2022年に良かった本とかゲームとか

★年末の挨拶

 はい、ということでね、今年の振り返りをしましょう。
 コロナの発生から三年弱でしょうか。世の中は少しずつ変わりつつありますね。活気を取り戻しているようにも見えるけれど、一方でコロナ禍による変革をそのまま受け継いで残り続ける文化や衛生習慣もあるでしょう。
 人々のコロナへのスタンスはまだまだ多様な状況に思えます。完全に忘れた人、これ以上は耐えられないと対策に見切りをつけた人、探りながらもとに戻ろうとする人、まだまだ忍んで対策を立てる人。僕はこういった、スタンスが混在している状況そのものが2022年の象徴だと考えています。
 「男子、三日会わざれば刮目して見よ」とは男子に限らず、人は三日で見違えるように変わることができるというポジティブな意味の慣用句ですが、我々はかれこれ二年以上人との対面を制限してきたわけですから、会っていなかった知人、特にネット上の知人の変わりようというのもまた甚だしい。自分と知人がそれぞれ違う方向に変化することで、彼らとの距離がいつの間にか随分と開いてしまったなんてことは珍しくなく、その結果として価値観が違う知人との縁がふつっと切れてしまうのはあまり良いことではないと考えます。
 2023年の外出事情がどのようになるかはまだ分かりませんが、眼を離した隙に変わっていった我々の、互いの変わりようを拒絶しすぎず、散り散りになった距離を縮めてゆく年になればいいですね。

 前置き終わり。ここから先はただの僕の一年の振り返りです。楽しんだゲームや書いた小説を振り返るだけですので真面目な話はないです、すみません。

★このゲームがよかった!

 今年はゲームのプレイタイトルが少なく、Apex LegendsやSplatoon3などの人気タイトルを緩くプレイする時間が多かったように思います。オンライン対戦ゲームは上手い人のレベルに果てがないため、上達のモチベーションを維持するのが大変だ。
 そんな中でコゴリオンが特にオススメしたいゲームをご紹介。

・ディスコエリジウム

 今年一番衝撃を受けたゲームはこれでした。いやーすげえゲームだった。万人にオススメって訳ではないけど興味がありましたら是非。1/5まで75%オフのセールやってます!
 8月に日本語ローカライズされた新感覚推理RPG。クリア前に暫定的な感想をNoteに書いたのですが、ほぼほぼこの感想で完結しました。

 中盤で行けるところが一気に広がったことのワクワク感に比べると、ラストは若干駆け足気味だったというか、最後には結論へと誘導されてしまった感じがあったものの、それはゲームに対する後ろ向きな不満というよりは、「もっともっとこの世界に浸らせてくれよ!」という僕の我儘だという自覚がある。いやほんと、あと十倍はテキストがあっても余裕で遊べた。もっとこの世界の主人公に僕の思想を反映させてくれ。事件を解決しない自由を、逃げた証人を地の果てまで追いかける自由を、舐めた連中に復讐する自由を!
 ディスコエリジウムはテキスト作品として新しい境地を開いたと思います。純文学作品を読んで作者や登場人物に共感したり、生きづらさや孤独感を癒やすことはあるけれど、ディスコエリジウムはその文学体験を新しい、より現代的な形式で提供することに成功している。どうやって生きても他人の思想や極端な情報に触れてしまう現代社会で、アイデンティティとは自分で摂取する情報を選んで導くものではなく、自分を情報の海に浮かべて、その流れる方向を見守ることで形作られるのではないか。十代くらいの時にこのゲームやったらもっと強烈な体験になっただろうなー。

・HADES

 2020年にTGAを受賞したミリオンセラーのハクスラゲーム。買った翌月くらいに2の製作が発表された。
 剣や銃を使ってモンスターをハイスピードに蹴散らしていく映像は誰もが見たことありそうで、でもどこにもなかったゲーム。世界観はギリシア神話を模しており、少年神ザグレウスが父親の冥王ハデスが統べる冥界から家出をして、地上に住む本当の母に出会おうとする。主人公を強化しながらローグ式のダンジョンを登って地上に到達するのが目的だが、一回クリアした後もスコアアタック、縛りプレイ、RTAなど様々な遊び方が人気を博している。
 流石TGA受賞作だけあってシンプルにすごく面白い。純粋に面白すぎて言いたいことがあんまりない。
 「なにくそ、もう一回!」とプレイヤーにトライアンドエラーを繰り返させるメカニズムが絶妙で、数時間溶かした後なんかは「いかにしてこいつらに時間を忘れさせるか」という壮大な実験に参加させられてる気分になる。後述のVampire Survivorsと同じで、日々の時間に余裕がなくなるほどプレイ後の焦りも多く、悲しくなる。ゲームやるのに時間を気にするなんてなんの意味もないのに。全ては忙しさを押し付ける社会が悪い。

