パワハラは傷害罪です

今日は、仙台の小料理屋で贅沢をしてしまった。ちょっとやけ酒に近い。私は石巻で空回りしているように感じる。



あゆみ野クリニックが労働問題に熱心に取り組んでいるのはかなり広く知られてきて、仙台とか古川とかからもわざわざ患者さんが来る。そういう人に、「あなたが受けてるのはパワハラじゃ無いよ」というとみんなびっくりする。



「え、これってパワハラじゃないんですか?」



だから私は答える。うん、パワハラじゃ無い。傷害罪だ。刑法犯罪だよ。



患者さん、目が点。そこで刑法204条「傷害罪」の条文を教える。



第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。



これは明治時代の条文だ。しかし平成24年に最高裁の判断が示され、傷害罪の範囲は拡がった。平成24年7月24日、最高裁小法廷決定(平成22(あ)2011)、不法に被害者を監禁し,その結果,被害者が,医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したと認められる場合,同障害の惹起は刑法にいう傷害に当たり,監禁致傷罪が成立する。刑法221条,刑法204条による。



この判決以降、傷害罪は身体だけでなく精神に障害を与える場合にも適応されることになった。だから職場で上司が罵詈罵倒したり故意に無視して(ネグレクト)相手の心に傷を負わせたのだと医師が認定すると、傷害罪が成立する。傷害罪は15年以下の懲役または50万円以下の罰金。懲役の期間と罰金の金額の釣り合いが取れないのは刑法が定められた時代が原因だ。今の刑法が成立した当時、15万円というのは途方もない額の罰金だった。その当時は15年以下の懲役と釣り合いが取れていたのだ。



こう言う話をすると、仙台や古川からわざわざ来た人は、まず安堵する。そうか、自分は犯罪の被害者だったんだと納得する。そうして立ち上がる。あなたが受けた精神的暴行とあなたの心的被害には因果関係が認められるという診断書を書くから、これ持って弁護士のところに行きなさい。あなたに傷害を与えた本人が傷害罪で収監されるかどうかは分からないが、普通の会社なら役付きの職員が社内で傷害罪を犯してマスコミネタになったら会社潰れるんだから、必死になって和解金払うよと言うと、「頑張ります」という。



ところが石巻の人に同じ話をすると、安堵するまでは同じだ。自分はこれまで理不尽に耐えに耐え、辛い思いをしてきたが、なんとそれは刑法における傷害罪に当たる行為でこんなに辛かったのかと理解すると、安堵はする。しかしその後が違う。診断書書きましょう、これとあなたが受けてきた暴言や不当な扱いを列挙して労働基準監督署に行くか、一番話が早いのは労働問題を専門にする弁護士だから紹介しましょうというと、石巻の人はそこで詰まってしまう。



しばらくうなだれて考え込んだあげく、「家族と相談します」。



そしてこう言う人は、2度と来院しない。



家族が本人に何を吹き込むかはおおよそ知れている。以前30代の人に労基署に行きなさいと指導したら実家の親が「その職場を辞めるなら、立つ鳥跡を濁さずだ」と説教した。



いやいやいや、水をかき回して濁しまくってのはあんたの息子じゃ無い、会社だと説得し、結局その人は石巻労基署に相談して和解金を貰った。めったに動かない労基署がこのときは動いた。



しかし自分の息子が傷害罪の被害者になっているのに「立つ鳥跡を濁さず」と言い出す親ってのを、奥ゆかしいとか言わない。それは「へっぴり腰の弱虫」なんだ。情けない。



会社で刑法の傷害罪に当たる違法行為を受けて精神的外傷を負っているのに泣き寝入りする。「世間を騒がせたらマズい」、「黙って逃げ出せば良い」・・・これは全て、まったく情けない行動であり、要するに弱虫に過ぎない。いくら法律で正当な権利が保障されていても、本人や、家族や周囲が正当な権利の行使を邪魔するなら、それは犯罪に肩を貸しているのと同じだ。



正直に言うが、石巻の人々にはこう言う「事なかれ主義の結果犯罪者の肩を持って被害者の権利を奪っている人」が多い。その結果、若い労働者はこんな町にはいられないとばかり石巻を去って行く。



事なかれ主義の老人が若い労働者を石巻から追い出しているんだと私は明言する。年寄りはどうせ自分は今まで通りで良いと思っているんだろう。しかし若い労働者が堂々と権利を主張し、それを守れない町からは、若い労働者はいなくなる。震災前16万だった石巻市の人口が今13万人台に減った最大の理由は、震災じゃ無い。若い人々がここで安心して働いて人としての当然の扱いを受け、結婚して家庭を持ツということが出来ないからだ。石巻の衰退の最大の原因は、高齢者の事なかれ主義だ。



今どんどん若者が石巻から逃げ出しているのに、あなたたち年寄りの面倒を誰が見るんですか?

 

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