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内心腹立たしい、へとへとだ

毎年、職場でストレスチェックというものを受けさせられる。

労働安全衛生法が約10年前に改正され、従業員が50人以上の事業場は年1回、このチェックを従業員に受けさせることが義務とされている。
職場でのメンタルヘルス問題を早期に発見し、予防することを目的に始まった制度だ。

義務なので、会社が自ら企画したものではない。
人事担当も否応なくこの運用をやらされていて、従業員も会社からの指示で、特に何も考えず回答している、というのが多くの会社の実態だと思われる(ちなみに、会社にはストレスチェックをやる義務があるが、従業員に受ける義務はない。だから、受けたくなければ受けないという選択肢を選ぶこともできる。)。

毎年同じ設問なので、大部分の設問を覚えてしまっている。

・内心腹立たしい
・へとへとだ
・ゆううつだ

…等々。これらの決められた設問に対し、「ときどきあった」とか、「ほとんどなかった」とか、4段階くらいで回答する。
これらの設問の出処は、厚労省が定める「職業性ストレス簡易票」というものだ。
筆者の所属する組織では、ストレスチェックの専門機関にこの運用が委託されており、回答をwebフォームから入力し、回答完了後に即時で結果が表示される、という仕組みが導入されている。
設問にオリジナリティはなく、厚労省の簡易票がそのまま出題されている。

この形式的なチェックリストが、本当に個々の職場環境や個人のストレスを正確に反映できているのかは甚だ疑問だ。
設問が一律であるせいで、特定の職場や職種に特有のストレス要因が見落とされる可能性がある。
また、ストレスは個々の状況に依存するため、画一的な質問では正確な判断はできないと感じる。
加えて、「内心腹立たしい」と聞かれ「いつもそうだ」と答えることで、新たな気づきなんて得られるのだろうか?
内心が腹立たしくゆううつな状況なんて、チェックリストから尋ねられなくとも自分でわかっていることだ。

さらに、チェック終了後は結果が従業員に機械的にフィードバックされるだけで、具体的な改善策やサポートが提供されるケースは少ない。

職場環境は個人の力では変えられないし、結局のところ、試行錯誤しながら自分のメンタルと日々向き合いコントロールしていくことが個人に求められることには変わりない。

筆者自身も過去、メンタル不調に陥った経験があり、心療内科を受診し薬を処方されたこともあるが、メンタル不調は、年1回の簡易なストレスチェックで回避できるような簡単な話ではない。

過労やストレスに着目し、国を挙げて施策を検討、実行した取組み自体は評価すべきであろう。

だが、果たしてこの制度が精神疾患の患者を減少させることにどれほどの効果があるのか。
ここ数年の精神疾患患者の統計を見ても、減っている傾向は見られず、むしろ増えているのが現状だ。

この制度の企画運営に多くの公費が投入されている。
そして、企業で制度を運用する人事担当者や、このチェックリストに回答する国民がこの制度に付き合わされるせいで、多くの時間が奪われている。

制度が開始されて10年近くが経過した今、真に効果的なメンタルヘルス対策に生まれ変わることを期待したい。

いつまでも漫然とこの画一的な運用を続けていては、この制度そのものが内心腹立たしく、皆がへとへとだ、という状況になりかねないと思う。

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