・マーベルスナップ

 秋頃にアーリーアクセスが始まった、マーベルのキャラを元にしたスマホでもできるデジタルカードゲーム。このゲームの監修をしているのが元Blizzard所属でハースストーンを制作した陽気なヒゲおじさんことベンブロードだったため、もともとDCG界隈からは注目が集まっていた。
 再認識したのだがベンブロードはやはり天才だった。単純に面白いゲームを作るのではなく、アイディアで既存のゲームの課題をいっぺんに解決してみせた。
 一試合5分で終わるシンプルさ、しかし展開をマンネリ化させないロケーションによるランダム要素、そして何より、ランクマッチを「RPを賭けた戦い」と定義し、ゲーム中にレイズ・フォールドの概念を取り入れた新システム『スナップ』。このスナップシステムのお陰で、これまでのDCGに付きものだった「引きの良し悪しで一方的に負けるストレス」が、「適切にゲームを降りなかった自分の責任」へと変換されたことの功績は計り知れない。運が悪くても引き際を自分で決められることから、プレイしていてストレスが極めて少ないデザインになっています。
 マーベルに興味がなくても、一度やってみればその発想の凄さに触れられることでしょう。

・Vampire Survivors

 個人的2022年におけるゲーム業界の裏の主人公(ベータ版リリースが2021年だが)。
 チープなドット絵のヴァンパイアを上下左右に動かして押し寄せるモンスターを30分間追い払うだけのゲーム。しかしたったそれだけで、そしてたった500円で人間を中毒に陥れる極めて危険なゲーム。それもそのはず、作者にはカジノ勤務の職歴があり、人間のどこをどうしたら射幸心を煽れるのか熟知しているのだ!
 かくいう自分も何十時間とプレイさせられてしまった。初めて宝箱からアイテムが5つアイテムが出てきた時は二重の意味で泣きそうになったよね。その演出に興奮し、本当に心の底から嬉しくて感動して泣きそうになったのと、こんな、こんなしょーもないゲームのしょーもない演出で泣きそうになる自分への情けなさの涙。
 とかく、このゲームで得られるのは純粋な快楽だ。山程やってくるモンスターを消し去る音と、それによってドロップするトークンを手に入れる快楽は原始的なものだ。ゲームに難解さや駆け引きの面白さは必ずしも必要ない。気持ちよくさせればゲームはその役割を果たすことができ、そして時間とお金を吸い上げることができるということを証明した今年最大の問題作。
 しかしこのゲームを否定することはできない。しょーもない快楽を貪ることが駄目なのだとしたら、それこそHADESのような名作アクションゲームで得られる爽快感も絵や音楽、ゲーム性に少し作り込みが施されただけの「しょーもない快楽」の一種だと言えるのではないか? 「純粋に面白い」ってそういうことでは?
 Vampire Survivorsはゲームの本質の一つである「純粋な快楽」を抽出して提供することに成功したと同時に、「果たしてそれを楽しむ我々は本当に正しいのか?」と我に返らせるような問いを突きつけている。これからのゲームの向き合い方を考えさせるという意味では、これ以上の怪作はないだろう。
 僕も今一度ゲームの楽しみ方と向き合うために久しぶりに起動することにする。最近のアップデートを確認しないといけないしな! やらなければならないんだ止めてくれるな!

★この本がよかった!

 今年も春くらいまでは割と本を読んでいたんだけど、気がついたらマンガアプリで大して興味のない無料作品を読んでしまう時間が増えた気がする。何より新書を読む時間が減っているのがよくないね。今年はこんな反省ばかりだ。対策を講じなければ。
 そんな中で、面白かった本をご紹介。漫画はこの後の項目で別途紹介します。

