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妻と子どもとグータッチ

────エッセイ

子どもの頃、夏休みは父と母の実家に数日泊まるのが恒例だった。母の実家は繁華街が徒歩圏にあって、着くや否やおもちゃ屋さんに祖母を連れ出して何か買ってもらうのが楽しみだった。

一方、父の実家は大きな川と一面に広がる田んぼとスイカ畑しかない地域。小学生のぼくにはテンションが上がる要素は何ひとつなかった。しかも、大人たちは畳に寝転がりながらテレビに映し出される高校野球を見てるばかり。食べ飽きたスイカの種を皿の周囲に並べながら「何が面白いんだろう?」と怪訝な顔をしてブラウン管の画面を見ていた。

でも気が付けば、熱烈な高校野球ファンになっていた。中学生の頃には選手の大人びた姿に憧れ、高校生になると同世代の懸命な姿に感化され自分も部活を頑張れた。ぼくは中高と個人競技をやっていたので、団体競技っていいなと毎年夏になると思ったものだ。

筋書きのないドラマ、鍛え上げられた選手たちのプレーなど、高校野球には見る人の心を打つ瞬間がたくさんある。一球にかける球児たちのひたむきな姿が感動を生む。その背景には、高校生活という限られた時間の中で懸命に部活に打ち込む姿があるのだと思う。

どんなに凄い選手でも3年生の夏には引退してしまう。勝って終われるチームは優勝する1校だけ。もっと仲間と一緒に野球がしたかったと涙する選手の姿にもらい泣きをする人もいると思う。いつもは、ウンウンとうなずきながらテレビに映る選手たちに感情移入するぼくだったが、今年は少し違った。みんな一緒なんだなと、今年部活を引退した上の子の姿に重ね合わせた。

高校生になってから始めた部活に上の子はのめり込んだ。練習は風邪以外は皆勤賞。自主練も積極的に行い体を鍛えた。でも、初心者のハンデは大きく大会で活躍することは難しかった。1年生の頃は部活が辛かったと、2年の夏に聞いた。でも、続けられたのは仲間に恵まれたからだともそのとき聞いた。そして副部長に任命されたんだと聞いて、妻と二人で驚き、喜んだ。

先日、そんな上の子が出る最後の大会に妻と二人で応援に行った。この日の為にカメラの望遠レンズを買った。遠く離れてスタートを待つ上の子の顔は、いままで見た中で一番かっこよかった。

結果は、本人も納得できないくやしいものだった。でも、1年生のときから一番伸びたのはうちの子なんだと胸を張れる結果だった。テレビ中継どころか、地方新聞にも載らない小さな大会。観客数だって甲子園とくらべるまでもない。でも、一緒だなと思った。結果に悔しがる表情も、仲間を応援する真剣な顔も一緒だった。笑顔も泣き顔も、球児たちに負けないくらい輝いていた。2年4ヶ月という限られた時間の中で青春を燃やしたことは、みんな一緒なんだ。

閉会式のあと、3年生が手を振って観客席に応えた。ぼくはすかさずシャッターを押してその瞬間を写した。上の子の晴れやかな姿がそこにあった。5年間貯めたヨドバシポイントをはたいて買った甲斐があったねと、妻とグータッチした。



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