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伝聞



手を開いたり閉じたり、あの子は空に向かってそんなことをしていた。

声をかけるかどうか迷ったが止めて、もうしばらく様子を見ることにする。

太陽に掌を向けており、甲にその光は届かない。

どちらかというと手の甲に光をあてて、その光の暖かさを感じればいいのになどと思う。

ぼーっと眺めているけれど、あの子は一向にそれを止める気配はない。


……?


あの子の手のひらの中に青白い光のようなものが一瞬映った。

見間違いかと思って今度はよく目を凝らして凝視する。

空というか太陽から何かが降りそそぎ、あの子の手のひらに集まっている。


なんだあれ……?


見間違いではなかったことに驚きつつも、首をかしげる。

さすがに気になってしまったので声をかけることにして、あの子にそっと近づく。

あと三メートルほどのところであの子がこちらに振り返る。


あ……


なんだか気まずくなってしまい、思わず声が漏れた。

そもそもそっと近づいたのが、この気まずさの原因なのだが。

あの子は不思議そうに顔を上げて、こちらの目をじっと見つめてくる。

そのことにも少し気おくれしてしまう。

そういえば、あの子はこういう子だったと思い出す。

じっと相手の目を見て絶対に逸らしたりはしない。

それが原因であの子のことが苦手な者が多いということをあの子自身は知らない。

知らないというよりは気がついていない。

まあ知ったところ、気がついたところで変わらないとは思うが。


なあに?

あ……と、さっきから何してるのかなって


あの子のしていたように手を開いたり閉じたりしてみせる。

あの子はああ、と聞かれたことに答える。


あれね、世界からエネルギーをもらってたの

エネルギー?

うん、太陽に向かってね

手をこうやって動かすとエネルギーが集まってくるの

体調が悪かったり、元気がないなーってときにするといいんだよ


はぁ、と曖昧な返事をしてしまう。


君にはその、エネルギー?

が見えるの?


あの子は首を横に三回左右に振る。


見えないけど、感じるの

エネルギーが集まってきてるなあって

……集めたエネルギーはどうするの?

こうやって体の中にいれるの!


あの子は言いながら、掌を胸のあたりに押し付ける。

あの子の手のひらにあった光が、あの子の体内に入っていくのが見えた。


それ……誰にでもできるものなの?

ううん、どうだろ?

あたしの家族はみんなできてたと思うよ

他の人たちのことは知らない


遠くの方で鐘が鳴る音が聞こえてくる。

あの子はその音を聞いて、ご飯の時間だとパッと顔を明るくさせる。

そして笑顔でじゃあねと言って走り去っていった。

あの子のしていたことは、きっとただのおまじないの様なものだろうと思う。

しかし、効果のある本物のおまじないがまだ受け継がれていたとは思わなかった。

小さくなったあの子の後ろ姿を目で追いつつ、良い魔女になるかもしれないななどと考えていた。


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