・日本蒙昧前史/磯崎憲一郎

 時代とともにやってきた好景気。人々は訳も分からないまま景気に踊らされ、良く分からない事件や祭事を胡乱に楽しみ時が過ぎていく、なんだか不思議な時代。それが昭和後期。そんな日本の蒙昧な歴史を、老若男女問わずその時代を生きた「人」に次々とスポットライトを当てることで浮かび上がらせていく。フィクションの体を為してはいるが、まさしく過去に存在した一つの時代を、独自の視点から描ききった作品。
 とんでもない本でした。「書き出しが気持ち良すぎる!  これはいい本に違いない。それじゃあそろそろ本題に……本題……え、これが本題!?」というテンションのまま話が終わってしまった。書き出しの吸引力のまま200ページとか書ききった作品なんて見たこと無いよ。独特の畳み掛けるような文体と、次々と乗り移っていく名もない人々の支店から、まさしく「昭和って変な時代だったんだな」という印象を見事に彫刻している。

・道化師の蝶/円城塔

 あなたは円城塔の小説の感想を書くことができますか? 私は無理です。「人の発想は蝶として頭の上に舞い降りる。そのことに気がついた実業家はそれを捕まえるための虫取り網を考案し――」みたいなあらすじを言ったところで一個も作品を表してはいない。ただ、芥川賞作品だけあって本作は円城塔の作品の中でも割と予備知識とかが必要ない、読みやすい部類だと思います。旅行先でたまたま読んだのですが、この本の書き出しが「旅の間にしか読めない本があるとよい」だったので運命感じたよね。

・黒き荒野の果て/S.A.コスビー

 ヴァージニア州の自動車整備工場を営む修理士ボーレガードは、かつては裏稼業で凄腕の走り屋として知られていた。同じ道を歩んで行方不明になった父親の二の舞いにならないため裏稼業から足を洗って久しいボーレガードだったが、母親の介護、娘の進学、大手ライバル社の新設などが重なり金が必要になる。追い詰められた彼に、かつて共に仕事をした信用ならない男、ロニーから強盗の足になってくれないかと相談をもちかけられる――
 この90年代アメリカ映画っぽさが実に良い(映画に詳しくないので適当言ってます)。文体もカメラアイを徹底していて、変に崩したりしない優等生の文体でありながら、車の専門用語やアメリカンな比喩を駆使したスピード感の表現が見事。駐車し、変装し、実行犯が暴れまわり、アクシデントが起こり、血が飛び、這々の体で車に戻り、待機していたボーレガードの時間が始まるまで約四分。そこから一瞬で時速200キロの逃走劇が始まる。「スピードのある世界では何が見えて何が見えないのか」を本能的に知っているような書き方だった。
 2021年の小説とは思えないコテコテの筋書きをしたクライム小説で、それでもちゃんと面白いんだから、エンタメの文法というのは不滅なのだなと、ある種勇気づけられた作品だった。

・レトリック感覚/佐藤信夫

 我々が文章を書く上で息をするように(※比喩表現)使っている(※誇張表現)レトリックとは一体どのように人々に寄り添い、どのような効果を人々にもたらしているのか? 言語哲学者の佐藤信夫が、言語のもたらす神秘を解き明かすために筆をとる(※換喩表現)
 元々は文章を書く上での助けになればいいなと思って電子書籍のセールで買った本だったのだけれど、読み物としても純粋に面白いし、なにより著者のユーモアを交えた文体によるレトリックの説明が見事。文字書きに限らず、いろんな人にとって興味深い一冊になっていると思います。
 特に『提喩』の項目は必見。提喩表現に関するこれまでの議論や活用法を整理した上で、様々な「言い換え」の体系立てて論じており、目から鱗だった。読むと文章が上手くなった気がするよ。実際、自分で小説を書く時に「これはレトリックを使うことに意味がある、なぜなら読者にこういう効果を期待しているから」という理論の後ろ盾を得られたのは収穫だった。

・芥川龍之介全集/芥川龍之介

 全378作品を一冊にまとめた電子書籍をセールで買った。九月くらいからだらだら読み始めていて今三割くらい。いやあ読んでも読んでも減らない。
 芥川龍之介の短編、特に『芋粥』や『鼻』は自分のルーツで、ああいうのを書きたいと常々思っている。世の中ってこういうところがあるよね、という真理に限りなく近い世界の性質を、『指摘』するのではなく短編小説というツールで『再現』するというやり方が好きだ。指摘は本質のいくつかを溢れさせてしまうし、語り部の人間性から独立できないから。
 若くしてここまで世界に対して達観していたら、そりゃあ寄る年波に絶望するのも頷ける。享年35年である。
 しかし、僕にとって芥川龍之介は既に死んでいるのがよい。死んでいる作家の作品を読む時、そこに複雑な感情は介入しない。類まれなる才能に対する嫉妬や、「お前は間違っている、お前は本当は大した人間ではない」などの僻みの視線は、全て作者が生きているからこそ湧き上がってくるものらしい。芥川龍之介の本には僕が手に入れたくてもがいている技術の結晶が鈴なりに実っているが、彼に対してはシンプルな尊敬しか湧いてこない。彼は昔の人で、既に亡くなっているから、僕が手に入れられなくても諦めが付く。
 案外、作品を残すことの尊さってこういうところにあるのかもしれない。なんたって生身の作家に対する面倒な感情を全部無視できるのだから、作品としてこれほど嬉しいこともないだろう。
 とはいえそれとは別に故人を偲ぶ気持ちも当然ある。『後世』を書いた芥川先生に伝えたい。あなたの作品は100年経っても読まれていると。
 全部読み終わった暁にはベスト10企画みたいなのやるつもりです。

