12月22日 第九とスープとゆず湯にあこがれ【今日のものがたり】
とある小学校からこんばんは。
「草木も眠る丑三つ時──もしかしたら僕、この言葉が好きなのかもしれません」
誰に告白しているのかと言いますとトイレの花子さんにしています。花子姉さんは僕のなんてことない話も聞いてくれる優しい姉さんなのです。
「なんてことないっていう自覚はあるのね」
そうたまに、いや、ちょくちょく僕の心まで読んで返してきてくれるのです。
だからこの草木も眠る丑三つ時が僕はお気に入りの時間だったりします。しかもこの時季は“第九”がBGMになるので、こんな僕でも年末なんだなぁと感じることができるのです。
第九がBGM。さて、どなたが演奏しているのでしょうか。音色は音楽室から聞こえてきます。音楽室には肖像画がありますね。そうです、有名な作曲家さんたちの肖像画が。その中のおひとり、もうおわかりですね、そうです、ベートーヴェンさんが肖像画から飛び出て御自ら第九を弾いて下さっているのです!
こんなことができる現代の世の中に感謝ですね。でもこれは、“ナイトメア”と呼ばれる存在に僕たちがなっているからできる技なのです。
「人体模型くんも第九を聴いて年末を感じるのね」
「感じますよー。今年も一年が終わるんだなぁって……。この学校もまもなく終業式ですしね」
動くはずないと思われている人体模型。それが僕です。月の満ち欠けと夜の限られた時間にだけ、僕やナイトメアと呼ばれるものたちは動くことができるのです。ここだけの話ですからね? でも実はこの一年間、何度も話しちゃってるからそろそろ飽きがきてるかも? なんて思っても言わないで下さいね。せつないから。
「そういうときはかぼちゃスープを飲んで心をほっこりさせたいわね」
「そのあとはゆず湯につかる」
「冬至ですものね」
「……その声は……保健室のたもつ……ッ」
僕と姉さんの会話に入ってきたのは……今年ナイトメアとして覚醒した保健室の(なんかいけすかない)たもつだった。
「たもつちゃんだよ、人体模型くん」
「……ちゃんなんてつけなくてもいいだろ」
「何か言ったかい?」
「……たもつちゃんはなにしに来たの」
「散歩、かな。僕はかぼちゃスープもゆず湯にもつかってるからあとはもう寝るだけなのさ」
「スープも飲んで、ゆず湯にもつかっている? どうして……」
ナイトメアは体内に何かを取り入れるということはできないはずなのに……。
「“ほけんだより”でしょう。保健室の先生が作ったほけんだよりに、そのキャラクターであるたもつちゃんがかぼちゃスープを飲んでゆず湯につかっているイラストが描かれた。そういうことでしょ」
「さすがはトイレの花子さん。ご名答です」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこととは聞き捨てならないな。イラストだろうが、事実は事実。ぼくはどうやら子供たちにも人気のようだし、来月以降もほけんだよりに登場するだろう」
だ、誰か人体模型をイラスト化して、かぼちゃスープを飲んでゆず湯につかっているシーンを描いてくれないだろうか。そうだ、今年のクリスマスプレゼントはそれがいい。
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