症状はあるが異常は無いと言える医療レベル

石巻市立病院で診察出来るのは何科ですか、というご質問があり、私は「なんでもない科」と答えました。

しかし実は「あなたは症状があるが身体的に異常はありません」と診断するのは、かなり高度な診断レベルです。様々なことを考慮し、必要な検査をしなければなりません。

例えば先日、あゆみ野クリニック心療内科に激務で疲れ切っているという中年男性が来ました。通り一遍に話を聞いただけなら、激務で疲れ切って元気がないんですねと診断してしまうところでしたが、私のたった34年間しか無い診療経験が「いや、この患者は何か違う」とささやいたのです。それで「一応検査もしましょう」と言って検査したら、その人は重度の貧血でした。

女性の貧血は珍しくありません。月経がありますから。月経というのは毎月大量に出血しているのですから、貧血を起こします。しかしその患者は男性だったのです。男性は月経がありません。それにもかかわらず重度な貧血であって、かつその人は貧血による自覚症状が強かった。自覚症状が強い貧血は、その貧血が最近、急激に進行したことを意味します。

そこで私はその患者をただちに日赤の消化器科に紹介しました。血液内科ではなく消化器科です。何故なら、中年男性でかなり速いスピードで貧血が起きている場合、まず検査しなければならないのは消化管からの出血だからです。はっきり言えば、その人の年齢も加味すれば、消化管の癌を疑ったのです。だから私はその人を血液内科ではなく消化器科に紹介しました。とりあえず内視鏡による消化管の検査が最優先と判断したのです。

幸いにその人は日赤で上部・下部の内視鏡検査を受けた結果、癌は見つかりませんでした。それで一安心したわけです。そうか、癌からの出血ではなかったのか。それではじっくり貧血の治療をしよう、そうなったのです。

症状はあるが異常は無いと言いきるのは、実はかなりハイレベルな診療です。


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