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デプリヴェイション


ギフトを無駄にする者からギフトを剥奪する。

それが我々の使命。

大人しくギフトを返却するのであれば、我々は手荒な真似はしない。

しかし、もしギフトの返却を拒んだ者からは武力によって返却させる。

教本にはそう記されているが、実際には返却ではなく剥奪だ。

だから我々は返却とは言わない。

返却リストに載っている者に接触した時、ギフトを剥奪しにやってきましたと言う。

そして大人しくギフトを差し出すなら、そのまま生きていけますよ、と付け足す。

大抵の者は大人しく剥奪されてくれる。

だが一部の者は大人しく剥奪させるように見せて、我々がギフトを取り上げようとした時に牙をむいて襲い掛かってくる。

そういう者たちは瞳の奥に赤黒い炎が宿っているので直ぐにわかる。

だから我々はその者が襲い掛かる前に我々に許されているギフトを使ってそれを阻止する。

そしてめでたくギフトを剥奪し、新しい任務に赴くのだ。

とはいえ、それは上手くいった時のことだ。

上手くいかなければギフトを持っていた者は死亡する。

我々の使命はギフトを剥奪することであって、ギフトの持ち主の生死は関係ないのだ。

なるべく生きたまま任務を終えたいけれど、そもそも大人しく返さない方が悪い。

大人しくしていればいいものを、と何度も思ったものだ。

しかしこれは、接触して剥奪されるためにわざと我々を近くに寄せる者たちに対してのことである。

問題なのは近寄らせない者たちだ。

三メートル以上離れている場所からギフトを使われては、我々も対応が遅れてしまう。

もともと返す気のない者たちは、我々を近づけない。

どうしてかいつも先に察知されて逃げられる。

もしくは先にギフトを使われてまんまと逃げられる。

たまに過信がひどい我々が、そのギフトによって負傷や殉職することもある。

ギフトを剥奪されるのを真っ向から拒むくらいの者なのだから、それくらい強い力の持ち主だというのに過信する。

我々の目から見てもそういう我々は未熟すぎる。

殉職や負傷をしても仕方のないこと、と冷めた目でみていた。



ところで、我々にはずっと追っている者がいる。

剥奪リストの一番目に長年居座っている者だ。

いつも居場所を突き止めて到着しても既に跡形もなく消えた後。

あの者のギフトの特性が上手いこと我々の目をかいくぐるのに適しているからだとは思うが、それにしてたっておかしい。

おかしすぎる。

考えられることはいくつがあるが、最も有力なそれはあまり考えたくないことだった。




現在、我々剥奪者専用のホールに全員が集まっている。

統括者から招集をかけられたからである。

ざわざわとうるさかったホール内が、統括者が現れた途端に静まり返る。

統括者から言葉が発せられる。

ホール内によく響く声だった。

その言葉を聞いた瞬間、ホール内から静けさは消し飛んだ。

我々としては考えたくないことではあるが、やはりとしか思えなかった。

同じ言葉がホール内にうるさいくらいに反響している。



『我々の中に裏切者がいる』







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