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イッシュの音楽に支えられた大学受験

今年30になる私だが、ポケモンはずっと続けている。
ハマる濃淡は時期によってあれど、初めてプレイした「金・銀」の衝撃は今も忘れないし、「ダイヤモンド・パール」はプレイ時間がカンストするまでやったし、夫婦で夢中になった「ソード・シールド」も印象深い。

でも人生で一番ポケモンに支えられたのは、プレイ前の「ブラック・ホワイト」だと間違いなく言える。
大学受験を「ブラック・ホワイト」と駆け抜けた思い出だ。

初めて発売日にポケモンを買わなかった

ブラック・ホワイト(BW)が発売されたのは2010年9月。高校3年生の秋、絶賛受験生だった頃だ。
「東大30人、京大15人、早慶30人!」とかいう、いわゆる進学校に通っていた私。難関大学への進学なんてとうに諦めていたのに、受験戦争に巻き込まれて、日々メンタルをすり減らしながら机にかじりついていた。

当然、大好きなポケモンのゲームをやる余裕なんてない。
BWという新作が出ることはゲーム雑誌で知っていたけれど、受験のプレッシャーでポケモンどころではなかったし、落ちこぼれな私だったから、BWどころかHGSSすらも、親や先生からの「やってる余裕はないでしょう」という圧力を察し、友人が楽しそうにポケウォーカーを振るのを横目に、単語帳と向き合っては泣いていた。
精神も体も受験ですり減らし、鬱病一歩手前……、いや間違いなく鬱だった。志望校も一応は決めていたけれど、進学してやりたいことも、目指したい将来もない。「受かろうが落ちようがどうでもいいから、早くこの地獄から抜け出したい」一心だった。

それでもポケモンは心の支えだった。
ダイパ時代にネットでの交流を覚え、オンラインでポケモン友達ができて、夜中にチャットでポケモン談義で盛り上がっていた。
HGSS発売以降は、受験や自分だけできない疎外感もあってあまり掲示板に顔を出さなかった。それでも顔も名前も知らない人生の先輩たちに、「はこくん受験がんばれよ」「あんまり気負うなよ」と励まされ、なんとかギリギリのところで耐えていた。ネットがなければ力尽きていたのは間違いない。

だから受験の目標は、第一志望でも現役合格でもなく、「受かってBWをやる」にすり替わっていた。
それでも受験は過酷だ。上がらない成績、覚えられない英単語、机に座るだけで涙が出てくる精神状態。「合格して新作のゲームをやる」という思いだけでは、とうてい乗り切れられないことは間違いなかった。

だからある日、両親に宣言した。
「もう耐えられないからポケモン買う。サントラだけ!」

音楽だけでもイッシュ地方へ

両親はぽかんとしていたが、「ゲームは受験終わってからね」という約束は守っているので、結局買った。サウンドトラック「ポケモンブラック&ホワイト スーパーミュージックコレクション」。ゲーム内のBGMが全て入ったサントラ。真っ先にウォークマンに入れ、それ以降は受験勉強のお供になった。

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手元にありました。4枚組2500円は高校生にも優しい

とはいえ私はゲームの内容を全く知らない。
プレイできていないので当然だが、「カノコタウン」「ホドモエシティ」と言われてもどこだかわからないし、物語のどの辺りで、どんな風に流れるかも検討もつかない。音楽だけをただ楽しみながら、想像のイッシュ地方で勉強をしていた。
イッシュ地方を思い描くには、CD付属のブックレットだけが頼りだった。「ソウリュウシティ」はどうやらブラックとホワイトで音楽が違うらしく、「ポケモンリーグ、包囲」という曲名からポケモンリーグが大変なことになるようで、いきなり「戦闘!シロナ」が流れた時は、「出てくるのか!」と椅子から転げ落ちた。
音楽のどれもがDPから進化していて、街も戦闘もそれ以外も何もかもが格好良かった。ジムリーダー戦も四天王戦もチャンピオン戦もNもゲーチスもどれもこれもが好みで、特に「戦闘!四天王」は狂おしいほど好きだった。四天王の顔も手持ちも何も分からないのに、きっと滅茶苦茶強くて個性的なんだろうなとワクワクできた。

