見出し画像

法制審家族法制部会第14回会議議事録6~棚村委員・青竹幹事

 今、議論の仕方にかかわる御発言がありましたが、何かその点についてあれば、更に伺っておきたいと思いますけれども、いかがですか。

今週も読んでいきまーす!

○棚村委員

 全体の進め方ということなのですけれども、私たちにとって、特に民法の研究者としては、個別事例とか具体的に経験されたこととかは、非常に貴重なお話で、聞かせていただいて参考にさせていただいています。ただ、事務局から毎回提案されているものが割合とテクニカルな意味で法制度をどうするかというようなことですので、今後の議論の仕方とか進行との関係でも、一番気になっているのは、事前に準備していただいた資料を読ませていただいても、だんだん内容についての審議検討が遅れてきて、少しずれが生じてきてしまっている感じがします。せっかく用意したり準備してきても、今日も終わるか分からないというのもあるので、私も長い方なのですけれども、今後少し個別事例や御経験とかにわたるものをできるだけコンパクトにしていただいて、事務局から御提案されている制度、あるいは検討事項に少し特化して議論させていただければと思っています。
 そこで、今回も第2のところで取り上げられている主要なテーマというのは、お子さんにとって具体的にどういう点が重要な事項として問題になりやすいかということ、それから、これらの問題や事項に対して両親がどういうような形で、別居中もそうなのですけれども、離婚した後も関わるべきかという問題があります。ここで、当然出てくるのは、お子さんの問題につき双方が関与した方がいいということになると、話合いがある程度促進されるとか、熟慮の機会が与えられるということで、もちろんいい面はあります。他方で、問題としては、双方関与ということが求められると、迅速な決定が阻害されたり、話し合いができずにトラブルになったときに、子どものために物事が決まらないとか、収拾が付かないとか、迅速性とか簡易性という面で、デメリットが出てこないかが懸念されます。その辺りのところをいろいろなケースを想定しながら、個別的な事項ごとに、緊急性とか迅速性が特に要求される場合、重要なものの中でもそういうことはありますし、それから、日常的なことでよく起こっていくことでいちいち意見を聴いたり同意を得ないと進まないということの不都合さや不便さ、とくにお子さんにとって早く決定できないことからどんな悪影響があるのかということをしっかり検討する必要があると思います。
 とくに、親権という言葉を使おうが監護という言葉を使おうが、お子さんにとって何が問題になって、どういうことを話し合ったり決めたりしなければいけないのだろうかということを前提にしながら、共同親権が是か非かとか、双方関与が是か非かという両極の議論にしないで、できるだけ細かく具体的な場面ごとにどのようなルールや手続、取り得る手段などが考えられるかということでとりあえず出して検討してみる。釈迦に説法かもしれませんが、そのうえで、そのそれぞれのメリット、デメリット、いろいろあるでしょうが、その辺りのところを冷静に、多様なケースや状況を想定しながら、法的仕組みとして、法的ルールとしてどのようなものを置いておくと、紛争がある程度予防できたり、解決することに資するかという観点から議論や検討を進めていただけるといいなと考えております。
 ところで、カナダで2019年6月に連邦の離婚法とそれに関連する法律の大きな改正がありました。この改正の目的とか改正点とかについては、とても参考になるように思います。社会が大きく変わってきて、そして子どもたちをめぐる生活も変わり、大人の生活や家族の在り方も変わってきたときに、やはり法改正が必要になります。カナダの連邦離婚関連法が大きく改正され、2021年3月から施行されたのですけれども、離婚をめぐる法改正の理念や目的で一番大きいのが、第1に子の最善の利益をいかに促進するかという点でした。第2には、DVとか家庭で起こっている暴力をいかに防止したり配慮するかという点でした。それから第3には、お子さんの貧困を撲滅したり、少しでも減らしたいという点です。さらに、4番目は、家庭裁判所を含めて、今日もいろいろと批判が出ていましたけれども、家庭紛争の解決する手続での利便性の向上とか実効性を高めていくという、この4点からの改正が行われました。
