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モビリティ×コミュニティで実現する居心地の良いサードプレイス|都市を醸す #3

都市や建造環境の微生物コミュニティを調査し、次世代の都市デザイン・公衆衛生事業に取り組む株式会社BIOTAが、様々な分野で都市を醸している実践者を深掘りしていく本企画。
第三回目は移動型クリエイションスタジオをベースにモビリティ時代に生まれる新しい場づくりを提唱されている一般社団法人spods代表・磯部洋子さんのインタビューをお届けします。

Text: Takayuki Aoyama
Text & Photography: Kohei Ito
Photography: Yuko Kawashima, Umihiko Eto, Yoichi Sato and Eriko Kaji

「楽しい」で人が繋がり、経済も循環する
移動型クリエイションスタジオspods(スポッズ)のバス

ITエンジニアリングと企画づくりに熱狂した学生時代と、社会人時代

——— これまで取り組まれてきたお仕事についてお聞かせください。

学生時代は、音楽系のwebサービスを構築していました。アーティストのツアーで、全国各地の公演に参加したファン達がそれぞれのツアーレポートを投稿し合えるツールやチャットなど、いわゆる参加型webサービスを作っていました。

大学卒業後は、エンジニア採用でソニー株式会社へ新卒入社したのですが、何故か通信事業の企画職に配属され新規事業の立ち上げをやっていました。

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ソニーを志望した理由は、小学生の時に祖父から初めてのカセットタイプのWALKMAN®︎を贈ってもらい、それが初めての自分だけのポータブルミュージックプレイヤーで、自分の世界を大きく変えてくれたからでした。

以来、大好きだったWALKMAN®︎の商品企画を入社4年目に携わることになり、大変でしたが、やりがいのある毎日を送っていました。

——— その時期はAppleがiPodを世に送り出した時期でしたから相当にハードだったことと思います。

2004年頃ですね。本当にドラマティックな日々でした(笑)。実は、私はAppleも大好きで、学生時代にApples社に招かれてWWDC (Worldwide Developer’s Conference)というデベロッパー向けカンファレンスに3年連続で参加し、Apple本社に伺う機会もありました。

社食でパーティーをやっている時にスティーブ・ジョブズさんと直接お会いできたこともありました。

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WWDCでの写真(磯部さんより提供)

WALKMAN®︎はiPodと競合でしたので、それこそ毎日がドラマ『24』みたいなエキサイティングな日々を送っていたように思います。

あるタイミングでPlayStationの開発部署へ移り、そこから約10年間、PS3の立ち上げのタイミングからPS4そしてPSVRが発売されて1年後くらいまでの間、商品プラットフォーム企画をずっとやってきました。

この10年は仕事が楽しくて猛烈に働いていたのですが、途中で身体に異常をきたしてしまったんです。

病の発覚と療養、そして世界へ

——— 異常というのは、つまりご病気されたのですか。

31歳の時に「若年性乳がん」と診断されました。夢中になりすぎて明け方になることもざらで生活も不規則でしたし、とても体に負担がかかっていたと思います。

企画が進んでいたこともあり休みづらかったのですが、病期の進行をふまえて年単位で、しっかりと療養することにしました。

ですが、私の性格上「このまま死ぬかもしれない。どうせ休むのならばやりたいことをしよう」という考えに至り、そこから世界を旅することに決めました。

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——— なんと、、療養しながら世界旅を敢行したのですね。

抗がん剤を打つペースは1ヶ月に1度なので、打ったらすぐに3週間の海外1人旅をしていました。もともと旅行好きでしたが、入社してから旅を全くしていなかったので、療養の期間には、アジアや欧州、北米南米などなど色々な国を巡りました。

その後、快復して会社に戻ってからはまたバリバリ働いていたのですが、病気を通して死生観が大きく変わり、三十代後半に差し掛かった時には「自分は地球に何ができているのか」について考えるようになりました。

——— 環境や社会へ、より思うことが出てきたのですね。

PlayStation®︎においても、子供向けの教育や、クリエイターさんが作りたいゲームがあるときに「もっと気軽にゲームを作れる環境を作りたい」という想いがありました。

