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デザイン科OBインタビュー 佐原健先輩 前編

都立工芸高校デザイン科の進路学習の一環として行なうインタビュー企画、今回は本田技術研究所のデザイン室で四輪車のエクステリアデザインを担当する佐原先輩にお話を伺いました。
インタビュアー: OBインタビュー担当生徒3名


–本日はよろしくお願いします。 始めに先輩について簡単にお聞かせいただけますか。

よろしくお願いします、佐原健と申します。1982年生まれで、今39歳です。工芸高校を卒業してから20年ちょっと経ってしまってるんですね。考えたらびっくりですが、本当に工芸にいたころのことは昨日のように思い出せます。

卒業後は桑沢デザイン研究所に3年間通って、本田技術研究所のデザイン室に入社して、それからずっとホンダに勤めて車のデザインをやってます。私が担当しているのは車の外観デザインで、車のボディとかライトとかホイールとか、外から見えるところです。

入社して7年目の2009年から3年半、アメリカのロサンゼルスにデザイナーとして在住してアメリカ向けの車をデザインしていて、今はそこから帰ってきて10年くらい経ちました。

私生活だと、最近はコロナウイルスの影響があってから家で仕事することが多くなったのですが、子供が二人いてまだ小さいので、結構助かってるんです。今は、朝子供を保育園に送って、家に帰って仕事して、迎えに行って帰ってきたらまた仕事ですね。

–今の佐原先輩くらいのキャリアの方だと、スケッチなど、絵を描く仕事って全体の何割くらいなのでしょうか。

だんだん減ってきちゃいますね、監督や調整をする仕事の割合が多くなっています。クレイモデルの修正点を指示したり、それをまた3Dデータにしたのを見てこうしたらいいんじゃないかとアドバイスしたり、後はそれを会社の偉い人にプレゼンして、OKと言ってもらえるために色々書類を作ったりとか。

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マネジメントの立場になってから絵を描くか描かないかっていうのはその人のやる気次第で、いつまでも絵を描く人は無理にでも時間を作って絵を描きますが、絵を描かないデザイナーもいるんですよ。

絵を描くのってすごく体力がいるし、いつもフレッシュなアイディアがないと良い絵は描けないので、若い人にどんどん描いてもらう傾向が大きな流れとしてありますね。

ーアメリカではどのようなお仕事をされていたのですか。

同じホンダの車でも、アメリカでしか作ってない車のデザインを向こうでやっていました。日本人でアメリカに行って仕事する人っていうのはいずれ帰ることが決まっているので、アメリカ人のデザインプロジェクトリーダーのチームに入って、色々仕事を手伝うっていう感じです。

だから内容はそんなに変わらないけど、コミュニケーションを英語でしないといけないし、食べるものも当然アメリカのものを食べたり、車もアメ車に乗ったり、そういうところが日本と全然違いますね。

あと常識や治安も全く違って、家の周りで銃撃事件が起こったりするんですけど、家から歩いてすぐ行けるところで西海岸の綺麗な景色が見られたりとか、良いところも悪いところも色々あるんです。本当にいい経験で、日本にいたら全くわからないような新しい常識を知ることができました。

ーコロナウイルスの影響として、具体的にどのようなものがありますか。

うちの会社の仕事はすごい影響を受けていて、やっぱり海外出張にも行けないし、栃木県に車で二時間ぐらいの研究所があってコロナの前は毎週そこと行ったり来たりしていたんですけども、今はなるべく人の移動は減らさないといけないので栃木の研究所にも行かなくなって、出社自体も制限をしているんです。

だから僕も出社するのは週に2回とかで、あとは家で仕事しています。でもみんな慣れればできることはいっぱいあって、通勤で渋滞に巻き込まれたりっていうのはなくなったりして、いいことも結構ありましたね。

ー今までお仕事をしてきた中で、楽しかったことや苦労したことについて教えていただけますか。

やっぱり新しいものを産み出すって大変なんです。すでに見たことがあるものは絵に描けるし、コピーして作ることができるんですけど、見たこともないものを想像して、それがどんな形をしているか考えて、知らない人に見せて理解してもらうってすごく難しいことで。

まあ別にその苦労は実はそこまで辛いことじゃなくて、やっぱり辛いのは自分がいいなって思うものをなかなか人が理解してくれないとか、頑張って作って出したのに世の中の反応が良くないことですね。

ネットを見るとすごく叩かれていたり、酷いことがいっぱい書いてあったりするわけですよ。だからもうネットは、車出た後は見ないようにしないといけないですね。

本当に辛いと思っていることはそんなになくて、大体全部楽しいんです。僕は絵を描くのも好きだし、一緒に仕事してる仲間とその絵を見ながら車どういう風に作ろうかっていうのを毎日やることとか、デザインセンターの中のデザイナーや、粘土を作るクレイモデラーや、3DでCGをつくる仕事の人たちと色々相談しながら形を作っていくのも楽しいです。

あと車ってデザイナーのほかにも、工場のスタッフとか、車の中の機械を設計するエンジニアとかもいっぱい関わっていて、一つの車をどうやって作っていくかっていうミーティングを色んな立場の人が色んなことを言いながらやっていくんですよね。

車ってその人数が多くてほんとに何百人とか千人とかが関わって作ってくので、そういう時間的にも人数的にもすごい大きなスケールで一つのものを作るっていうのに結構楽しい部分がありますね。

ーたくさんの人と関わるものづくりは車ならではですね。

そうですね。車って大体1台、小さい車でも3メートル半とかで、大きい車だと5メートルくらいあるんですけど、最初その5メートルみたいな車のデッサンから始めてから段々小さい部品もデザインしていって、最終的にどのくらいのスケールまで行くかと言うと、プラスチック表面のザラザラ感までデザイナーが選んで指示するんですね。

だから最後は、10ミクロンのザラザラにしますか、5ミクロンのザラザラにしますか、みたいな。5メートルから数ミクロンまで考えるのもカーデザインの醍醐味だと思います。

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中編では、進路選択についてのお話や、当時の工芸高校の様子についてお話いただきます。


中編へ続く

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