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反転授業の設計と実践(Part 3)

2016年12月31日

■グループワークの設計

 以上のように、eラーニングは非常に可能性があります。そうすると、eラーニングに任せることができる部分がどんどん増えてくると思います。その一方で、では教室の中でどのようにするのかという話になってくると思います。

 次はグループワークです。実習系の授業やパソコンの実習はもともとグループワークを使っていると思いますが、そうではない座学として設定されたような授業でも、グループワークを作っていくことを考えたいと思います。ポイントは、グループのサイズと、アイスブレイクを使うこと、それから、活動を短く区切るというところです。

 まず、グループワークは300人の授業でもできるということです。今、秋学期が始まりましたが、まさに私が今受け持っている授業が300人なのです。定員300人の教室に300人が来るので、もうぎちぎちですが、そこでもやはりグループワークをしています。

■グループ編成のコツ

 ポイントは、5人から6人で1グループを編成するということです。最近分かったのですが、最適人数は4人です。今ここで、まさに先生方が座っているこの4人のパターンが、一番良いパターンです。これだと誰もサボる人はいません。それから、団結力が強くなります。自分が少し手を抜くと全体の戦闘力が落ちてしまいますので、4人が一番良いと思っています。最低3人であればOKです。2人でやると少し気詰まりな感じがしなくもないので、3人から4人、多くても5~6人で1グループを編成するのがいいと思います。

 今日も先生方にグループで座っていただくのに、「違う学部、違う学科で」ということをお願いしました。まさにそれがキーポイントなのです。もし、「自由に座ってください」という形にすると、必ず仲の良い友達同士で座ります。グループワークをするためには、それは良くないのです。できるだけ初対面の人と一緒にやってほしいのです。

 そうでないと、なあなあでいってしまいますし、新しい自分を発見する機会も失われてしまいます。友達同士の中でやると、友達が知っている自分を演じてしまいます。そうすると、新しい自分を発見する機会がなくなってしまって、グループワークの魅力が半減してしまいます。常に新鮮な気持ちでグループワークをやりたいのです。

 私の場合は、学年、性別をランダムにしてグループを編成して、席を指定します。300人であろうが、席指定です。後で少し紹介できると思いますが、大福帳という、A4版の大きな出席カードを使っています。前の週にあらかじめ、「32班」「12班」などのように、数字を書きこみます。教室では、学生は自分の大福帳を受け取って、指定されている番号の席に座ります。

 私の授業は、1年生から4年生まで自由に取れる授業ですので、できるだけ、別々の学年、それから性別も半々ぐらいでグループを組んでいきます。人間科学部は、男女比が6:4くらいです。ですので、男女半々ぐらいグループを組むことができます。ここがポイントで、全員女性とか全員男性になると、なぜかあまりうまくいかないので、男性、女性で半々にします。これは意図的にやっています。だから、学生さんから、「この授業は、出会い系授業です」と言われるようになってしまいました。出会いの機会も大切だと思っています。

■アイスブレイクでスピーチのトレーニングをする

 実習に入る前に、アイスブレイクをやります。遅刻してくる学生がいるので、最初の15分ぐらいまではアイスブレイクをやって、本題にはまだ入らないという形にしています。

 アイスブレイクのテーマはいろいろです。たとえば「マイ・ブーム」。「最近自分がはまっていることについて、1分間で話してください」ということをやります。

 「アイスブレイク集」の本も出ていますので、そこから好きなものを取っていけばいいと思います。たとえば、「私の秘密を三つ言います」と言って話してもらって、そのうち二つは嘘で、聞いている人はどれが本当の秘密なのかを当てるゲームなど、おもしろいアイスブレイクになると思います。

 また、1分間スピーチをして、毎回お題を変えていくようにするといいと思います。私は、たまにゲームも入れますが、大体は1分間スピーチをやってもらっています。そのときに、「これは就活のためだ」と明言します。突然割り当てられたテーマについて1分間で話すことができる能力は、面接のときにすごく強みになります。そのために、これはとても良いトレーニングなのです。

 4年生はもう就活は終わっていますが、1年生、2年生、3年生にとっては良い練習になるので、毎回お題を出して、1分間スピーチをやってもらっています。たとえば、就活向けのお題として、「人間科学とは何か」というテーマを出します。このテーマは、私がいるところが人間科学部という学部なので、必ず就活の面接のときに聞かれるのです。

 そのために、あらかじめ学生からリサーチしていて、面接のときにどのようなことを聞かれたのか、お題を蓄えておきます。アイスブレイクのときに、このような形で練習をしてもらうことにしています。このように、正解のないテーマでスピーチをやってもらうことは、とても良いトレーニングになります。

■具体的な実習課題を設定する

 それから、具体的な実習課題を設定するということで、これは心理学の実習ですが、「ハノイの塔」というパズルです。これも実際に手を動かしてやることが非常に重要なので、このような小道具を、折に触れて集めておくことが大事です。このパズルはダイソーで、100円で売っていたのですが(もう今は売っていないかもしれません)、50セットぐらい買い集めたものです。

