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(022) [Q] 社会人やってから研究職の道に進むのは厳しいか?

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今回は、質問が1つ届いておりますのでお答えしたいと思います。

[Q] 獣医や医師であれば、20代〜30代から再受験しても仕事になりますが、社会人やってから研究職の道に進むケースに関しては、非常に厳しいのでしょうか?

[A] いや、そんなことはありません。私のゼミでは、社会人から入学して、博士号を取得して大学教員になった人はこれまでに4人います。もちろんそれぞれに苦労を重ねてのことですけれども、道は開かれています。

以上が端的な回答です。もう少し詳しく書いてみます。

・博士号を取得することが必須

研究職や大学教員になるためには、博士号を取得することがほぼ必須になっています。大学教員の公募条件をざっと見てみれば、博士号取得の条件をつけているケースがほとんどということがわかります。

となれば、どこで博士号を取得するかということになります。博士号取得のしやすさは、大学によって、というよりも学問領域によって、相当にばらつきがあります。ですので、あらかじめ情報収集をしておく必要があります。もし英語が得意であれば、海外の大学でドクターを取る方が早いというケースもあります。

すでに修士号を持っていても、専門領域を変える場合は、修士からスタートする必要があります。専門領域によって研究の方法論が大きく違うためです。修士からスタートする場合は、修士課程2年間と博士課程3年間で、最短でも5年間かかります。

・指導教員を選ぶこと、その3つの観点

最短で5年間かかりますし、最短で博士号を取れる人は少数派です。たいていのケースでは5年以上かかっています。ポイントは5年以上という短くはない期間、研究の意欲と活動を維持できるかということにかかっています。

そのためには指導教員を慎重に選ぶことが重要です。修士課程と博士課程を選ぶのに大学の名前で選ぶのは明らかにミスです。そうではなく、まず指導を受けたい教員を選ぶべきです。指導教員を次の3つの観点で選んでください。

(1) あなたがやりたいと思っている研究をしていて、その領域で業績を上げているかどうか。これはその教員がどのような学会で活躍しているか、どのような論文を書いているか、どのような専門書を書いているかを調べればわかります。

(2) その教員がこれまでどれくらいのゼミ生に博士号を取得させているか。累積の人数とともに、年に何人くらいの博士が出ているかも調べるべきでしょう。もしゼロであれば取れないリスクが高いです。また、ゼロではないにしても10年に1人というのであればリスキーです。この数字は公開されていないことが多いので、すでにその教員に指導を受けている人を頼って聞くのがいいでしょう。

(3) その教員が大学院生をどのように指導しているか。決まったテーマが割り付けられていて、その手伝いをすることで修行のように指導される場合があります。また反対に、テーマが与えられることなく自由放任される場合もあります。教員の大学院生に対する指導スタイルは千差万別です。よくよく情報を収集することが必要です。現役のゼミ生に話を聞いたり、ゼミに参加させてもらうなどして自分にあった指導スタイルであるかどうかを見極めてください。

・研究者になるための資質はあるのか

研究者になるための資質は何かあるのでしょうか。以前にこのような質問を受けたことがあります。その時に書いた記事を再掲しますので、参考にしてください。結論としては、研究者になるための資質はあるにしても、それはトレーニングで身につけるしかないということです。

[Q] 研究活動を行うのに、向き不向きはありますか? 論理的な思考ができず、経験的に考えてしまう傾向があり、研究には向かないのかなと感じることがあります。

研究をするのに向き不向きはないと思います。質問者は論理的な思考が苦手であることを心配しているようですけれども、それはトレーニングで身につけることができます。

私が見るところ、研究するのに必要な論理的思考(あるいは批判的思考)というのはかなり限定されたスキルです。それは現象を多面的に見たり、たくさんの仮説を考えたり、その仮説を検証するための方法を思いつくというようなことです。一般的にいうロジカルな人というのとはあまり関係がないと思います。そのように限定されたスキルですので、誰でもトレーニングすれば身につけられるでしょう。

また質問者が自分で経験的に考えてしまう傾向があると言っているのは、むしろ強みとして考えることができます。具体的な経験から出発して、抽象的な理論まで持っていくことがまさに研究するということだからです。そうしたスキルもまたトレーニングで伸ばすことができます。

付け足していうならば、研究に向いているかそうでないかは、論理的な思考力というよりももっと別のところにあるような気がします。それは、「なぜこうなっているんだろう」、「この問題を解決するにはどうしたらいいんだろう」というような疑問や問題意識がたくさん湧いてくる性質であったり、1つの疑問や問題に粘り強く取り組んでいこうとする傾向であったり、たくさん読んだりたくさん書いたりする行動のようなことです。こうした行動傾向を持っている人は研究に向いていると思います。もちろん研究を続けていくに従って、このような行動傾向が強まっていくわけですけれども。

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