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ポストコロナの税理士業界 自計化はオワコン?

I. 自計化がオワコンになる?

私がこの業界に入って30年近くなります。

それより10年ほど前は、まだパソコンが普及しておらず、高価な会計専用機でベテランのおばちゃんキーパンチャーが、バチバチと音を立てて、凄まじい速度で会計入力するというのが税理士事務所のビジネスモデルでした。

その後自計化と顧客訪問というTKCモデルが業界のスタンダードになってゆきました。

そのTKCモデルが3つの要因で今崩れつつあります。

1.Google検索とSNSの普及

2.freeeとMFといったクラウド会計ソフトの登場

3.コロナ禍


1.Google検索とSNSの普及

 月次監査という名目の帳簿チェックのための顧客訪問が、自計化したあと、税理士事務所が顧問報酬を顧客から頂く大義名分でした。これまでそれが成り立ってきたのは、税理士事務所と顧問先企業との間に絶対的な情報の非対称性があったからだと思います。それまで一般事業者さんには、税務の情報を入手する術がほとんどありませんでした。

 そのため税理士資格を持たない若い担当者でも、訪問時に、税務の相談あるいは、研修で学んだ経営知識などを、お伝えすることに価値がありました。

 しかし、現在ほとんどのことは、Google、YouTubeあるいはSNS上で質問することで解決できるので、情報提供という意味での月次訪問の価値が急速に下がっています。

 私がTKC会員だったとき、TKCから毎月システム担当者が、私の事務所に訪問してきていました。しかし、PCやインターネットについては、私の方が詳しかったので、

逆に

「先生、今日は、勉強になりました。」

と言ってシステム担当者が帰っていきました。

時間がもったいないので、そのうち

「毎月、来んでええから、ほんまに必要な時だけ来て。」と言うと

「毎月、来ないと行けないんです。」

「ほな、来たことにして、どっかでお茶飲んでたらええやん。」

というようなやりとりがありました。

TKCと提携関係にある大同生命からも同じように毎月訪問がありました。


 そのときに、これって税理士事務所も、顧問先のところで同じように時間の無駄と思われてるんと違うやろかと感じました。


2.freee・MFといったクラウド会計ソフトの登場

 クラウド会計ソフト自体は、業界的にそれほど目新しいものではありませんが、これら2つの会計ソフトの提供者が、それまでと異なったのは、会計業界ではなく、IT企業からスタートした会社であったため、税理士に対しての忖度がほとんどないことでした。

 「これからは、税理士がいらなくなる」

ということを堂々とPRし始めました。

 実態は、そんなことはなく、一部これらをうまく取り入れた若手の税理士を除けば、顧問先に下手な会計入力をされることにより逆に負担が増えてしまい、「入力したから税理士不要なんでしょ。」という意識が植え付けられたため、決算処理だけの契約になったり、顧問報酬が下がるというケースをよく聞きます。

 これらは会計ソフトとしての基本性能が低く大量処理に向かないので、徐々に税理士業界での熱は覚めていくんじゃないかと思います。

 若手の税理士の中には、特にfreeeにおいては、GoogleスプレットシートとGASでAPI連携させてうまく活用させたり、ERP的な使い方をされている人たちもいますが、数的にいえばかなりマイナーで、体制に対するカウンターカルチャー的な勢力だと思います。

 私自身も若い頃は、カウンターカルチャー気質があったのでその心情は理解はできます。

3.コロナ禍

 今回の件で、顧客訪問ができなくなり、ZOOM等で補い、アフターコロナでも訪問いらないんじゃない?ということになる可能性があります。
 今後も、新型のウイルスが発生することは充分予想されますので、TKCのように訪問して月次監査処理をしないと、その先が入力ができなくなるというシステムだと、非常に困ったことになります。
 税理士事務所の所員にとって、顧客訪問のための移動時間は、勤務時間のうち大きなウエイトを占めます。今回のことで、在宅勤務をしたり、時間に余裕ができて、そのことが浮き彫りになったのではないでしょうか?
  

II.アフターコロナの業界予測
 
以上のことから、コロナ後の税理士業界を予測してみます。

1記帳代行が復権する!

