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"狂気"をどう表現するのか:『花束は毒』読了



※注意
以下、ネタバレが含まれますのでご注意ください。
また、過去に自分がちょこちょこ書いた創作の話をします。不快でしたら申し訳ございません。



もしご興味を持っていただければ感想文を読む前にこちらをお読みいただけると大変嬉しいです。

2000字のホラー 『理想の人』




私は、こういう狂気じみた行動をするキャラクターが好きなのかもしれない。

以前、2000字のホラーというお題で似たような作品を書いたので、なんとなくこの物語においての犯人というか全てのことの発端となる人物に見当はついていた。


私のプロフィールやら記事やらを見てもらえれば分かることだが、私は某事務所の男性アイドルグループに夢を見るしがないヲタクである。
SNSでもリアルでもいろんなヲタクを見てきたが、どこかみんな狂気じみた様相をしている。もちろん、私含め。
だからこそ私は書いたのだ、あの2000字のホラーを。

私の書いた物語は簡潔にいうと「推しに一目惚れして結婚しようと思い立ったヲタクが狂気じみた行動の数々を起こし目標達成にまでこぎつける物語」である。

『花束は毒』の「かなみ」のような人物が私の書いた物語においても暗躍するわけであるが、私が書いたものは物語の半分ほどを使って「かなみ」にあたる人物の目線で物語を描いている。

一方、『花束は毒』においては、一切かなみの視点がない。かなみがどういう人物であるかは第三者目線でしか語られない。主人公の木瀬も、探偵の北見先輩も、かなみと直接話したり会ったりする場面がないので、人物像がずっとぼやけたまま話が涼しく。
そんな中、物語の最後の最後になって実父の口から本性が明かされるのだから、読者にとってはより一層恐ろしく映ることだろう。それまで読者にほとんど情報が与えられず、なんならこの物語でにおいてずっと精神的に追い詰められていた真壁を支える、優しくて懐の深い人間みたいなイメージすら植え付けられているかもしれない。

途中からやけにかなみの描写が少ないことが怪しく感じていたので、なんかこいつが犯人くさいなとは思っていたけれど、きっとこの怪しさと不穏さを徐々に感じさせていくあたりも技なのだろう。

物語としての大まかな流れは、たぶん2000字程度で書けるくらいのことなのかもしれない。
しかし、かなみという人間だけをぼやけさせたまま、そのぼやけた姿に少しずつ疑問を感じさせて、最後に捲り上げるという構成は素直に見事だと思った。

正直、物語の大筋だけでいいと思う人にとっては中弛みするように感じるところもあるだろうが、
おそらく筆者が書きたいであろう最後のどんでん返しが今まで読んできた部分に比べるとごく僅かなページ数であることを見るに、この物語の犯人を語らには周辺人物の描き方が大事なのかもしれない、と私は感じた。
主人公の木瀬や北見先輩、真壁、そして真壁周辺の人物がやたら特徴的にどのような人物か描かれていく中で、最後の最後まで語り手との接触がなく結局のところどういう人物なのかハッキリしないまま終わるあたりが、かなみの圧倒的な気味悪さを引き出しているからだ。

正直そんなに要らんだろと思うくらい細かく描かれる全登場人物の中で、全く姿を表さないかなみ。
読了した今も、何を考えているのか全く分からない人物である。

この物語では、真壁に真実を知らせたのか、かなみの本性を目の当たりにしたのか、木瀬と北見先輩はどうなったのか、全てが釈然としないまま終わる。
私たちが唯一感じ取れるのは衝撃的な、全ての物事の始まり、この物語の真実だけだ。
この後味の悪さも、狂気じみた真実の全貌を強烈に印象づけるための演出なのだろう。


私自身が書いた作品、これは『花束は毒』のかなみにあたるような人物が自らの言葉で真実を語り、終わる。
もちろん『花束は毒』ほどの怖さはない。だけれどもあの話も最後の一文で自分なりの後味の悪さは残したつもりだった。

『花束は毒』のように他の人物ひとりひとりにスポットライトを当てることで、あえて当たらない人物に違和感を抱かせるなんて考えもしなかった。
口コミでは中弛みとか後味悪いとか言われてたけど、もうその感想自体が筆者の術中にハマっているというわけだ。

狂気じみた行動をするキャラクター、かなみの暗躍ぶりが超簡潔に書かれており、おそらくその部分では読者もページを捲る手が止まらなくなっているだろうから、大それたことをしているのにスッと終わるあたりもかなり気持ち悪くて素晴らしかった。

ミステリーをこういう角度で読んだのは初めてだったので、これからもいろんな作品を読み、気付きを深めていきたい。

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