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夕飯まで待てない

おなかすいたぁ、と情けない声を出したのは炊事を絶対にさせてはいけないと両親から言われている妹だった。

なんかたべたいよぅ

そんな長女である妹はごろごろと床を転がり無駄な体力を消費させながら、呪詛のようにずっと同じ言葉を唱えている。

おなかすいたぁ

なんかたべたいよぅ

ずっと言い続けているものだから、それを見かねた妹……次女が何か作ろうか、と声を発しそうになったのを見て先に僕が声をあげる。

もう少しで母さん帰って来るんだから待ってろよ

それかなんかお菓子でも食べてろ

もしくは静かに寝ていてくれ、と心の中で付け足しておく。

お菓子じゃおなかはふくれないのー

あたしはご飯がたべたいのー

わざとらしく両頬を膨らませて、お兄ちゃんはわかってないなあと不貞腐れる。

不貞腐れてもごろごろするのは変わらない。

せめてもう止まって体力を温存させ夕食まで大人しくしていてほしい。

次女は大人しく宿題をしているというのに、なぜ長女はこんなにもだらしない上にわがままなのだろう。

少しは次女を見習ってほしいと思うものの、絶対に口には出さない。

喧嘩のもとであり、後で両親から怒られるもとでもあるからだ。


誰かと比べるようなことは言わないように。


それが僕に与えられている両親からの言いつけだ。

そしてもうひとつ僕は両親から言われている。


長女には炊事をさせるな、させたら家が火事になるか凄惨な事件現場になる。

だから何か炊事をしようとした瞬間に絶対に止めろ、と。


次女に関しては両親は何も言いつけていなかったような気がする。

恐らく両親から見て一番まともなのが次女だからなのだろう。

だとしても炊事を一切させるなとは、よくわからない謎な言いつけだ。

これから大人になったら確実に一人暮らしはするだろうし、そうしたら嫌でも炊事をすることになると思うのだが……。

ちょっと考えに耽っていると、次女が僕の右の袖を引っ張って控えめに言う。

お兄ちゃん、わたしも少しお腹すいた……

まじか

次女の言葉を聞きつけて長女がここぞとばかりに僕にくってかかる。

ほーら、おなかすいたっていってるじゃん

やっぱこのじかんはおなかすくんだよぅ

なんだか面倒なことになったな、と頭をガシガシと乱暴に掻いて考える。

そして壁掛け時計に目をやる。

後小一時間ほどで母親が帰宅するのを確認した。

今からなにかを作るとしても、その後に母親の作ったご飯が食べられないのは困る。

……即席ラーメン一袋、三人で分けて食べるか

えー、ひとふくろだけぇ?

夕飯食べれなかったら母さん怒るだろ

うん、それはお兄ちゃんの言う通りだとおもう

そっかぁー、じゃあしかたないねぇ

仕方なく折れてあげました感を出してきた長女にイラっとしつつ台所へ向かう。

片手鍋を取り出して即席ラーメンを棚の奥から引っ張り出す。

醤油と塩、どっちがいい?

妹たちに振り返って聞くと別々の味が返ってくる。

頭の片隅で面倒くさいと感じつつ、僕は僕の好きな方の味を作ることにした。

後ろから長女の喚く声が聞こえてくるが、無視して即席ラーメンを作り小さい器に分ける。

長女が多め、次女普通より少なめで、僕も少し少なめ。

出来上がった即席ラーメンは、先程まで文句を言っていた長女の口に吸い込まれていく。

文句を言っていたわりに誰よりも早くぺろりと完食して、またごろごろし始める。

味にこだわりなかったんかいと心の中でつっこみつつ、僕は次女が食べ終わるのを待ってから食器を洗う。

その後は何事もなかったかのように三人で母親の帰りを待った。


これが僕たちのよくある日常のひとつである。







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