 記帳代行をとりまく、インフラが20年前とは桁違いに進化してきました。もうベテランのキーパンチャーさんは不要になりました。

 そのインフラを列挙してみると。

 streamed・・・レシート、通帳やクレカ明細を海外で手入力し、csv データ出力

 sprai・仕訳ロイド・・・通帳やレシートをAIでcsvデータ出力

 中国や、沖縄での記帳代行の外注

 また、ランサーズやクラウドワークスなどを使って、外注先を見つけることも容易です。

 私自身も上記のサービスを利用していますので人手がほとんどかかりません。かかるとしてもスキャナーに読み込ませる仕事だけなので、子供でもできます。

 あとはcsvデータの加工方法ですが、そのまま会計ソフトに取り込むことも可能ですが、預金データやクレカデータの場合、勘定科目の選択が手作業になってしまいます。

 その中間処理においては、早業というソフトが人気です。私は、きさらぎ会計というEXCELのVBAで作ったソフトで摘要から勘定科目に変換しています。

 これらのシステムを組み合わせると、記帳代行の方が、下手に関与先に自計化してもらうよりも効率的だし、出来上がった会計データが均質化され、決算処理も楽になりますし、財務分析用の資料としても加工しやすくなります。

 さらに、最近決定的に記帳代行復権の意を強くしたのは、東京池袋のエクセライク会計さんが自社開発されたクラウド会計ソフトのエクセライク会計とそれをつかったマネジメントを知ったことです。

 エクセライクという名のごとく、クラウド上でRUBYという言語によって、EXCELそっくりのインターフェースが再現されています。驚いたことに、エクセライク会計とEXCELの間でデータのコピペまでできます。

 処理的には、私がEXCEL VBAで作ったのとよく似た勘定科目一括変換システムが使われ、圧倒的な作業効率が得られます。

 このエクセライク会計による記帳代行と徹底した工程管理、外注活用で、担当件数一人あたり余裕で100件しかもホワイトという嘘のようなマネジメントが実現しています。

2. 税務と区別された付加価値業務 

 前述のエクセライク会計さんの場合、税理士事務所のコアの業務だけに絞り込んで、非来所型の割り切った低価格戦略をとられています。伊藤先生いわく「お値段以上ニトリ戦略」により、顧問先は激増しています。

 一方で、今まで税理士顧問契約の中で曖昧に行われていた、税務以外のコンサルティング業務は、非訪問型の記帳代行が主力になると、税務会計業務からはっきりと峻別される必要があります。

 そのための独自商品が必要となってきます。

 最近では、私が、所属する和仁達也先生主宰のキャッシュフローコーチ®や、立ち上げに協力した松川幸弘先生の経営支援コンサルタントキャンプなど、税理士事務所向けの優れたコンサルティングのコンテンツが登場してきています。


 私の場合は、こがねむしクラブを通じて、正しい経営判断をするための数字を提供するツールを、コンサルティング業務を行う人に提供するスタンスをとっています。

 まとめると、ある程度の高単価を獲得しようとすると

超効率化された記帳代行+実績のあるコンサルタント手法+コンサルティングツール

の組み合わせ、それをインターネットの各種媒体でアピールするための、企画力、マーケティング力、キャッチコピーを考える能力などが必要になってくるのではないかと思います。

さらにエクセライク会計さんのように、効率的にマネジメントする能力も重要です。わたしは苦手ですが・・・


3.経理まるごと代行業務

 小規模の企業においては間接業務に社員を雇うゆとりがなくなっていくため、税理士事務所に経理事務をまるごと代行することが増えていくことが予想されます。
 実際に、それ用の部署をつくって動き出している税理士事務所もあり、資金繰り表作成まで業務に入れて、こがねむしクラブのツールを使っていただいております。
 かなり、負荷は大きいですが、会社側にすれば経理社員の人件費がまるまる助かるので、高単価になります。ですのでビジネス的には悪くないと思います。

 まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦ですが、業界IT化の生き字引としては、だいたいこんな風に進んでいくんじゃないかと思っています。

追記
この予測で、想定してるのは、経理社員のいない小規模事業者です。

誤解されやすいのですが、TKCではなく、自計化と月次訪問というTKCモデルが崩れるという意味です。TKCにも素晴らしい部分はいっぱいあると思ってます。


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