私がゲームに夢中になっていた初代PlayStation®︎の時代って、いわゆる”クソゲー”が山ほどあったんです。今だったらボツレベルの(笑)。

今では開発費に何百億円もかかったりするので、個人の気軽なアイデアを起点にコンソールゲームを作ることはなかなか難しいですよね。ミニゲームや、モーションを使って絵を描けるような、創造的なゲームや、「ゲームを作れるゲーム」などを情操教育の観点で推進していました。

全てが売れるわけではなくても、多種多様な自由な創造物が存在できて、一定規模のビジネスはつくれるようなプラットフォームをつくれたらいいなと考えていました。

しかし、グローバル化と表現技術の高度化の流れのなかで、コンソールゲームの世界で無理にやろうとすることが必ずしも正解ではないなと考えるようにもなりました。

そんな、もやもやしながら過ごしているときに、一通の手紙が届きました。

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オファーレターを機に新たな出会い。転職へ

——— どんな内容のお手紙だったのですか。

それは転職のオファーで、「モノづくりの業務経験が豊かな人が必要で、あなたみたいな人を探している。一度話を聞いてみませんか?」というお話でした。

——— ヘッドハンティングだったんですね。

「ソニーを飛び出してチャレンジできるとしたら今回がラストチャンスかもしれない、私の今の役目は後輩、若い世代に譲ろう」と思い至り、孫泰蔵さんが設立された、子どもたちが生み出すアイデアをカタチにするクリエイティブコミュニティ「VIVITA」という会社の立ち上げに参画し、2年ほど働いていました。

その後は泰蔵さんの設立した、テクノロジーを駆使して人間中心の持続可能な未来を創造することを目指すコレクティブ・インパクト・コミュニティのMISTLETOE(ミスルトゥ)に転籍して、社会課題解決に取り組む世界中のスタートアップや活動家をたくさん見させてもらいました。

MISTLETOEは現在世界16カ国以上の国々で140近くのスタートアップに支援をしていて、世界の最先端に触れることができる場。世界中の産業がどんどん新陳代謝していくのがわかり、スタートアップの世界に魅了されました。

新しい産業が生まれて古い産業と置き換わっていく。スタートアップが成長するお手伝い、つまりは投資したり、投資先のビジネスの成長を支援したりと、エコシステム全体を見つめて何が必要なのかを考えたり。そうこうしているうちに「君も自分がやりたいことをやるべきだ」と言っていただいて、spodsの設計に取り掛かったんです。

“私が会いたい人”が集まる理由は「楽しいこと」以外にありえない — 『spods(スポッズ)』の誕生へ

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spodsバス (Photo by Yoichi Sato)

——— なるほど、ここでようやくspodsが出てくるのですね。spodsではどんなことをやりたかったのでしょうか。

学生時代から、私は自分がプレイヤーというよりも、場を作って、そこで色んな人が何かを生み出しているのを眺めるのが好きなんです。バックミンスター・フラーの『宇宙船地球号』みたいなことをやりたかったんですよね。

PlayStation®︎もそうですし、いかに人が熱中出来るプラットフォームづくりが出来るか。私にとっては、子供が自由に自然にモノづくりや表現に踏み出せる遊び場、「ハイパー児童館」みたいなものがVIVITAでした。

VIVITAは、VIVISTOPという小学生向けのクリエイティブスペースを提供しているんですけれど、3Dプリンターやレーザーカッター、制御モーターやセンサーなど、最新のものづくりができる道具や材料、そしてその使いかたを聞けるサポーターなどの人が集めてあって、創造への第一歩を踏み出せる「機会」がある場なんです。そこに関わっている人達が好きなことをできる。

それを、30-40代の、自分の世代向けに始めたのがspodsなんです。訪れた人がいいねと思って何かつくりはじめたり、やりたいことを自由にやれる場。限りある資源を前提に、衣食住遊をはじめ、なんでも自分たちでDIYでつくってみる遊びをしています。

でも、つくってください、から始めたら意味が変わってしまうので、基本は、ただ遊びに来てもらう遊び場です。というのも、私は「人がなぜそこに来てくれるのか」というのは「楽しいから」以外にありえないと思っているんです。