・ディスコエリジウム ゲーム内テキスト
 番外編としてこちらも挙げさせていただきます。テキストがユーモアに溢れているので気になったなら読んでみてくださいよ。1/5まで75%オフですって。
 ちなみに英語換算で100万単語分のテキストがあるらしいですよこの作品。ハリーポッター全巻と同じですって。
 選択肢によって文章の分岐が山ほどあり、例えば主人公が共産主義的発言をした後で民主的発言の選択肢を選ぶとちゃんとツッコミが入ったりする。なお、思想を強く表明することが苦手なプレイヤー用にもちゃんと「私はどちらの思想にも与さないけれど、その都度駄目だと思うことはちゃんと駄目だと言うよ」という『思想』に即した選択肢も用意されているのでご安心を。いいゲームだ。

左右に染まりきれない人にも平等に後ろめたさを押し付けてくれる

★この漫画がよかった!

 最近じゃ毎日の様になにかの作品が無料公開されていて、何が自分にとって必要な漫画か、自分にとって面白い漫画とは何かを見極めることができないと時間が無限に溶けていく。
 そんな環境下で気に入った漫画を紹介することは、公衆の面前で自己を曝け出しているに等しい。覚悟を決めてオススメしていきましょう。

・ROCA/いしいひさいち

 この本に関しては以前、noteで簡単な感想を書いていますので詳細はそちらでどうぞ。ストーリー漫画としても百合漫画としても極めて高度。

 どうやらこの作品、じわじわと話題になっているらしく、自費出版とするのがもったいないくらい重版がかかっているようです。僕もいしいひさいちのファンとして鼻が高いよ。

・本田鹿の子の本棚/佐藤将

 これも以前noteで軽く触れている作品です。

 僕は嘘つきの人をリスペクトしている。と言っても、誤魔化すような嘘、保身のための嘘をつく人が好きというわけではなく、「ホラ話ができる人」が好きなのだ。
 フィクションの物語は架空の話であるから、それを作り出す人間は大なり小なり嘘をついていることになる。問題はその大小だ。
 創作における虚言の含有率が高い人というのは、つまり自分の実体験とかに関係なく自由にストーリーを生み出せる人ということで、僕はそういう『自己から切り離された虚言の技術』を目の当たりにした時に人間の想像力の奥深さを感じる。
 この作品は、作中作というフォーマットを採用することによってかれこれ100本以上、一話完結のわけわかんない話を生産しまくっている。その背景設定は毎回バラエティに富んでおり、しかも毎回作中作のオチと、作中作を読み終わったお父さんによる二段構えのオチをノルマにしている。その流れるような嘘のつきっぷりに感心させられっぱなしである。作中作の中身が大抵エログロコメディであることを除けば、あらゆる人にオススメしたい。

・三拍子の娘/町田メロメ

 母が亡くなって間もなく、父は私たち三姉妹を捨てて消えてしまった。
 なんかピアノを弾いて世界を旅したくなったらしい。
 当時長女は十八歳。それから十年経ったが、伯母に預けられ育った三姉妹は、無責任な父親のことなんて忘れてなんだかんだポジティブに生活を続けられている。父譲りのクラシック音楽好きで苦労人の長女、折原すみ(28)、ギャルならではの世渡り上手で仕事をバリバリこなす次女、折原とら(22)、秀才女子高生だがどこか達観した不思議な雰囲気のある三女、折原ふじ(18)。ひとつ屋根の下で三人姉妹が緩やかに、けれどたくましく生きる様を描いた一話完結の日常漫画。
 この作品すごい好きなんだけど、どこがどう好きなのか説明するのが難しい(そこが好きなポイントのひとつなんだけど)。
 タイトルの通り、テンポの穏やかなワルツを聴いているような読書感がある。過去だけを聞けば暗いけれど、それによって育まれた三姉妹の絆は特別強固でシリアスなものではない。単独行動をしている話もあるし喧嘩もよくする。
 ただ、血が繋がっているゆえの信頼感というか、お互いのことをよく理解してフォローしあっている様子が描写の端々で見えてくるのがとても素敵だ。彼女達の信頼に言葉が介在しないからこそ、よりその関係が深く、尊いものに感じられる。