 このような小道具を使って、グループワークを進めるといいと思います。そのときも、フリーライダー(タダ乗り)の人を作らないように、役割を分担してもらいます。ハノイの塔のパズルを解く人と、それを観察する人、それを記録する人、アドバイスをする人などと役割を決めてもらって、分担して進めていきます。

 固定机でも可能です。前の列の人が後ろを向くので、姿勢的には少しきついですが、固定机でも可能です。場合によっては、このような通路側などのスペースを利用して、体を動かしてやってもらうこともあります。

■グループ同士でプレゼンをする

 グループの中でいろいろな話をしてもらうことが基本形ですが、話をしたら必ずそれを発表するという課題をつけています。ただすべてのグループに、前に出てプレゼンテーションしてもらうと、それだけで時間がかかってしまいます。ですので、グループ同士でマッチングしてペアを作ってもらって、まず1班の人が2班の人にプレゼンテーションして、そのあと、2班の人が1班の人にプレゼンテーションするという形で、練習してもらいます。

 プレゼンテーションをするときに何もなしでやるのは難しいので、A3版の厚紙に発表したいことを書いてもらって、まとめてもらいます。したがって、グループ・ディスカッションのときは、この紙にまとめてもらう作業が入ります。

 実際のプレゼン・チャートは、このような形でやります。これは、「2分間スピーチの教育ゴール」ということで、書いてもらったものです。右側の「38」というのは、グループの番号です。その下に隠してあるのは、38班の人の名前です。

 このような紙を使うことで、全員の視線が集まりますので、非常に団結力が増します。誰も、サボる感じはしません。みんな、このプレゼン用のチャートに視線が集まって、集中的に話ができます。

■ひとつの活動の時間は短く区切る

 ひとつの活動の時間は短く区切ることが大事です。たとえば、「20分あげるので、グループの中で話して、後でプレゼンしてもらいます」というような形にするのは良くありません。20分間というのは、どう考えても長過ぎます。最初の3分間はきちんとやりますが、残りの17分間は、がやがやするだけになってしまいます。

 ひとつの活動はできるだけ短くして、10分以下に抑えることが大事です。ですから、先ほど皆さんにやってもらったものも、「2分間で考えをまとめて、メモしてください。その後、1人1分で回します」という形にしました。これくらいのスピード感でやらないと、集中力は続きません。ですので、タイマーを使って、きちんとマネージメントすることが大事です。

 そのときにキッチンタイマーを使うのですが、書画カメラを使って、タイマーを大写しにします。そうすると、こちらが「あと残り時間3分です」といちいち言わなくても、スクリーンに提示されていますので、学生自身で、「あと何分だから急ごう」などという形で、チームワークを発揮してもらえます。

■全員の前でプレゼンテーションをする

 授業の最終回に近い頃になると、サイコロでグループを選んで、全員の学生の前でプレゼンテーションをしてもらいます。1分間のプレゼンテーションです。プレゼン用に作ったA3判厚紙のチャートを書画カメラに映して、1分間話してもらいます。

 これは、当たった学生にとっては、非常にインパクトのある体験です。100人、200人いる教室の中で、自分1人で、1分間という短い時間ではありますが、きちんとプレゼンテーションをするという体験をするわけです。もちろん全員ではなく、たまたまサイコロで当たった学生だけの体験ですが、自分がもしあの場に立ったらどうだろうというシミュレーションをしてもらう機会になっていると思います。

■グループワークの設計のまとめ

 では、グループワークのまとめです。グループの定員は、経験上、5プラスマイナス1が最適ということで、4人から、多くても6人までです。少なくとも3人いれば可能です。グループの編成は、学年・性別を混ぜて作り、あらかじめ席を指定します。

 グループの活動は短く区切るのがポイントで、なるべく10分以下に設定して、何をして、どういう成果物にするのかということを明快に指示していきます。ただ単に、「グループの中で話し合ってください」という指示を行うと、必ず失敗します。そうではなく、「これについてこのような話をして、これでまとめてください」という形で指示をします。

 このようにきっちりと時間を切ったり、やる活動を制約したりすることが、学生の自主性を損なうのではないかと思われる先生もいると思います。しかし、実際にやってみると分かるのですが、できるだけ制約したほうが、学生は逆に自由になれます。「20分間与えるから、やってください」と言うと、まず、誰がリーダーシップを取るかで、もめます。ある学生はやる気がないから、そのまま終わってしまいます。グループの中の雰囲気が悪くなって、だめになってしまいます。

 ですから、こちらがきちんと指示することが大事です。「これからグループワークをやります。ジャンケンをして、まずリーダーを決めてください」と指示して、「それから5分以内にこれをやってください。残りの時間で、まとめてください」というように、できるだけ制約をかけます。そうすると学生は、誰がやるのか、どのような役割をするのかということを決める時間を使わずに、本題のテーマについて考える時間ができるのです。

 先生の役割は、学生の活動を目的に沿って、できるだけ制約することです。考えてもらう内容は、学生の自由になります。このように考えてグループワークの設計をやっていただきたいと思っています。

(Part 3 終わり)

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