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多職種研究会報告-家族教室の実践-

2、3ヵ月に一回くらいで、対人援助職の研修会を開催しています。「心のケア多職種研究会Lemonade」という会を立ち上げ、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、教員、就労支援施設職員、マッサージ師、心理職等々、多職種で集まって勉強を続けています。
 
2024年5月19日には、「家族心理教育のあり方-精神科病院での実践-」というテーマで開催しました。精神科病院で、精神障害を抱える患者様のご家族のための家族教室の取り組みを話していただきました。講師は、作業療法士と臨床心理士・公認心理師の3名が担当してくださいました。
 
今回のnoteでは、研修会の様子を振り返りつつ、家族教室の中でも、特に対話に焦点を当ててまとめてみます。私自身、以前勤務していた精神科病院では、家族教室の立ち上げから運営まで担当していました。当時の経験も思い出しながら、書いてみようと思います。
 
 

ご家族のための心理教育について


まずはじめに、心理教育は下記のように定義されています。

「精神障害やエイズなど受容しにくい問題を持つ人たちに、正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え、病気や障害の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処方法を習得してもらうことによって、主体的な療養生活を営めるように援助する技法」

(心理教育・家族教室ネットワークHPより)



心理教育は、精神障害を抱えるご本人に向けてはもちろんのこと、そのご家族に向けた実践も重要であるとされています。
心理教育のポイントを平たい言葉で整理すると、以下のようになります。

・ご本人やご家族が、自分たちに必要な情報を得る機会を広げること
・ご本人やご家族が、自分たちの問題に取り組みやすくなれること
・ご本人やご家族をエンパワメントすること

(『心理社会的介入プログラム実施・普及ガイドラインに基づく心理教育の立ち上げ方・進め方ツールキットⅡ 研修テキスト編』 伊藤純一郎監修 心理教育実施・普及ガイドライン・ツールキット研究会編集 COMBO地域精神保健福祉機構 2009)


 

講師の方々が勤務する精神科病院では、心理教育・家族教室ネットワークが推奨する心理教育のメソッド(標準版家族心理教育ツールキット)を取り入れ、精神障害を抱える患者さんのご家族を対象に家族教室を開催しています。

家族教室は、全8回1クール、10家族程度と枠組みを決めて実施しています。毎回の流れは、薬物療法や社会資源、リハビリなどの「情報提供のセッション」と、家族同士が交流しながら悩みを相談する「グループワーク」のセッションで構成されています。
 

 必要な情報を提供することと、悩みを相談するグループワークとの二部構成で家族教室をお届けする理由は、ご家族に知識と体験の両面から学びを深めていただきたいからです。
 
もちろん、家族教室に参加したからと言って、病気や障害がなくなるわけではなりません。けれども適切な情報を得て、ご家族同士で悩みや工夫を共有できるようになると、ご家族の対処する力や自信が増え、以前より健やかに自分の生活を楽しむことができるようになっていきます。

健康な部分、強みに注目した声かけのコツ


家族教室のグループワークでは、ご家族の悩みや、日々困っていること、もっとよくしたいと思っていることを皆で相談します。スタッフとしては、まず第一に安心して相談できる場づくりを目指します。家族としての立場を一旦横に置いて、参加しているその方自身が主体的に日々のストレスや困りごとを言葉にしやすいように、スタッフは声をかけていきます。

その際に大事にしている声かけがあります。今回の研修会では特に声かけのコツを学びました。まずはペアになって声かけのコツを学ぶワークを行いました。「問題を抱えていても、なんとかやっていける」と思えるように、どのように家族の話を聞き、声をかけていくとよいかを体験から学びました。
その様子を少しご紹介します。

 
ペアワーク①
ペアとなって、一人の人(話し手)が悩み事を相談した時に、もう一人の人(聴き手)が、ただひたすら聞くというワークをします。
 
ペアワーク②
その次に、「問題や苦労をわかろうとする質問」をします。
例)「その問題はいつからあるのですか?」
  「問題の原因は何だとお考えですか?」
 
ペアワーク③
さらにその後、「すでにその人がしている対処や工夫を知ろうとする質問」をします。
例)「今までどのように対処してきましたか?」
  「何事もなく過ごせたときは、何が良かったのでしょうか?」


このワークは、相手の聞き方によってどのような違いがあるのか、体験から学ぶことを目的としています。多くの参加者が、ワーク③の後で満足度が最も高いと回答していました。「すでにその人がしている対処や工夫を知ろうとする」声かけから話し合いを続けることで、相手に理解してもらえた感覚や自分が元気になる感覚が増していったと答えていました。

ワーク②のように、「問題や苦労をわかろうとする質問」は、気持ちが滅入っている場合にはネガティブな考えをエスカレートさせてしまうことがあるし、関係性の浅い人が質問すると侵入的に感じさせてしまう場合があるので、注意が必要とのことでした。


実際の家族教室の場面でスタッフは、ワーク③のような「すでにその人がしている対処や工夫を知ろうとする質問」を意識して投げかけます。そうすることで、その人の中にある健康な部分や強みを発見することができるからです。

  
ペアワークの後で、グループワークのデモンストレーションも行いました。家族役7名とスタッフ役3名が参加し、グループワークのデモンストレーションを実施しました。家族役は、今回研修に参加した方々の中から希望者を募って加わっていただきました。参加者が実際に自分が悩んでいることを話し合いました。個人的な話題も出たので、ここでは詳細を書かずにおきますが、参加者とスタッフの皆が、すでにできている良い点やこれから試してみると良いことについて、あたたかい雰囲気の中、話し合うことができました。
 

家族教室が目指すのは、「問題をすっかり解決する」のではなく、「問題を抱えていても、なんとかやっていける」と思えるようになることです。そのためには、支えとなるような考え方、工夫、そして共に支え合う仲間や支援者の存在が大切になります。

私自身の経験を振り返っても、家族教室の回を重ねるごとに、ご家族同士が打ち解け、職員を介さなくても互い相談できる関係になっていく様子を何度も見てきました。同じような経験を持つ仲間と出会うこと自体、家族教室に参加する大きなメリットであると思います。


研修会に参加してくださった皆様、ありがとうございました。
そして、noteを読んでくださった皆様、ありがとうございました。
 


参考引用文献
『すまいるナビゲーター ブックレットシリーズNo.1 統合失調症ABC』監修:上島匡利 大塚製薬 2016改訂
『すまいるナビゲーター ブックレットシリーズNo.3 統合失調症ABC“家族の接し方”』監修:上島匡利・白石弘巳 大塚製薬 2018改訂
『心理社会的介入プログラム実施・普及ガイドラインに基づく心理教育の立ち上げ方・進め方ツールキットⅡ 研修テキスト編』 伊藤純一郎監修 心理教育実施・普及ガイドライン・ツールキット研究会編集 COMBO地域精神保健福祉機構 2009
 

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