 そこで、時間の関係もあり、余り細かいことまで立ち入れないのですけれども、この中で私たちが日本で今直面している改正でも考えていかなければいけないなという点だけ抜き出してお話します。まず第1の、子の最善の利益の促進というところでは、一つは子どもにフォーカスした用語の改正というものです。これまで子の「監護」という意味でカスタディ(Custody)と呼んでいました。それからカナダですと、「面会交流」をコンタクト(Contact)というのはイギリスでもいうのですけれども、アクセス(Access)ともいっていました。また、子の監護や面会交流について争いが起こって、裁判所が決定を出すときに、カスタディ・オーダーとか、あるいはアクセス・オーダーではなくて、「養育決定」ペアレンティング・オーダー(Parenting Oder)というように、一般の人々にも身近で分かり易い表現にして、「子どもの養育や子育てについての決定」みたいな形に改めました。ここで、非常に象徴的なのは、身柄を拘束するというカスタディ(Custody)という言葉をやめて、むしろディシジョン・メイキング・レスポンシビリティ(Decision-making Responsibility)という、要するに、「子どもの問題を決定する責任」という言葉に変えました。それから、子との交流を指すアクセス(Access)とかコンタクト(Contact)というのは正に「ペアレンティング・タイム(Parenting Time)」という言葉で、お子さんといかに充実した時間を楽しく過ごすかというようなことになりました。これは言葉だけ変えればそれで済むという話ではなくて、恐らく言葉を変える過程で、ターミノロジー(専門用語)をお子さんにフォーカスするという中で、中身についても、やはり大人目線から子ども目線みたいなことへ大きく転換することが目指されていました。ですから、ただ形式的に言葉を変えるというのではなくて、実質的に理念や根本的な考え方も、この機会に変えなければいけない、そういう発想が非常に強く出てきています。
 カナダの改正では、子の最善の利益を促進するところで、子の最善の利益の考慮事項の中で、子の意思や意見の尊重、父母だけでなく、お子さんから見て人生や生活に大事な人は誰かという面から、祖父母とか継親、きょうだいなどを含むそのほかの人たちがかなり入ってきました。要するに、お子さんにとって大事な役割を果たしている人が誰かと、親だから子にとって大事ということではないのだということを再確認したり、そのほかにもいろいろと学ぶべきことがあります。たとえば、養育費についてもいろいろ計算の方法の合理化、効率化、州ごとのバラツキの解消とか、貧困の解消の立場から、税情報、財産情報の開示などについて大胆に改めるなどで、哲学的、理念的な改正の中で、現実的に起こり得る紛争の解決のためのルール化の見直し、DVの定義の精緻化、解決のコストの低減、実効化を改革していました。細かいことでは、養育費の回収、行政サービスと司法サービスの連携とか、ADRの強化、家庭裁判所の仕組みや運用の改善も、戒能先生からイギリスの司法省の話が出ていましたが、実務の運用の在り方などについてもどこの国もきちんと検証しながら、良い点と改めるべき点をしっかり区別しながらやっているということだと思うのです。
 少し長くなりましたけれども、今回、当面は、親権とか監護という言葉を使わざるを得ないということで、確かにこれらの慣れた用語を使って議論した方が効率的だと思いますけれども、ただ、私たちとしては、子どもに焦点を当てながら、大人目線から子ども目線に移していく。繰り返すことになりますが、共同親権の是非とか双方関与の是非とかという話ではなく、それから面会交流の是非という形よりは、お子さんと本当に楽しい時間、充実した時間を過ごすということでどんなルールや制度が望ましいか、それから、必要な社会的支援がどういうような形で与えられるべきかどうかというようなことで議論してゆきたいと考えています。先生方も当然お分かりだと思いますけれども、ルールや制度の在り方みたいなことを中心として、提案されているものに対して賛成、反対も含めて、こういうふうにすべきではないかというようなことを議論させていただくと有り難いという思いで、少し時間を取りまして発言させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。間にカナダのお話がありましたけれども、その中で、子どもの利益の促進の観点から用語を見直す必要もあるというお話がありました。用語の話は先ほども触れましたが、また後で考えるべき点かと思います。最初と最後におっしゃったことは、具体的な規律に即した形でコンパクトに議論していく必要があるのではないかということだったかと思います。ありがとうございました。

