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論文を探せ

ブルーベリーは遺伝子を再生するという話を聞きつけた彼女は、毎食と間食にブルーベリーをくわえるようになった。

今も私の前で、ちまちまとひとつずつ口に運んでいる。

ひとつ食べ終えてから、次のひとつを食べ進めるので一向にその量が減らない。

しかも彼女が食べているそれは冷凍のブルーベリーで、皿の上に出しているとはいえ既に溶け始めて色素が滲んでいるのが見える。

それ、もっと早く食べきった方がいいんじゃないか

んー、食べるスピードは変えられないから無理ね

……溶けたら味変わるんじゃないのか

それがいいんじゃない

さらりと言うが食べ終わった後の彼女の手のひらと口周りは、それが溶けたことで酷いことになっているとしか私には思えなかった。

しかも彼女はそのことに気がつかないので、食べ終わるごとに大騒ぎだ。

毎回その茶番に付き合わされる身にもなってもらいたい。

というかさ、そんなので遺伝子が再生なんて本当にするのか

なによー、疑ってるわけ?

ちゃんとどっかの論文で見たわよ……見たはずよ

なんで語尾が弱くなるんだよ

急に彼女のブルーベリー遺伝子再生論が怪しくなった。

無言で彼女を見つめてみたが、気まずそうに逸らされる。

あのさ、論文読んでそれに影響されるのは別に構わないけど……せめて誰の論文なのかは覚えておいた方が良いんじゃないか

とりあえず、その論文もう一回見つけて来るまでブルーベリー禁止で

彼女の机にあるブルーベリーの大量に乗った皿を取り上げて、自分の机に置く。

それも彼女から一番遠い場所に。

溶け始めているそれをいくつか取って口に放り込む。

地味にまだ凍っている部分があって、噛み砕きにくい。

目の前の彼女から非難の声が聞こえたが、気にせず食べ続ける。

さっさと皿からブルーベリーをなくして、手も皿も洗いたい。

ついでに口の周りも洗って拭きたい。



私が全てを終えてから戻ると、そこに彼女の姿はなかった。

恐らく論文を探しに行ったのだろう。

とりあえずしばらくの間は、彼女がブルーベリーを食べる姿を見なくて済むだろう。

とはいえ彼女はたまに凄い速さで探し出し、調べ上げてくるので油断はできない。

とにかく、私は私の仕事を進めなければ。




集中していて気がつかなかったのだが、彼女がいつの間にか戻って来ていた。

……何食べてるんだい

ん、クランベリーだよ

……どうして?

論文には別にブルーベリーじゃなくてもいいようなことが書かれていたと思うのよ

思う?

そ、ベリー類なら何でも良くて確かブルーベリーがより良いみたいな書かれ方だったと思うのよね

それを確かめるために論文を見つけてこいって言ったんだけどな

私が呆れているのにも構わず、彼女はクランベリーを食べ続ける。

青、というか紫から赤に食べる物が変わったのか、と冷静に考えている自分にも頭を抱えたくなる。

まあ、食べるのは良いけど……ほどほどに、ね

ん~

私は彼女の代わりにブルーベリーの論文を探し出しておこうと、この時に決意した。



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