理してみることで、自分の研究の不足や偏りが見えてくるからです。同時に、膨大な情報を前にどういう軸で構造化するとこの領域をうまく捉えられるかによって、研究の切り口が見えてきたりもします。

自身の研究が過去の研究の中で、どこに位置づいているのか客観視できることも重要なので、情報の構造化はぜひ検索と並行してすすめましょう。これがStep3の位置付けなのですが、この作業を通してリサーチ全体の不足や偏りなどの仮説が生まれてきたら、そこを埋めるために、またStep1に戻りましょう。このStep1→Step2→Step3→Step1というサイクルを回すという意識が大事で、サイクルをとにかくぐるぐると回していくと、色々と情報が増えていきます。そうすることである程度網羅的に既往研究などを集めていくことができます。これをおよそ2日くらい集中してやれば、かなり事例が集まります。

以上があまり文献やキーワードがない場合の基本的なリサーチ手法です。

整理だけでなく、仮説が大事です

研究では何より仮説を立てることが大事です。

既往研究を調べていくことで、自分の問題意識や研究の魅力的な切り口が見えてくることもあると思います。でも、ただ情報を調べて整理するだけではあまりよろしくありません。

自分なりの引っ掛かりを探しながら、「なんか面白い着眼点ないかな」「なんかよさげな研究のアイディアないかな」と、仮説を立てるための手段としての既往研究のリサーチである、ということを強く意識しましょう。

先輩や先生も頼りましょう

自分であまり参考書籍などのない際のリサーチ手法をまとめましたが、近くに先輩や先生がいれば、遠慮なく参考文献や事例を聞くようにしましょう。

研究において全ての内容を網羅的に調べていくのはかなり不可能に近いし、時間もかかってしまいます。先生や先輩たちは、まずはこれを読めばいいというのをよく知っていたりするので、困ったら頼るようにしましょう。

最後に:論文を調べつつ、手を動かすことも大事です

ここまで、既往研究を調べる際のTipsや考え方をまとめてきました。いかがだったでしょうか。参考になったでしょうか。

また、色々と書いてきましたが、文献だけ読んでてもよくわからないということをしっかりと認識しておくことも大事です。あんまり前段のリサーチや構造化をしっかりやり切らないと、手が動かないとか考えすぎるのも良くありません。

特に建築系の場合は、ガチガチに計画してもうまくいかないので、とりあえず予備実験的なことをしてみたり、予備フィールドリサーチ的なことをしてみたりしながら検討していくことも大事です。

(終わり)

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