進行のおはなし

○青竹幹事

 23ページの1の離婚後も父母双方が親権を有するための要件についてのところなのですけれども、池田委員から、この共同親権の道を開く場合に監護の内容が変わってくるだろうと御指摘いただきました。そのとおりと思いますけれども、ただ、監護の中に現実の世話といったものが結局、現行法と同じように含まれると理解しております。その理解によりますと、離婚後も父母が共同親権を有する道を開く場合に、その一方を必ず監護者と定めなければならないとされている点について、少し御指摘したいことがあります。
 確かに共同親権を選択した場合に、一方を監護者と定めるというのは実務の状況には合っているでしょうし、一般的と理解はできます。でも、共同親権とした上で、中には監護についても共同でやろうという、円満な場合などに限られますけれども、そういうこともあるだろうと思います。その場合にそれを一切認めないという規定の仕方はどうなのだろうかと疑問に思いました。
 現在でも離婚後は、親権は単独にしなければならないですけれども、子どもに関して協力関係を築いて共同で監護するということはゼロではないかと思います。もちろんこの部会では、父母の力関係に差があるような状況、高葛藤の事例にどう対処すべきか、それを最も重視すべきと考えます。ですけれども、小粥委員も先ほど御指摘されていましたように、いろいろな家庭がありますので、父母が社会的にも対等で責任ある立場を築いていて、離婚後も子育てに共同で公平に分担して、仕事と子育てを両立させたいと考える父母がいますし、共同参画を目指している社会では、むしろそちらに向かっていくだろうとも期待されます。社会に与えるメッセージという面からも、共同親権の道を開く場合に、必ず一方を監護者とする、としない方がいいのではないかという印象を持ちました。
 それから、2点目ですが、23ページの1(2)の裁判上の離婚で共同親権とする道を開く場合の話ですけれども、子の利益のために必要があると認めるときは、裁判所は共同親権と定めることができるとされています。このようにすることで、裁判所が共同親権を認めるのは何か特別な場合に限るという厳しい立場を民法が示しているように伝わるのではないかとの印象を受けました。確かに共同親権を原則とするという立法は、現在の裁判所の体制からすると、弱者となっている父母の一方にとって害悪が大きいということについて、これまで委員、幹事、ヒアリングでの報告から理解できました。そうかといって、特別な事情がない限り単独親権にすべきであるという立法の仕方も、やや中立的ではないと感じております。離婚後、子にとって共同親権、単独親権どちらが望ましいかについては個々の家族について異なると思いますので、民法の方で単独親権とすべきであるとか、共同親権とすべきという立場を最初から採らない方が、あるいは中立的で受け入れられやすいのではないかなどと考えております。23ページの親権に対するアンケートを見ましても、単独親権を原則とするといった形の規定だと国民の支持も得られないのではないかと考えました。
 3点目ですけれども、少しずれた話になるかもしれませんけれども、離婚後も共同親権の道をもし開くことにするのであればですけれども、これまで多数の委員から指摘されていますけれども、やはり婚外子の共同親権の可能性を開かなければ制度として少し整合性を欠くのではないかとも思われます。本来、離婚後共同親権、婚外子の共同親権を併せて検討すべきではないかと考えます。ただ、この部会でどこまで検討するか、その範囲を区切る必要もあるでしょうから、何でもというわけにいきませんので、少なくとも今後の検討課題とするということを明確にした方がよいのではないかと考えました。
 それから、4点目ですけれども、29ページのところですが、双方関与の態様ですが、こちらは、棚村委員からも御指摘があったとおり、共同という、双方という形をとる場合には難しい問題が出てくるので、これに配慮しなければならないということですが、ただ、一方が決定できて事後的に他方に通知するというだけでは、何か離婚後双方関与にする意味が半減してしまうという印象を持っております。双方関与ということをするのでしたら共同行使ということを原則とすべきではないかと、例外に配慮しながらということになるかと思いますけれども、案①を原則、基本とする方がいいのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございました。4点御指摘を頂きました。御発言を聞いていて共同親権、単独親権という言葉が耳に残られた方もあろうかと思いますけれども、最初に繰り返し申し上げたとおりで、この言葉で何か実体的なものが指されているという前提には今のところ立っておりませんので、青竹幹事の御発言もそういう趣旨だと受け止めさせていただきます。その上で、監護についても双方でということを認めるべきではないか、それから、裁判上の離婚の場合の扱いがこの提案でよいのだろうか、それから3番目に、婚外子の問題も考えるべきではないか、4番目に、双方関与の場合に通知だけだと意味が乏しいのではないかという御指摘を頂きました。事務当局の方で何かあればお願いします。

原則共同親権ないしは中立的共同親権を推してくださっている

親子に優しい世界に向かって,日々発信しています☆ サポートいただけると励みになります!!いただいたサポートは,恩送りとして,さらに強化した知恵と工夫のお届けに役立たせていただきます!