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——— 「楽しいから」一択というのは凄くシンプルでわかりやすいですね。

私が会いたいのは「自分の世界を探求することに夢中になっている人」で、そういう人たちと何をしたいかと聞かれたら、一緒になにか創ったり表現したりして遊びたいなと(笑)。そこに心が揺れる何かがあれば人は集まってくださるんですよね。

例えば「めっちゃ美味しいジビエがある」という理由だとそういう人たちを誘えますし、「手作りでサウナ作ったんだけど」という理由なら来てくれる。みんなもそういった理由の方が楽しんでくれる。楽しいから「一緒に楽しいことやろうぜ」とまた楽しい人を呼ぶという流れを生み出せるのが、”私が作りたい創造的な遊び場、PlayStation”なんです。

「自給自足な衣食住が詰まっている。それさえあれば楽しくやっていけるぜ」というか、お金に依存しなくてもみんな楽しく生きてゆける「象徴」「お神輿」みたいな存在でありたいなと。

一つの「問い」のようなものだとも思います。問いを打ち立てて、それをテーマにみんなで寄ってたかって遊べるものができれば面白いかもしれないと思ってspodsを作りました。

「自給自足な衣食住が詰まっている。それさえあれば楽しくやっていけるぜ」というか、お金に依存しなくてもみんな楽しく生きてゆける「象徴」「お神輿」みたいな存在でありたいなと。

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spodsと「まちけん」のコラボ企画「Bath × Bus Project」2019
(Photo by Umihiko Eto)

一つの「問い」のようなものだとも思います。問いを打ち立てて、それをテーマにみんなで寄ってたかって遊べるものができれば面白いかもしれないと思ってspodsを作りました。

ルイーダの酒場のようなイメージで次々と新たな出会いや機会が生まれるような場に。

——— 自給自足の場づくりというか、循環するシステムとして、ひとつのロールモデルになり得ますね。

皆さん結構忙しいので、ついでであれば遊びながら稼げるような、一石二鳥にも三鳥にもなるような価値を得られるような場にしたい。ドラゴンクエストに出てくる「ルイーダの酒場」のような、いろんなジャンルの人たちが集まって、プロジェクトが次々に生まれて、新しい発想にも出会える上にしっかりと稼ぐことも出来る。

spodsがきっかけで生まれたプロジェクトに収益が発生したら、その中の5%程度を寄付してもらうシステムを導入していて、今はそれで負担なく維持できています。

面白いのは、その5%の収益を使って新しく何をやるのかは、収益を上げた人が決めて良いというルールで、最近はサウナを作っていたり写真展を開催する企画が進んでいます。そこで紡がれた人間関係や資産によって回る場になっています。

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自作サウナを楽しむメンバーたち(磯部さんより提供)

——— まさに面白い人達と面白い事、そして経済が回っていくシステムが生み出されているんですね。

私は出来るかぎりspodsを無色透明な存在のままにしていたくて、サードプレイスであると同時にここがライフタイムの蓄積の場になればいいなと思っています。

Good Vibes Onlyというコンセプト。選択肢が増えることで人は孤独にならない。

私がspodsの活動に参加してくれている皆さんにお願いしているのは「Good Vibes Only」という考え方で、リスペクトし合えて個人で付き合っているからみんなで手伝います。

家と職場にしか居場所がないと、うまくいかないときは鬱々としてしまうけれど、それ以外の場所「サードプレイス」があると、人間ってやっていけるものです。

自分を受け入れてくれる人たち、自分が信頼できる人間関係が家や職場以外でもあれば、かなり救われるんです。

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バスの完成式 2019 (Photo by Yuko Kawashima)

私は、その場が小規模でも存在することで誰かのお役に立てるのではないかなと思い、活動をやっています。今現在はまだまだ実験段階の部分もありますが、うまく回っていくようであれば同じ仕組みで、もっと増やしていきたい。

人は夢中になって遊んでいる時が最も学習効率も高い

———確かに夢中になれる時間が人生時間のどれだけの割合を占めるかで充実感は異なっていくように感じます。

最近、spodsで「森で何かやろう。島で何かやろう」という話が出ているんですけど、面白いことに、森と島にときめく人ってそれぞれ異なりますよね。「海は好きだけど島は好きじゃない」って人もいたり(笑)。

