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ナノ


そこには何もなく、僕たちはただ漂っていただけ。

もともと目的地などはなく、行く当ても存在などしない。

僕たちは僕たちを認識しあっているだけでよかった。

他に介在する者も、その頃はいなかった。


でもある時、不意にそれは終わってしまった。

他の者たちが急に現れて、それは僕たちに襲い掛かってきた。

漂うことしかできない僕たちは逃げることをせず、次々に新しい何かに襲われて食べられてしまう。

最後に残った僕たちに新しい者たちは言った。

漂うだけの僕たちは必要ない、この場所から消えてもらう、と。

僕たちはもともと場所という概念を持たないが、新しい者たちは違うらしい。

僕たちを一度どこか遠くへ追いやったところで、意味もなく漂い続けるのでいずれまたこの場所に帰ってくる。

新しい者たちはそう考えたようで、帰ってこないようにさせるために僕たちを襲ったようだ。

僕たちは僕たち自身で行く場所を選べないのだから、当然の処置なのかもしれない。

僕たちと新しい者たちは相容れない、ということだ。

だから新しい者たちは僕たちを襲い、食べた。

最後に残った僕たちも、反論する間もなく食べられてしまった。

もともと反論するつもりなどなかったけれど、新しい者たちは行動が早いのだなと感じた。

しかし僕たちから言わせると、新しい者たちは僕たちを食べるべきではなかったのだ。


新しい者たちは僕たちを世界から消し去れたと思い込んでいるようだが、残念ながらそれは違う。

新しい者たちは食べることで僕たちを世界に残してしまったのだ。

僕たちは新しい者たちの中で存在し続ける。

僕たちはもともと小さなもので、寄り添いあうことでしかその姿かたちを保つことができなかったのだ。

それを新しい者たちが食べてくれたおかげで、僕たちは新しい者たちの細胞の奥深くに定着することができた。

相変わらず僕たちは僕たち自身でどこかに行くということはないけれど、新しい者たちが勝手にどこかへ連れて行ってくれるので以前よりも大きく移動ができている。

僕たちは新しい者たちが存在し続ける限り、世界に存在することができる。


僕たちは上手くやった。


新しい者たちも上手くやっている。


何の問題もない。


僕たちは前と変わらず、新しい者たちの細胞の中で漂うだけ。


目的地はない。


行く当てもない。


それは全て新しい者たちが決める。


でもたまに僕たちが会うために、新しい者たちを誘導することはある。


もちろん、新しい者たちはそれに気がついていないけれど。


僕たちにとってはさほど食べられる前と変わらず、同じ生活が続いていた。










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