認知症高齢者の対応に悩んだ話
デイサービスに勤めていた頃、まだ介護の世界に足を踏み入れて
2年目くらいの時だったと思います。
認知症で暴力を振るってしまう女性利用者と出会いました。
この頃の私は、まだ利用者ファーストになりきれておらず、
このかたと向き合うことに毎回躊躇し、ちょっと怖がっていました。
2年目とはいえ、まだまだマインドが新米だった。
この女性利用者の気持ちを理解できず、うまく対応できなかったことを
今でも後悔しています。
杖持って振り回さないで!当たると本当に痛いから!
大きな声で「いい加減にしろよ!。」(←何のことかわからない)
と言いながら送迎の車に乗り、「お前ら全員タダじゃおかないからな。」と
ずっと凄んでいて、相槌を打ったりするとメチャクチャ怒鳴られる。
介助しようとして近づくと叩かれたり、噛みつかれたりする。
車椅子に乗っているのに、いつでも杖を握っているから、それとなーく
杖を離れた場所に置くと「杖!つーえ、つーーーえ!」と叫び続ける。
杖を持っていないと不安になるのかと思い、返すと、その瞬間杖の柄でバシバシ
殴られる。。。
こういう方が1日おきにデイサービスを利用されていた。
デイサービス職員は何をされても我慢しなきゃならないの?と
本気で思っていました。
杖の柄で殴られたことありますか?渾身の力で振り回すので、ヒットすると
骨が折れたのかと思うくらいの衝撃で、痛かった〜!
「トイレ行きたい。」ってホント?5分前に行ったばっかりだよ!
この女性利用者のもう一つの問題が、頻尿。「トイレ連れてってー!」と
叫びます。トイレ介助をするとその間に何回叩かれるかわかりません。
でもやらないわけには行かない、、、地獄でした。
スタッフの間で誰が介助に行くか、なすりつけあっていました。(反省!)
トイレに行き、ものの5分もしないうちに「トイレ連れてってー!」と
雄叫びが。聞こえないふりをしても叫び声は大きくなるばかり。
デイサービスですから当然ほかにも利用者がたくさんいますので、
他の皆さんに迷惑になっては申し訳ないので、対応するしかありません。
スタッフも押し付け合いになってしまうので、その利用者さんが来る日は
スタッフの間にも険悪な嫌な空気が流れてしまっていました。
そんなある日、何を思ったか
「〇〇さんのトイレ、私が全部対応するよ。」と言ってしまったんです。
(その時の他のスタッフのほっとした顔は今でも忘れられません。)
「いくらでも付き合うよ。」と言えばよかった。
気を紛らすために、1日に何回トイレ介助をするかノートに正の字を書き、
数えました。
トイレに行く回数分だけ杖で殴られました。
トイレから席に帰る途中で「トイレ連れてって!」と言われ、
トイレに逆戻りしたことも一度や二度ではありません。
こんなことを1日おきに1ヶ月ほど繰り返していたのですが、
少しずつ、ホントに少しずつ殴られる回数が減っていきました。
でも、1ヶ月半くらい経ったところで、私の心に限界が。
いくら全部やると言ったからって、本当に一日中1人で対応していたら
悲しくなって、イライラしてきて、他のスタッフに文句の一つも言ってやろうと
思い始めたところに、「あんた、大変だね。」と当の女性利用者に言われたのです。しかも、泣いていました。
なぜ泣いていたのかは、今でも謎です。その後も殴ったり、大声で叫んだりする行為は変わらなかったですから。
ただ、本人も苦しかったのでしょう。もっと、その女性利用者の気持ちを
考えればよかった、と今でも後悔となって心に引っかかっています。
今ならもっと優しい言葉をかけることができるのに…。
その時は余裕が全くなかった…。
教えてくれてありがとう。
認知症は病気です。風邪をひいたときに咳や熱が出るように、認知症になると
すぐに忘れたり、攻撃的になったりと色々な症状が出ます。
理解するのが難しい場合も多々あります。しかし、病気の症状だと思い、本当に辛いのは本人だということを念頭に対応していかなくてはなりません。
認知症の人には「否定しない」という大原則があります。
こんな基本的なことがその頃の私はできていなかった。
利用者の気持ちを考え、どうしたいかを予想し、否定せずに対応する。
認知症の方への対応の基本をこの女性利用者に教えてもらいました。
たくさん叩かれて、痛い思いをいっぱいして、本音ではとても好きとは
いえないけれど、認知症介護の本質を教えてくれた方なので、ずっと
心に残っています。
だから、「教えてくれてありがとう。」と思うことにしました。
終わりに
介護の仕事はきれい事では語れないことが多々あります。
認知症の対応は、知識と理解が必要です。
平均寿命が伸びて、認知症高齢者の数も増えています。
介護に携わっていない方々にはあまり身近ではないかもしれないですが。
以前、ケアマネと地域の民生委員の集まりがあった際、
「自分の担当地区には、認知症の人は1人もいない。」と言い放った
民生委員がいました。そんなわけあるかーい!(ある意味無知は幸せかも)
認知症は身近な問題です。介護職だけが知っていればいいということでは
ありません。
日本は、2024年には4人に1人が65歳以上の高齢者になるんです。
認知症はもう他人事ではありません。
正しく理解して、みんなが住みやすい世の中になるといいな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?