そこに集まった人たちが夢中になれるような、それでいてただ遊んでいるだけじゃなくて、どういう都市設計や暮らしの設計、「どういうツールがあれば我々は幸せになれるのか?より多くの人を幸せに出来るのか?こういうのって面白くない?」という問いに対して、みんなで遊びながら探求しています。

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「spods長野小海・アートツアー」での一枚 (Photo by Eriko Kaji)

「誰かの抱えている問題」を解決していることって面白いので、夢中になって遊んでいる時が一番学習効率が高いと思っていますし、自分にとっても時間の使い方として最も有意義なもの。今はリソースがまだまだ少ないのですが、しっかり実験と検証をしていきたいです。

伊藤さんもはじめは、「何やらバスを持って面白いことをしている人たちがいるらしい」というお話を聞いたことがきっかけでspodsに来てくれましたね(笑)。

spodsバスの移動できるという性質により、自分と違う考え方との出会いがあると化学反応が起きやすいのです。

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spodsバスはメンバーで創り上げている (Photo by Eriko Kaji)

spods×微生物で「移動型のバイオラボ」の可能性

——— spodsのバスで日本各地を移動して場づくりが出来るということで、ビジネスのみならず、様々な可能性が広がりますね。

都市づくりにも、伊藤さんたちがやられている微生物研究についても、すごく興味があります。モビリティ型のバイオラボをやりたいです。伊藤さんの周りにいる「微生物クラスター」と、例えばサウナ好きの方々が形成する「サウナクラスター」とが混ざり合う事で、何か新たに生まれるものがあると思うんです。

土いじりも面白くて、都市設計も面白い。これからコロナで加速度的に都市がどんどん解体され地方分散していく中で、モビリティというのはその象徴的な役割になると考えています。

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千葉県酒々井町で農業もしている (Photo by Yuko Kawashima)

ただ考えているよりも、実践しながら考えていく。気づくこともより多面的になりますよね。そこで生まれたプロジェクトをやってみてオーディエンスがまた興味を持つそれがまた楽しいですし、新しいことが生まれるきっかけになるわけです。

次の未来をより良くしていけるスキルや表現力のある人たち同士が出会うことで生まれる相互作用パワーがいろんな人にプロジェクトを通じて生まれていくのが面白い。みんなが面白がる「問い」をこれからもどんどん提示していきたいと思っています。

——— 濃厚なインタビューでした。ありがとうございました!


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磯部洋子 |Yoko Isobe
固定概念を越えて、遊び心のある価値創出環境のデザインに取り組む環境クリエイター。ソニーにて約15年間、PlayStationやWalkmanの企画に従事。教育Techコミュニティ「VIVITA」の事業立ち上げ参画を経て、社会課題に挑む起業家を支援する「Mistletoe」で、コミュニティ形成やスタートアップ支援に携わる他、スピンアウト起業を支援するSpireteや、Human Augmentationファンド「15th Rock Ventrures」パートナーなど様々なプロジェクトで活動中。


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株式会社BIOTA
都市や室内環境における微生物多様性とそのバランスをデザインすることで公衆衛生を改善し、感染症拡大防止のみならず、日々の生活におけるヒトの健康を向上させるため、マイクロバイオーム分野の研究開発や製品開発に取り組んでいます。

弊社では、マイクロバイオームの先端ゲノム解析技術を自社の製品開発に活用したいとお考えの皆さま、また持続可能な次世代の公衆衛生の実現を目指している皆さまと、パートナーシップを組み研究開発を行っております。弊社の事業に興味をお持ちの方は、ぜひ一度ご連絡ください。微生物には詳しくないけれどご自身の経験等からアイデアをお持ちという方も、調査・研究のコンセプトデザインから一緒にお考えいたします。

E-mail: info[@]biota.ne.jp


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微生物多様性で健康な都市を創ります!株式会社BIOTA代表。慶應SFCで複数論文投稿、Forbes 30UNDER30、TSG2020最優秀賞、SONY U24 CO-CHALLENGE2020準グランプリなど。UVERworld大好きです。https://biota.city