私は元左利き。

最近ハマっている事がある。
それは、ペン字の練習。
ペン字はペン字でも左手で書くペン字の練習である。
さらにややこしいことに、私は右利きに矯正された『元左利き』で左手でまともに字が書けないところからの練習である。

これが、楽しい。

とにかく楽しい。
楽しくて楽しくて、もうずーーーっと１日中字を書いていたいくらい。楽しくて仕方ない。 

私の世代はお箸やペンを持つ手を右に矯正される左利きの人は多かった。
私もその一人ではあるんだけど、ちょっと私が異色なのは私はお箸やペンだけでなく日常生活で使う手を完全に右に矯正されたことである。
私は３０半ばを過ぎた頃姉に「あんたは左利きだったよ」と言われるまで自分が左利きだったことすら忘れていたくらいだ。
忘れていた、というより記憶の奥底に長い間眠っていたいろんな謎がその一言で「そういうことか！」とやっと腑に落ちた、という感じだった。

私の母は子供に自由を許さない人だった。 彼女が思う理想は絶対で逆らうことは絶対に許されなかった。
まだまともにスプーンが握れないような幼児の頃から私は無理やり右手にスプーンを握らされ、右手のスプーンですくったご飯しか口に入れる事を決して許されなかった。お腹がすいているのにうまくご飯を口に入れる事ができず泣く私に何時間でもスプーンを押し付け握り直させる人だった。
そしてそれは食事に限らず全てにおいて『行儀よく』上手に右手を使わなければならなかったのである。

姉から「あなたは左利きだった」と言われた時、最初は「……は？」と思った。
何の勘違いだろう？と思った。
けれど、「いや、確かあんたは小さい頃は左利きだったよ」と再度言われた時、突然小さい頃の左手にまつわるいろんな出来事が走馬灯のように怒涛のごとく一気に脳裏に蘇ってきた。

……どうして忘れてたんだろう。 

どうして、どうしてこんなに、こんなに長い間、こんなにきれいさっぱりすっかり忘れていたんだろう……。 

一度思い出すと記憶の波は止まらなかった。
長年の謎だった小さい頃の私の写真、左手でペンを持って絵を描いているようだけど、カメラに向けた私の大きく見開いた目はとても恐怖に満ちている。左手にペンを持っているのも私の表情も、長い間とても疑問だった。

ああ、そういうことだったのか。 

小学１年の頃、外で一人一人土手に腰を下ろして写生をしていた時、私は絵を描くことに夢中になっていて先生が近づいてきたことに全く気づかなかった。先生に「よく描けてますね。」と声をかけられてひどく動揺して「違うんです！今たまたま左で持ってただけでちゃんと右手で書いてました！ほんとです！左手は使ってません！！」と必死で言い訳する私に先生が「学校では使いやすい方で書いていいですよ。」と言ってくれてひどく驚いたこと。

大きくなっていくにつれ、体育やスポーツをするたび右利きだと周りも自分も思っているのに右手でうまくできないジレンマ。
そして左の方が楽なのに左手を使うことへの異常なまでに感じる強い抵抗感。

ああ、 私の左手は幼くして殺されたのだーーーー。

私は食事が嫌いだ。 私にとって食事は憂鬱なものでしかない。
霞を食べて生きたい、というのが私の口癖だった。
それは人生で最初に経験した毎日の三度三度の食事が私にとって地獄でしかなかったからなんだなぁ……。

さて。
そんなことを思い出した後も、私は長く今まで通り右利きとして変わらず暮らしていたのだけど、２年ほど前「ぼくは左利き」という本に出会った。
これは右利きに矯正されて育った左利きの著者が大人になってから左利きに戻したという経験を綴った本で、その中に「書痙」という言葉が出てくる。
書痙とは文字を書く時に手が震えてしまうことなんだけど、著者の度会金孝氏は人前で右手で文字を書くと緊張で震えてしまうと書いていた。
それを読んで「あ！私もだ！！」と思った。
大人になってからも結婚式やお葬式の芳名帳に字を書く時とにかく手が震えて本当に困る。周りには同じ症状の人をあまり見かけないので、どうして私はこんなにビビりなんだろう……と思っていた。
それが度会金孝氏は左手で文字を書くようになったら書痙の症状が出なくなったというのだ。
衝撃だった。
本当だろうかーー。
にわかに興味が湧いた。

著者の度会金孝氏は今でも右で書く方が字もうまいし早く書けるけど、それでも左手で字を書いているという。
私ももう母も亡くなっているのだし、左手を使ってあげようかな。
そう思った。
それで１年半くらい前からお箸とペンを左に持ち替えた。
仕事中はさすがに右で字を書くけれど、自分の手帳やメモなどは左手で書いている。 本にもあったけれど、元は左利きとはいえ、５０年使ってないともはや利き手ではなく、一から練習してるも同然である。
でも両手でお箸使えたら脳出血で半身麻痺になっても便利だし、字は一からきれいな字を練習するいいチャンスじゃん〜❤️ 

ということで、１年ちょっと左手でペン字の練習をしています。
下手だけど、ペンも指も全然思い通りに動かなくてめちゃめちゃムズイけど、最近やっとちょっと小学生レベルくらいにはなってきて、なんかすっっっっっごい楽しい。
左で字を書くのがとにかく楽しい。
一日中書いていたい。

でも大人って字書かないんだよね〜。
学校行って毎日嫌んなるくらいノートとりたい。（笑）

noteも手書きで書けたらいいのになぁ。
そんな今日この頃です。