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それはどちらかというと『野心』だ

あたしには野望がある。

家族や友人にも、そう、誰にも言っていない野望だ。

何故言わないかと言うと理由はいろいろある。

まず言ったところで鼻で笑われた後、そんなの無理に決まっているという言葉が返ってくることが目に見えているというのがひとつ。

言葉にしたとたんに実現が遠ざかるということがひとつ。

誰にも知られずに実現させたいという欲求がひとつ。

……あれ?

みっつしか出て来なかった。

ちゃんと深く思考するときっともっと理由が出てくるのかもしれないけれど、一番の理由としては誰にも知られないで実現させたい、というあたしの欲求だろうと思う。

どこかで聞いたのか読んだのかは忘れたけれど、実際には野望というか目標は口に出していく方が実現率が高まるらしい。

でも、あたしはそれについては懐疑的だ。

言葉にすることで自分をその方向へ追い込んで実現させていく、とかそういうことだろうと思うのだけど、その実現の仕方ってどうなんだろう、と。

あたしは、そんな周りにも見られている中で自分を追い込んで実現なんて無理。

一番大切なことは、言わないに限るのだ。

『沈黙は金、雄弁は銀』と言うではないか。

あたしは銀のやり方よりも金のやり方を取る。

ただそれだけの話である。

それでもついぽろっと言ってしまいそうになる時もある。

言ってしまえば楽になるとか、そんな感じだ。

それに言ってしまうことによって、それを野望が実現できなかった時の言い訳に出来るではないか。

言い訳、つまりセーフティーネット。

悔しさや苦しさ、痛み、そういうのから多少楽になるためのもの。

かすり傷ですませようと、心のどこかに潜んでる自分が出て来て言わせようとする。

でも、あたしはそんなことは嫌だ。

あたしは出来なかった時の言い訳を用意しておくなんてことしたくない。

だってそれって凄く格好悪いではないか!

本当に、心の内側のずっとずっと底にある野望、自分にとって一番大切なことを口に出した挙句、実現できませんでしたとかセーフティーネット用意しておいたところで重症。

出血多量でもれなく死、だ。

格好の悪い死に方……そんなのは絶対に嫌。

だから誰にも言わない。


あたしだけが知っている、それでいい。


そういうわけだから、もちろんあたしの野望をあなたにそっと教える、なんてみっともないことはしないわ。



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