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夏一番

我が家の夏一番乗りは、毎年三つ下の妹が持って帰ってきていた。

だけど今年はちょっと違う。

なぜだか、このあたしが夏を一番に持って帰ってきてしまった。

不覚、本当に一生の不覚だわ

忌々しく口にすると、お母さんは苦笑いしてあたしを見る。

珍しいよね、お姉ちゃんが今年一番だなんて

うるさいわね、むしろなんでアンタじゃないのよ

だって私、今回に関してはちゃんと、念入りに、持ち帰らないように準備してたもの

ちゃんと、念入りに、の部分を強く発音するあたりに妹にたいして強く苛立ちを感じる。

あたしだってちゃんと念入りに準備してたし!

なんでアンタは持ち帰らないのよっ!

そんなこと私に言われても……

妹は口をとがらせて俯いたけれど、きっと心の中では舌を出しているに違いない。

妹はいつだって、あたしの失敗や不幸を喜んでいるのだ。

あたしの方が妹よりも出来がいいから、あたしに良くないことが起こるのを常に待っている。

どうやったって妹はあたしに敵わないのだから、まあ疎まれてもしょうがないのだけれど。

そんなことよりも、今。

今、夏一番をなぜあたしが持ち帰ってしまったのか、が問題なのだ。

あーもう、ほんとついてない

……普通に考えてさ、お姉ちゃんの学年がさ登山だったから持って帰っちゃったんじゃいの?

アンタの学年は登山じゃなかったけど、アンタはそれでも毎年この時期に持って帰ってきてたわよ

ううん……、でもさぁ

はい、そこまで

お母さんが手を鳴らして、あたしたちのヒートアップしそうな会話を止めた。

そして救急箱からいつものあれを取り出して、あたしに渡す。

もう、言い合いは駄目よ

あとちょっとで夕食なんだから喧嘩しないでね

お姉ちゃんは、それ塗ってからもしばらく持ち歩いてなさい

はあい、と妹と声が重なった。


あたしは受け取った物のキャップを外して、右肩の中心あたりにそれをそのまま塗りつける。

ツンとした匂いが鼻をかすめて、塗った箇所は空気に触れた部分からひんやりとしてくる。



あー、かゆっ



塗ったばかりだというのに、無意識に右肩に左手が伸びる。

そしてそのまま二、三回爪を突き立ててかいてしまう。

あ……やば

塗った意味がなくなってしまったが、痒いものは仕方がない。

お父さんが帰ってきたら、きっとまた珍しいとか言われるんだろうな、なんて考える。

塗り薬のキャップを閉めてそのまま持ち歩く。

夕食までに宿題を終わらせなければ。



子供部屋の方では妹が、私もさされてたーーーと大きな声を上げていた。




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