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単身、元料理人の若手農家が東京で挑むハイブリッド農業 〜営業ギャグ編〜

思いついたことをとにかく実行する起業初期フェーズ

 2021年8月末。 起業3ヶ月目。
 東京では、新型コロナウイルス対策として第4回目の緊急事態宣言が発令されていました。飲食店はアルコールの提供が制限されている状況で、人通りが少ない街はとても静かでした。

 この頃、僕は麻布にある高級スーパー2社と取引を始めることができ、野菜を自分で店舗まで配達してそのまま店頭販売までさせてもらっていました。緊急事態宣言中だったこともあり、レストランとの新規取引は早々に諦めて、高級スーパーやデパートへの進出しか見ていませんでした。配達の帰りにひたすら高級スーパーとデパートの売り場へ足を運び、多い時で週に2~3件の商談を行っていました。


 梶谷社長が言ってました。


「野菜って、つくるのは出来ても、売るのが難しい」


 高級スーパー、デパート各社に問い合わせたり、直接店舗に飛び込んでバイヤーと話したり。帰ってきてから資料を作り直して、また電話して。とにかく必死でした。

 ただ、必死に説明して売ろうとすればするほど、空回りするのか全然うまくいきませんでした。外に出てばかりで肝心の栽培もうまくいかず、行き詰まっていました。

売ることを手放す大切さ


 9月前半~中ば。僕は視察や営業、店頭販売などの売る仕事をやめて、野菜と向き合うことにしました。いつの間にか「売れる野菜」を目指していた自分に気が付いて、修正していきました。自分が憧れたものは何だったのか、自分が好きな野菜は何だったのか。


9月後半。 「これはイケる!!」

 色々と修正した結果、ピシャッと噛み合った自分なりのレシピに初めて自信が持てました。売り先がなくて余った大量の野菜を自分で山盛りに食いながら「うめーな!」って。

 9月末になると、あと数日で緊急事態宣言が解除されると発表され、徐々にレストランも再開に向けて動き始めていました。

 僕には大阪のレストラン時代から雑誌や料理本を通して憧れたレストランがあり、そのレストランと「起業したら絶対取引したい」と、淡路島にいる時から思っていました。

 そして、大きな台風が来ていたこの日、僕は早朝から収穫を終えるとすぐに配達に出かけました。

「ミラクルチャンス来た!」

 僕は朝からいつも以上に興奮していました。なぜなら僕の経験上、台風の日は店が極端に暇になるのでランチ営業中にディナーの仕込みを終えています。こんな日は、どんな人気店も早めに休憩を取るか、普段できない掃除をするか、普段できないミーティングをするか、です。

 僕は、青山のレストラン”The Burn”に野菜のサンプルを持って飛び込むイメージを配達の車中で繰り返していました。今では当たり前のようになってますが、日本の料理業界に「野菜料理」「ヴィーガン」「オーガニック」「サステナブル」を持ち込んだ第一人者が”The Burn”であり、シェフの米澤さんです。大阪のレストラン時代にオーガニックやヴィーガン系の料理をしてた僕は、米澤さんのレシピをパクりまくってました。自分を奮い立たせる時のテーマソングは決まってブルーハーツのリンダリンダ。


「すみません。僕、農家でして、野菜持ってきました。」

 台風の雨の中、ちょっとビショビショの僕は野菜をクーラーバッグに忍ばせて、ランチ後のThe Burnにいました。

「えっ?農家?」とびっくりする料理長の木下さんに名刺を渡して、とりあえず思いついたことを説明しました。

「なになに?農家?」と奥から、笑顔の米澤シェフ、登場。

一瞬、緊張でスローモーション&硬まる俺。

 このあと、僕の野菜を一口食べて来週から来て欲しいと取引開始を決めてくれました。この時の会話は、この先もずっと忘れられない。僕は元料理人だし、これまでも料理人の方々と取引してきたので、感覚として「野菜や農家を大切にしてくれるか」「小さくても若くても馬鹿にせず向き合ってくれるか」など色んなことを感じました。そして何より、まだ何一つ結果を出せていない自分の背中をポンっと押してくれたのでした。

