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アドラー心理学ってID的じゃないですか?

2017年3月17日

親友の鈴木克明さん(熊本大学)が編集長で発行されているメルマガ「IDマガジン」の最新号にこんな記事が。

アドラー心理学ってID的じゃないですか、とある人に聞いてみた。「そうですよね、やっぱり」とは言われなかった。別の人に聞いた。「アドラーとIDに共通点があるとは思ってもみませんでした」と言われた。やっぱり違うのかなぁ。でも似ているところがあると思いませんか?

IDとアドラー心理学は似ているところがある。もちろん出自はまったく違う。IDはスキナーの行動分析学がスタート地点だ。アドラー心理学はその50年前にスタートしている。行動分析学は第2勢力心理学(行動主義心理学)の中心となった。一方、アドラー心理学はロジャーズ、マズローへと繋がって第3勢力心理学(人間主義心理学)を形成したから、その流れとしても交わることはなかった。ちなみに第1勢力心理学は、フロイト、ユングの精神分析学である。

とはいえ、IDが行動主義的学習観からスタートしたとしても、その後の認知心理学や状況的学習論、社会構成主義といった様々な学習観を取り込んでいって、現在の豊かなインストラクショナルデザインという実践的な学問領域を作ってきた。現代のアドラー心理学もその根幹のアイデアはオリジナルのまま維持されているとしても、その後の認知主義、社会構成主義の流れを取り込んでいるという点では同じである。

鈴木さんはこう書いている。

アドラー曰く、劣等感を持つのは当たり前(普通)のこと。持っていない人はいない。劣等感は明日の私から今日の私を引いたもの。「今よりも良くなろう」と思っているから劣等感を持つ。他者と自分を比べて劣等感を持つのは、他者に明日の私を投影するから。自分と比べても仕方がない人(例えばオリンピック選手)に対しては(すごいなぁとは思っても)劣等感を持つことはない。これってIDの出入口のギャップを感じるからやる気になる、という論理と同じじゃない?
事前テストをやって、ぎゃふんと思わせて、自分はまだまだ伸びしろがあると感じさせ、ギャップを意識させるという手法に底通しないだろうか。劣等感を持たなければ学びへの意欲を持つことは難しい。人は同じ出口に到達するために必要な時間が違うから、到達する意味がある出口かどうかを見極めさせることが大事。そういうことと同じじゃないのかなぁ。

アドラーは目的論。「すべての人間は、それぞれの目的に向かって進んでいく」「なりたい自分」があるから、今このような行動をとっている。過去のことは変えられないが、未来のことは自分の意志で変えられる。「最も重要なのは、『どこから』ではなく『どこへ』である」。なるほど、現状を認識することは出口への距離感を実感するために必要だけど、何故そんな場所に今いるの、という原因追及はしても仕方ない。これまでのことは言い訳せずに、現状からスタートして出口に至る道をデザインするというID的アプローチと似ているんじゃないか。

アドラーは柔らかい決定論。「私の人生は全部私が決めている」と考えるのが「個人の主体性」。私という個人が、私の心と身体を使って私自身の人生を動かしている。もちろん、生育歴、身体的な条件、環境的な条件、偶然による制約など、自分の思う通りにならないこともたくさんある。この条件を除けばすべての事柄について自分で決めることができると考えるのが柔らかい決定論。自分の人生は自分以外の何かによって決められているのではなく、自分で決められる部分が確実にある、ということ。なるほど、これって、所与の条件は変えられないけれどその範囲の中でよりよい選択肢をデザインしてゴールを達成するというIDの処方的アプローチ(最近ではデザイン的アプローチとも呼ぶ)と似ているんじゃないの?

なぜ今、アドラーかって? それは向後千春著『アドラー“実践”講義 幸せに生きる』(技術評論社、2015年刊)を読んで、鋭意執筆中の『学習設計マニュアル』の学習スタイル(このことは前回の連載で述べた)の「前座」としてライフスタイル診断が使えないだろうか、と思ったから。読んでるうちに、アドラーってID的じゃないの、と思うようになったので、読者諸兄の反応を知りたくて開陳してみました。

鈴木克明さんの『学習設計マニュアル』が楽しみです。

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