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広告主のCM保存に望むこと

テレビ局から、古いCM素材についてしばしば問い合わせを受ける。

「昭和のとあるCMを番組で使いたいのだが、広告主も制作会社も映像を持っていないようだ。どこかに保存されてませんか?」

私はこういう問い合わせがあるたびに、映像が保存されていそうなところをいくつかあたって、見つかったら情報提供してきた。しかし残念ながら、見つからないことのほうが多い。

こうしたやりとりで痛感するのは、思いのほか多くの広告主が、過去のCMを適切にデジタル保存しておらず、自ら映像を提供できない状態にあることだ。

持っていないのではなく、おそらくどこにあるか分からないのである。えっ!?そんな有名作まで見つからないの!?ええっ!?そんな大手広告主なのに分からないの!?とビックリしたのは一度や二度ではない。なかなか悩ましい話だ。

古い広告に愛着のある社員が引退して、保存がおざなりになっていることもあるだろう。管理部門を分社化したり、社史編纂を外部化したりするうちに、どこに何が保存されているのかよく分からなくなったのかもしれない。統廃合のどさくさで行方不明になったものもきっと少なくない。

廃棄や散逸ではないと思う。映像はきっとどこかにある。どこにあるのか分からないだけだ。ただ心配なのは、そのまま放置しておくとやがて保存メディアが劣化して、再生できなくなる時がくる。そうなったらもう、どうしようもない。

(参考)
マグネティック・テープ・アラート& デッドライン2025

広告主が過去のCMを適切に保存してくれるよう、願ってやまない。

もちろん、1970年代後半以降であれば、かなりの数のCMが一般視聴者によってたまたまビデオテープに録画保存され、レトロ映像マニアがそれを発掘し、デジタル化して、Youtubeにアップロードしている。その数は大量である。素晴らしい情熱に心から感謝している。

しかし、残念ながら画質があまりよくない。ノイズだらけで色味も悪い640*480の映像を、現在のハイクオリティなテレビ画面に映したら目も当てられない。

私の手もとにもそうした映像があり、そこから何度かテレビ局に素材提供したのだが、あるCMのオンエアを見たとき、あまりの画質の悪さに思わず目をそむけた。とある大物俳優の若手時代のCMだというのに、最後まで本人かどうかよく分からなかった。そのくらいガビガビでボンヤリしていた。しかしそれしか素材がないのだから仕方がない。

この映像は、とあるレトロCMマニアにいただいたものだが、彼らのデジタル化の仕方に問題はない。彼らは膨大な収集物を、限られたスペックで効率よくデジタル化しなければならず、そのくらいの画質でやるしかないからだ。

ただ、世の中にそれしか素材が現存しないという状況には問題がある。

広告主、制作会社、広告代理店のどこかに、フィルムやテープの高画質媒体で保存されたCMがあるならば、それは必ず、高画質のままでデジタル化してほしい。そして、二次使用の依頼があればすぐに取り出せる状態にしておいてほしい。やっぱりテレビ番組で使うならば、できるだけ高画質で、権利者所蔵の正統な素材がいい。

昭和の視聴者の多くは、小さなブラウン管で、ノイズだらけの画面でテレビCMを見ていたから、高画質のテレビCMなんか誰も経験していない。だったら別に、低画質でもいいじゃないかと思うときもある。じっさい、YouTubeなどにアップされた昭和のCMは低画質だが、別に気にならない。

しかし、ハイビジョンや4Kのテレビ番組で同じ素材を使うと酷いことになるのは、さきほど説明したとおりだ。

フイルムの映像に糸くずが飛んでいたり、VHSの映像がノイズでゆがんでいたりするのは、レトロな風情があってよい。しかし、低解像度の動画を無理やり拡大して、ガビガビでボンヤリしてしまったものに、はたして何の味わいがあるというのだろうか。