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研究テーマを「自分のもの」にすること
2017年1月31日
(火曜日は「教えること/研究すること」のトピックで書いています)
先日今度退職される教員の歓送会が開かれました。それぞれのスピーチが面白かったのですが、その中で次の話は特に印象的でした。
ゼミでは「このテーマは面白いよ」と言って、自分が面白そうだと思っているテーマを学生に投げるんです。そうすると、一年後にその学生が「このテーマは自分のものです」と言ってくるんですね。それは私が投げ与えたテーマだったんだけどな、と一瞬は思うのですが、それでいいんですね。それはそのテーマを「自分のもの」にしたということ。そうなるためにはたくさん文献を読んで、たくさん勉強して、たくさん研究しなくてはならない。その結果として、そのテーマが「自分のもの」になったわけです。それでいいのです。
大学教員がゼミで果たすべき重要な仕事のひとつは、ゼミ生に「ここを深く掘れば意味のある研究ができるよ」というような研究テーマを提供できることです。その目標が明確に決まりさえすれば、学生は一連の研究プロセスに乗せることができるのです。
というわけで大学教員の資質は石油を掘り当てる能力に近いものがあります。ここを掘れば石油は確実に出てくる。ここは掘っても何もない。ここは当たれば大きいが何も出ないリスクもある。そんなような努力を石油ではなくて研究テーマについてやるわけです。そのためには科学の世界を広く見渡していなくてはならないでしょう。
もうひとつの要因は、学生が「自分のもの」にできるかどうかということです。これは純粋に学生の努力にかかっています。そうでなければそのテーマはいつまでも「借り物」のままです。自分のものになっていない。そうすると思ったような結果が出ないとすぐに投げてしまう。所詮は借り物なので、簡単に投げることができるのです。もう少し掘れば石油が出てくるかもしれないのに諦めてしまいます。
こんなようなわけで、ゼミにおける研究テーマとその成果については、偶然と確率と努力の、複雑で美しい組み合わせを生み出します。定式化のできないアートに近いものがあるかもしません。
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