・鍵がない/伊藤拓登

 終電で帰り、まだ仕事が残っているサラリーマンが家の鍵をクレカや身分証の入った財布ごと無くした。そんな不運の夜と、その翌日までの出来事を描いた作品。ただそれだけ。なのに読ませる力が凄まじい。
 特別な設定などはなく、淡々と現代のルールに沿って鍵と財布を無くした一人暮らしの社会人を描写しているのだけれど、その人物の「行動の流れ」がいちいち細やかですとんと腑に落ちる。扉の前で初めて鍵がないことに気がつく絶望感に始まり、回想を辿っても見つからない不可解さ、冷静な判断力を失っている故にすべてが裏目に出て重なる不幸、徐々に荒んでいく言動、そして不幸のどん底にいる自分にふと差し込む救いの光。そういった、鍵をなくした人に誰にでも起こる普遍的な出来事を描いている。
 この「普遍性」に僕は驚愕している。誰もこの作品の主人公と同じ体験をしたことがないのに、どこかに心当たりがある感じ。それはつまりこの作品が、一つ一つは単純な出来事でしかないエピソードを物語として再配置することで、「日常よりも上位にある共感」を呼び起こしているということだ。
 この作品は人間の中にある名前のない共感性に「鍵がない物語」という名前と形を与えている。鍵がないような、日常に訪れるふとした理不尽な不幸の流れを人類は何故か共通認識として知っていて、そしてこの手の不幸が「どのように解決されて欲しいのか」さえも人類は似通った認識を持っている。人類の不思議だ。
 この作品を読んでいて、何故こんな安心した気持ちになれるのか分からない。思うに、作者はこの短い夜の物語によって人の中にある『物語への憧憬』を喚起しているのではないか。物語の形で作者が描いてくれたからこそ、現実の不幸に対してもどこかに救いがあるかもしれないと前向きに捉えられるようになるのかもしれない。だとすれば、フィクションにしか救えないものというのはやはり『ある』のだ。

・片喰と黄金/北野詠一

 無料期間に少し見たら面白くて追いかけ始めた。
 時は十九世紀。カリフォルニアで山のような金が採掘されたというニュースを耳にした十四才の少女アメリアは、従者のコナーと共に祖国のアイルランドを旅立つ。当時のアイルランドは、ジャガイモの疫病により未曾有の飢饉に襲われていた。アメリアの家庭で生き残ったのは二人のみ。お金が必要だ。つましい暮らしや細やかな幸せなどでは足りない。これまで舐めさせられた辛酸の全てを覆し、世界を見返してやるだけの黄金が。大西洋を渡ってニューヨーク港にたどり着いたアメリアの、黄金を求めた大陸横断の旅が始まる。
 ゴールドラッシュ時代のアメリカ大陸横断の冒険漫画。当時の時代背景を反映した過酷な社会と、産業発展に伴って浮かれている社会の両面を描きつつ、アメリアはその逞しさと人を寄せ付ける性格でカリフォルニアを目指す。
 同じく黄金を求めて魅力的なキャラクターたちが旅をするゴールデンカムイとあえて比較をすると、片喰と黄金は治安の悪い世界を描いてはいるが、本当の意味での悪人は出てこない(イギリスのことはムカつくけど)。そこが人によってはいい話すぎて物足りないし、人によってはノイズなく感動できると思う。時代考証について自分は素人なので評価が下しにくいが、Web閲覧できる2話まで読んで面白そうなら続きを読んで損はないと思う。
 あとアメリアが可愛すぎる。今年目にしたキャラクターで一番可愛かったかもしれない。対抗馬はディスコエリジウムのキム・キツラギ警部補。

★このアニメがよかった!

