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カレーライス

カレーライス

お皿に盛られたカレーは冷たかった。
父は以前、冷たいカレーを美味しいと言っていた。全く共感できないが、その冷たいカレーが今、目の前にある。

父はさっき死んだ。最後まで娘の私に、何も言わずに息を引き取った。末期のガンだったから、覚悟は出来ていた。まさかカレーを作り終えた時に、病院から電話が鳴るとは思ってなかったんだけども。

ー家族が、いなくなった。
カレーは冷たくて、
やっぱり父の言葉には、共感できなかった。
手の甲に垂れた涙の方が、カレーよりあったかいって、
「どういうことやねーんって...言っても誰も聞いてないか。」
カレーを食べる手が、進まない。

母が死んでから父と2人、私も父も帰宅時間はバラバラで、夕食だってまともに一緒に食べなかった。一日にする会話は2.3度で、1人で暮らしてるのと変わらないくらいだった。
でも、私が冷たいと言ったカレーが、本当に冷たいかどうか。そのカレーが、本当に美味しいか美味しくないか。
私が言ったことを否定するものがいなくなった。
「ふうん!この家の意見リーダーは今、私になったのか!そーかそーか!そりゃあ私も偉くなったもんだなあー!...。」

普段から別に話し相手なんかいなかったし
父がいたからどうとか別になんも、ないのに
なんでこんなにポツンと1人になったような
そんな孤独を感じるの?

この家にはもう、私しか、いなくなった。

その現実を、カレーよりあったかい涙がつきつける。
涙より冷たいカレーが、私を突き放す。

あと二口でなくなるカレーを前に、
インターホンが鳴った。

ついに、来たか。
ースプーンを置いた。

つづく

「カレーライス」
もちろんこれもつづきはありません。

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