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涙採集



やさしい彼等はハゲタカに襲われる。

彼等自身、それを何度も繰り返しているのにどうしてかいつも同じことを繰り返す。

彼等は彼等のやさしさに付け込まれていることをきちんと理解していない。

理解していないから、彼等はまたハゲタカに襲われる。



俺はまたその様子を上の方からぼんやりと眺めていた。



世界中にいる二割ほどのやさしい彼等の内の一人、正しく言うと今回は彼女。

やさしい彼女が、ハゲタカどもの餌食になっていた。

彼女は与えられるものは何でも与えた。

しかしハゲタカどもは彼女に感謝することもなく、何かを彼女に差し出すこともせずに去って行く。

彼女は手持ちがなくなって途方に暮れていたが、それでも歩みは止めずに家路についた。

ご飯を食べ、風呂に入り、寝るには早いので椅子に座って何かを考えているようだ。

不意に彼女は気がついた。

自分がまた奪われただけで終わったことを。

自分は何も対価を貰っていないことを。

しかし気がついたとて、もうすでに遅い。

彼女はもう全てを与えた後で、ハゲタカとの交渉は何時間も前に終わっている。

ハゲタカは何も対価を彼女に渡さずに去った後だ。

彼女にはもうなにもできない。

彼女の持っていたカードは消えたのだ。

また集めるにしても時間がかかるだろう。

そしてまた集めたにせよ、また彼女はハゲタカに渡すだけで終わるのだ。

彼女が何か、彼女の与えてきたものごとにたいして対等な対価を受け取ることはない。

それは彼女自身気がついていないが、決定事項なのだ。

やさしい彼等のうちにいる彼女は正しい対価を受け取ることはない。

その日、彼女は考えるのを止めて早めに就寝した。




真夜中。



俺たちは動き出す。

今日は何人がハゲタカにやられたかなー

さあ……この地区だとハゲタカに全部取られる奴は限られてるんじゃない

今日、ひとり増えたぞ

俺の言葉にチームの二人が驚きの声を上げる。

お前たちは東のエリアに来ないから気がつかなかっただけだ

今回で連続三回、何も対価を受け取れていない

確定でいいだろう

あー……東か、確かに私はそっち行ってないわ

まぁ東は寂れてるからね、ハゲタカが住んでいてもハゲタカの餌食になる奴はいないと思ってたよ

無言でいかついゴーグルつけると、既に青白い光が家々から零れている。

俺がゴーグルをつけるのを見て、二人も倣ってゴーグルをつける。

あー、これは結構今日は骨が折れそうね

ハゲタカが頑張ったととるか、愚かな餌食が増えたととるか……

どちらでも構わない、俺たちのやることはひとつだ

夜明けまでに終わらせるぞ

はーい

了解


それぞれが青白い光に向かって飛んでいく。

俺は少し考えてから、先程まで観察していた彼女の家に飛ぶ。

案の定、青白い光が零れている。

そっと壁をすり抜けて中に入り込み、彼女が寝ているベッドの横に立つ。

シクシクと泣いている声が聞こえた。

やさしい彼等はハゲタカに、もしくはハゲタカではなくとも正当な対価を得られなかったときに毎夜ベッドで泣く。

俺たちはその涙を集めるのが仕事だ。

集めた涙は上に渡すので何に使われているかは知らない。

何に使われるのかも興味はない。

噂くらいは聞いたことがあるけれど、噂はあくまでも噂であって事実ではない。

仕事用の手袋を身につけ、彼女の頭上に手をかざす。

青白い光が手袋に集まってくる。


青白い光が彼女から消えるまで、俺は彼女の側から動かなかった。







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