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絶滅危惧種としての香道具~香道具ファンドNo.4「火取香炉」~

※このnoteは、麻布 香雅堂が運営する「香道具ファンド」の関連商品を紹介しています。香道具ファンドについて、詳しくは以下noteを恐れ入りますがご覧ください。
『絶滅危惧種としての香道具』https://note.com/okopeople/n/nbb7b6aab65ef
香道具ファンドの対象商品は、毎月【第一土曜日】頃に、弊社オンラインショップKOGADO STORE内にて公開(その10日後に販売)します。少しずつ種類を増やしていきますので、どうぞお楽しみに!

香木の香気は人間の知恵では再現することが不可能な「大自然の恵み」ですが、その恵みを最大限に活かす、つまり香木を最適な温度で加熱することによってその潜在能力を余すところなく発揮させるには、それなりの技術が必要になります。

古より幾多の香人たちがそのような聞香の方法を究めようと努力した結果辿り着いたのが、香道で行なわれている、聞香炉を用いる方式と考えられます。

ふでばこ、香道具、fudebako、最大サイズ写真 (6)
その方式に欠かせないのが、優秀な香炉灰と香炭団です。
それらは、「最も重要な香道具たち」と表現しても過言ではないと思います。
いずれも、香木の仄かな香気を邪魔しないように無臭を保つことを理想とし、それが完璧には叶わないまでも、少しでも無臭に近付けるよう工夫が重ねられて来ました。

それら香炉灰や香炭団につきましては機会があれば言及することにさせていただいて、今回は香炭団の容れ物がテーマとなります。

香会を催す際に、勝手(茶道では水屋に相当)で香炭団を熾(おこ)す(コンロや電熱器などで真っ赤になるまで加熱する)のですが、熾きた香炭団を香席まで運ぶために用いられる道具を火取香炉(ひどりこうろ)と呼びます。

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その由来は、足利義政公が伏籠に用いられる阿古陀香炉(あこだこうろ=外形が「あこだ瓜」に似ていることから名付けられた)を流用し、火取香炉と名付けたとされています(志野流香道要略『桂香』参照)。
伏籠とは、平安時代に衣服などに香を焚き染めるために用いられた道具で、衣服などが触れても焦げたり燃えたりしないように大きな金網のような火屋(ほや)を被せた香炉を、お湯を入れた鉢に板を渡して載せたものです(湯気が、香りが滲み込むのを助けたと思われます)。

元々伏籠に使われていた香炉を流用したわけですから、恐らく室町時代には、源氏物語に見られるような(若紫が雀を飼おうとした)大きな金網の香炉が使われていた可能性が高いと思われますが、時代が下るにつれて金網は次第に小型化し、寸法や仕様は現代のように規定されるに至ったと考えられます。

香道の眞の手前では掌に載せて運ぶため、そのような大きさに作られており、素材が桑木地や漆塗仕上げであることから内側には金属製(銀や銅)の落としを嵌めてあります。
火屋は網目状ですが、実は編んでいるわけではありません。
「籠目(かごめ)細工」と言って、飾(錺=かざり)職人の手によって丹念に施された透彫りです。

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銀や銅の板をあたかも編んであるかのように透彫りを施すのは高度な技法であり、一般的な飾職人では習得していないため後継者を探すのが大変です
(技術者は京都に居られるのですが、飾職では生活が成り立たなくなって、現在は他の仕事に就いておられるのです)。
難しいのは籠目細工だけではありません。
落としの覆輪は、出来るだけ本体の縁に薄く嵌めるように作らなければ美しくありませんし、木瓜型のどの向きでも火屋が無理なく収まらねばなりません。
火屋を外したり置いたりするには香炭団を挟み持つ専用の箸(火取箸=ひどりばし)を用いますが、それについてはいずれ改めて触れることにいたします。

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さてファンドの対象とさせていただくのは本桑木地の火取香炉及び本桑木地に波千鳥蒔絵の火取香炉です。
前者が稀少品である主な要因は複数ありますが、一つは素材である本桑が無くなりつつあることで、その点については機会があれば触れたいと思います。
本品は、本桑の中心部分をくり抜くように木取りしており、その結果、同心円状の木目が綺麗に現れており、味わい深い景色が楽しめます。

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後者の場合、桑木地に拭き漆を重ねて下地を作り、更に志野流香道御家元好の波千鳥蒔絵を施しています。
本桑はとても堅い素材ではありますが、拭き漆塗を重ねても木目の溝は容易には埋まりません(塗り重ね過ぎると木目が見えなくなって趣が失われます)から、筆を自在に引いて(とは言え、蒔絵筆は一方向にしか動かせませんが)漆で絵を描くことは困難を極めます。

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木目の溝を超え易くするために漆を固めに調整すると、筆が動き辛くなり、繊細な毛先が傷みます(蒔絵筆の毛先はとても繊細で、少しでも擦り切れてしまうと細かい絵柄が描けなくなってしまうのです)。
いかにも志野流らしい質素でありながら瀟洒な趣を感じさせる「拭き漆仕上げ+金蒔絵」の香道具は、実は蒔絵師泣かせの貴重品なのです。


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