僕たちは(この街で)どう生きるか
見出し画像

僕たちは(この街で)どう生きるか

麻布 香雅堂

地元を代表するような飲食店がお店をしめることを、SNSで知った。またひとつ、麻布十番の昔ながらのお店がなくなってしまう悲しさ、そして、過程を知らないまま、閉店される事実だけをSNSではじめて知ることの寂しさを感じる。

この10年の間、そんなことの連続だった。そのたびに「麻布十番らしい、良いお店だったのにね。残念だね。また十番も変わっていくね、どうなるんだろうね。」と、妻や地元の友人、両親と話していつのまにかそのまま忘れていってしまう。

約20年前、六本木ヒルズが開業し、地下鉄の麻布十番駅ができた。そのときを境に街の様子はかわっていったように思う。人のながれがかわり、地域にあらたな活気が加わり、一時は廃校寸前だった母校の小学校も、いまでは1学年3クラスという元気をとりもどしている。

自転車で5分くらいの範囲内に、タワーマンションがまたいくつか建つ。麻布十番商店街の昔ながらのお店はまたひとつ・またひとつ商売をやめ、あらたな店舗がとってかわっていく。そんな景色をなんとなく見ながら、「また麻布十番もかわっていくんだね~。」と他人事のように話している自分がいる。

麻布で生まれ育った。小・中と地元の学校に通い、大学も家の近くだったため、自転車で通っていた。わずかながらも会社勤めをしていた時期も含めて、結局35年間ずっとこの土地で過ごしてきた。そして今はこどもを育てながら家業を継いでいる。

香雅堂は、約40年前に両親がひらいたお店だ。京都で生まれ育った父は、新天地・麻布に立ち上げたお店が少しずつ軌道に乗っていくと、私と兄が通う小学校のPTA会長を何年もつとめたり、商店街の組合での活動にも積極的に取り組んでいた。こうやって振り返ってみると、自分としては意外なのだけれど、彼にとっての第二の地元を大事にしていたんだなあと感じる。

対して自分は、香雅堂に入社して約10年、地元である麻布十番と積極的に向き合っていたわけではなかった。母校や近所の小学校で「香道の授業」を6~7年の間、毎月1回ほど母と一緒に担当していたが、二人目のこどもがうまれるくらいのタイミングで忙しさが重なり、他のいろいろな活動とともに続けられなくなった。生徒たちの新鮮な感性がとても刺激的で、楽しく・やりがいがあったことが思い出される。

それ以降、生まれ育った地元に積極的に関れていないことに、何となく後ろめたさを感じていた。昔ながらのお店がなくなることをSNSで知ったり、かわっていく麻布十番のことを他人事のように話している自分を見て、これでよいのかなあ?と妻と一緒に疑問を感じていた。

香雅堂のビジネスに余裕がでてきたから!とかではないのだけれど、家業を継いで10年という時間が経った今、あらためて「この街でどう生きるか」を考えている。

10年前の震災・感染症のパンデミック・変わっていく価値観・年齢的なこともあってか、移住をする友人がまわりに増えてきて、その度に「なんか移住っていいなあ…!してみたいなあ。」と少し心が動かされる。アウトドアでの遊び・自然の多い環境が好きな自分にとっては、旅行に行くたびに「こんな場所で暮らせたら楽しそうだなあ…」という「ここではないどこかへ」的な発想が頭をもたげる。

だけど、生まれてから引っ越しをしたことがないからなのか何なのか、この街で暮らすという選択肢が今の自分にはいちばん自然なことのように感じる。

きっとこの先もそうなんだろうと思う。

そんなことを考えていたとき、ちょくちょくお話する機会のある近所のお坊さんから、地域のとりくみ「みなと子ども食堂」で何かしらお香を配ることはできまいか?というお話をいただいた。生活必需品としての食料はもちろん大事なのだけど、暮らしに愉しみをもたらす嗜好品もやはり同じように大事なのだという。

「この街でどう生きるか」というテーマはこれからも常に考え続けることになるだろう。そして、そのときどきで・状況で、関わり方は少しずつ変わっていくのだとも思う。どんなやりかたが自分≒香雅堂らしいのかはまだわからないのだけれど、まずはこども食堂での関わりを通して地域のこどもたちはじめ保護者のかたたちの手にお香を届けることからはじめてみようと思う。

僕たちのお香が地元のみなさまの笑顔につながることを願って。

みなと子ども食堂
http://minatokodomosyokudo.org/
香雅堂は、1月19日(水)16:00~のパントリーに参加する予定です。

【連載】お香と100年、生きてみる
オープン・フェア・スローをキーワードに活動する香木・香道具店「麻布 香雅堂」の代表・山田悠介が書くnote。謎に包まれた和の香りの世界のことを、様々な切り口から紹介させていただきます。既にお香が好きな方に、潜在的にお香を必要としている方に、この連載を通じて少しずつご興味をお持ちいただけたら嬉しいです。

【プロフィール】山田悠介
香雅堂代表。1986年、東京の麻布十番に生まれる。「悠さんのランドセルは香りでわかる」と言われる様に和の香りと共に育ち、2011年から香雅堂に関わる。テニスを中心としたスポーツ・村上春樹さんをこよなく愛する、2児の父。家業・家庭・自分の時間、細く長くバランスよく、中庸に100年生きることを目指しています。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
麻布 香雅堂
京都より200年の系譜をもつ香木・香道具店 「麻布 香雅堂」のnoteです。「オープン・フェア・スロー」をキーワードにお香の世界に関わっています。www.kogado.co.jp _ お香の定期便「OKOLIFE」oko-crossing.net/okolife/