受験勉強は相変わらず過酷だったけれど、サントラを手にした11月以降は少し気持ちが楽になった。成績も少しは上向いたし、何より「受験が終わった後」のことが想像できるようになった。「受かってBWをやる」から「受かってこの音楽が流れるBWをやる」に。小さくても、それは確かな変化だった。
大きな模試の前には戦闘BGMを欠かさず聞いて、自分をふるい立てていた。自分を潰しそうな大学受験が、立ち向かうべき、乗り越えるべき「ジムリーダー」「四天王」「チャンピオン」になったような感覚さえもある。頼もしかった。

空想のイッシュ地方に支えられて、何とかセンター試験、私大試験、国公立二次試験を乗り切った。二次試験を終えて帰る飛行機の中で、「ENDING 〜それぞれの未来へ〜」が流れてきて、結果も出ていないのに泣いた。

人生は続く、ポケモンとともに

第一志望の合格発表の日。自分の受験番号を合格者一覧の中に見つけて真っ先に向かったのは、高校でも学習塾でもなく、ゲームショップだった。
「ポケットモンスター・ホワイト」を買って、その足で高校や塾に行って、「受かりました!」とゲームソフトを見せて合格を報告。こんな受験生は後にも先にもいないと思うし、自分の受験番号を見せるよりはよっぽど説得力があったらしい。

ひとしきり報告を終えると、いつの間にか夕方になっていた。
自分の部屋にこもって、1日見せびらかしていたホワイトをようやく開封。充電しておいたDSに差し込んで、1年半か2年ぶりかに電源を入れる。

「王になった日」「A New Adventure!」をBGMにオープニングが流れる。「ああ、こんな話なのか……」とドキドキして、そしておなじみの「タイトル」と、「ポケットモンスター・ホワイト」のロゴ。
ウォークマンで何十回、何百回も聞いてきた音楽だ。だのに、手に持ったDSから流れてくるというだけで、タイトル画面を目にしているというだけで、こんなにもワクワクするなんて。

「ポケットモンスターのせかいへ ようこそ!」
受験が終わった解放感と安心感。そしてまだまだ続く自分の人生を前に、18年で一番泣いた。

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ブックレット。御三家進化系もここが初見でした

素敵な音楽をこれからも

ポケモンの音楽が大好きだ。
冒険のワクワク、強敵との対戦、伝説のポケモンの威厳、街の風景。ゲームとしてのポケモンの様々な表情を彩る音楽が、本当に好きだ。
音楽の記憶のほとんどが、ゲームの体験と結びついている。RSの「日照り」の絶望感とか、DPの「216番道路」の銀世界の高揚感とか、USUMの「ウルトラネクロズマ」のラスボス感。聞けばゲームの風景が浮かび上がるし、だからこそのゲーム音楽だろう。

でも、BWの音楽たちは私にとって特別だ。
模試の前、塾の帰り道、自室の机、受験が終わった後の飛行機。ゲームの風景を思い出すとともに、過酷だった大学受験の日々がリンクしてくる。それは苦い思い出ばかりだけれど、何とか乗り越えることができた。

受験を終え、私を支えてくれた一つ一つの音楽の思い出を、イッシュ地方を旅しながらゲームの思い出に書き換えていった日々は、一生に一度のゲーム体験だった。想像のイッシュ地方よりずっとずっと楽しく、ワクワクで、何度も何度も「受験頑張ってよかった……」と噛み締めながら、隅々まで旅をした。

これからも人生は続く。ポケモンもきっと。
そんな自分の人生が、ポケモンとその音楽に彩られるのであれば、これ以上に嬉しいことはない。


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