 The Burnの皆様、シェフ、本当にいつもありがとうございます。



その翌日。


 台風は過ぎ去りましたが、僕の興奮はまだまだ収まっていませんでした。「この調子で飛び込みまくれば、もしかして無敵かもしれない」

 僕が次の営業先に選んだのは、ステーキハウス・オークドア。このレストランはグランドハイアット六本木という最高級ホテルの中にあります。ここを選んだ理由は、シェフがアメリカ人でノリ良さそうだし、ホテルだと沢山買ってくれそうだし、配達ルートだったからです。

 昨日と同じくランチ後のレストランに野菜のサンプルを持って、飛び込みました。受付のウェイトレスさんにバーカウンターで待つように言われ待っていた約15分間、僕の野菜に「オー!アメージーング!」と感動するシェフのイメージを繰り返していました。


「シェフは本日忙しいようで、資材部とアポが取れましたのでそちらにお連れします」

「シザイブですか??ありがとうございます」

 「資材部」という言葉が初めてだったので、なんやろと思っていましたが、これから待っている高級ホテルとの取引に向けて期待と興奮が止まりませんでした。ウェイトレスさんの後ろについて歩き、一度ホテルを出て、従業員専用通路からエレベーターに乗って、地下にある資材部へ連れて行ってくれました。


「こちらへどうぞ!」


 パソコンがずらっと並び10名ほどが忙しくしている「資材部」の一番奥から、スーツ姿が似合ったお偉い雰囲気のマネージャー様が出て来てくださり、快く対応してくださいました。僕は名刺を渡し、席につきました。


「早速なんですが、野菜のサンプルです!大田区でつくっていまして、、、」と、いつも感じで説明をしていると、

「ちょ、ちょっと待ってください。君、会社の資料は?」

「えと、、、持ってません。」

「え、、、持ってない、、、?
君、ホテル相手に、ジーパン、Tシャツ、スニーカーはないだろう!資料も持たずに何をしているんだ!」

(部下の方々が後ろでパソコンをカタカタカタカタザワザワザワザワ)

「すみません。。。」

「君、起業したのはいつなのかね?」

「3ヶ月前です。。。」

(部下の方々が後ろでパソコンをカタカタカタカタザワザワザワザワ)

「はぁ(ため息)3ヶ月かぁ。。。何人でやっているんだい?」

「一人です。。。」

(部下の方々が後ろでパソコンをカタカタカタカタザワザワザワザワ)

「はぁ(ため息)。。。一人かぁ」

「はい・・・」

「村田くん、今日は明らかに準備不足だね。さっき、レストランからアポなしの若者の対応に困っていると連絡を受けてね。君はまわされてきたんだよ。」

「そうですよね。。。すみません。。。」

「ただね、君のアグレッシブさは非常に素晴らしいと感じた。君みたいなのは珍しいよ。君にビジネスの仕方とホテルの商流を教えてあげよう!

 まず、ネクタイまではいいから襟付きのシャツを買いなさい。ちゃんとアポを取って、革靴を履いて、資料を渡して、野菜のサンプルは一番最後だ。

 それと、東京のホテルは農家と直接取引はしなくて、基本的に大田市場の仲卸業者を通して取引をしているから、まずは大田市場の〇〇と〇〇に行きなさい。東京の野菜は大田市場に集まっていると思っていい。頑張りなさい。」

 マネージャーから有難いお言葉を頂戴している間、ついさっき資材部に向かうエレベーターの中で、自分より年下っぽい小柄なウェイトレスさんに「直接レストランまで野菜を売りに来る気合いの入った農家なんて見たことないでしょ?」と、ドヤ顔で言っていたアホな自分が走馬灯のようにフラッシュバックしました。

 農家のユニフォームは、ジーパン、Tシャツ、スニーカーにキャップだと思っていた僕ですが、すぐに渋谷で襟付きシャツを買いました。

 それまでの営業方法では、月に数万円の取引はできても月に数十万円の商談には絶対に結びつくことはありませんでした。マネージャーに教えていただいた通りに準備し、事前にこちらが何をどれくらい買って欲しいのかを明確にしてから商談に臨むことで飛躍的に結果が出るようになりました。

 この後、残念ながらグランドハイアット様との取引は実現しませんでしたが、親身になって指導いただいたマネージャーにはとても感謝しています。

 飛び込みは迷惑なのでちゃんとアポを取りましょう。でも、台風の日は飛び込みましょう。

 つづく。


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