 実のところアニメを見る習慣があんまりない私です。高校くらいまで21時にスヤスヤしていた人間なので、深夜アニメを見ず・語らずの人間に育ってしまった。なので軽く見たものをコメントするにとどめておきます。しっかし今年は流行り物を見逃しちまったなあ。

・虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期
 これは過去にまとめた感想で大体言いたいこと言っちゃったかな。今見ると熱に浮かされてんなーと思う文章ですが、後悔は特にないです。

・新テニスの王子様 Under 17 Worldcup
 漫画原作だけどアニメ面白かったので。みんながリコリス・リコイルで盛り上がっている中ニコニコしながら馬上テニスを視聴していた。見ていると分かるのだが、「どこでリミットを外すとシリアスさと笑いを両立できるか」を許斐剛先生は肌で理解している節がある。だから真剣に見ている人にとっては感動の必殺技シーンが、口を開けながら見ている人にとっては抱腹絶倒の超展開シーンになる。その変幻自在っぷりはさながら立海の仁王雅治だ。
 新テニスの王子様の原作でバズったシーンと言えば「デカすぎんだろ……」「テニススナイパーの拙者が」などが思い当たりますが、あのページにしたって1ページの情報量やコマ割りを綺麗にコントロールした、狙ってバズらせたシーンであることが作者の談で明かされている。まったく恐ろしい。
 それと、キャラクターを蔑ろにした時のバッシングが最も苛烈なジャンルで漫画を描き続けていただけあって、許斐先生はシリアスさだけでなく「キャラクターへ向けられるヘイトの管理」も見事ですね。一対一で勝敗をつけなければならないストーリーであるにも関わらずいろんなキャラクターの見せ場を担保しつつ、大事なところは主人公や人気キャラに抑えさせるよう誘導する。でも先の展開を読ませることはしない。
 面白いのは、そういった「ファンが喜ぶ展開」のためなら多少の無理展開は仕方がないと割り切っているっぽいところだ。「辻褄を合わせようとするから月並みなものしか作れない」とは脚本家である宮藤官九郎の名言ですが、ゲラゲラ笑って見るだけではもったいないほど、匠のストーリーテリング技術が詰まったコンテンツだと思いますよ、新テニは。

・アキバ冥途戦争
 秋葉原のメイドカフェの系列店が、極道の組争いのように過激な対立をしていたら……というIFの元に描かれたメイドの戦争物語@90年代の秋葉原。そろそろ自分のエンタメ趣味が分かってきたと思います。
 一発ネタと見せかけて、中盤の愛美が出てきたあたりで本領発揮してきた。あの辺でリアリティラインが分かってきて、「あ、この辺の深堀りはしないのね、じゃあ笑っていいじゃん」と構えを解けるようになるのが大きい。特に野球回は腹抱えて笑った。僕は店長推しです。
 印象を一言で言えば「かなり大雑把にしたゾンビランドサガ」。あっちは主人公の危機をゾンビならではの特徴を活かした機転で解決し、こっちは極道ならではのパワープレイで押し切る。
 笑ってはいけない人死にのシーンを笑いに変換するユーモアは好みなのだけれど、だからこそ作劇上避けては通れない身内の死亡を受け止める時に視聴者側は困惑してしまう。このあたりの解決も「ゾンビランドサガの世界観なら解決できたのに……(死んでもオッケーなため)」と引き合いに出して感想を抱くことが多かった。ただ、少なくともユーモアに関してはこれくらいネジが飛んでる方が好き。

★コゴリオンの文字書きリザルト!

・受賞数 0
・稼ぎ  0
 来年頑張りましょう。
・投稿作品
 『小さなSFコンテスト2』用に一作品。あとは虹ヶ咲の二次創作をPixivに投稿したのと、来年の1月に虹ヶ咲の小説本を出すので作成途中の小説が手元にあります。気に入っているのはTwitter上で連続投稿したこれ。

・プライベートで書いた文字(Twitterの文字数は分からんので除外)
 日記 300,790文字
 Note 39,707文字
 アニガサキ感想文 114,916文字
 一次創作小説 11,445文字
 二次創作小説 101,880文字
 その他メモ書き等 11,043文字
 合計 579,781文字
→コメントに困る量だなー。ノブナガの腕相撲みたい。字書きの中では決して多くはないだろうけど、今年は50万文字を超えられたのがちょっと嬉しい(多ければいいというものでもないけど)。
 来年は一次創作に励むか、アニガサキ熱が持続するか、はたまた新しいジャンルに沼るか、予定は未定ですがまあ頑張っていきましょう。

 以上。来年はもっとちゃんと一年のログを残しておきたいね。来年の抱負は年が明けた時に気力があればまた書きます。
 それでは皆様良いお年を。私はRTA in Japanを見る仕事に戻りますので。


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