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心なんて一生不安_ボーはおそれている

去年の春、ヘルシンキの映画館にこの映画のポスターがあった。
早く観たいなーと思っていたけど10ヶ月も経ってた。

ミッドサマーでアリアスター監督を知り、同僚のAはどハマり。
Aは外国人の顔が覚えられないという理由で日本映画派なんだけどアリアスター作品は良いみたい。結構ビビりで職場では平和主義の彼がミッドサマーやヘレディタリーが大好きってかなり闇を感じる。

A君とネット上の避けられないネタバレが怖いから早く観ようって
私は封切の日の最終回、A君は翌日の昼間に観た。
A君の弟がその日帰省してくる予定らしく、A君は震え上がっていた。

結果だけ先に言うと、ネタバレなんか知ろうが知らなかろうが問題はないのである。
劇場で観た人だけが感じることができる、不穏・不安・狂気が全てなのである。 
(後日上司に「どんな話なの?」と聞かれ全然説明できなかった)

まずビビったのは上映時間。179分
ミッドサマーも通常上映はかなりカットしたシーンが多かったみたいだし、そうなっちゃう監督なのだろうか。

次にビビったのは映画館。
今まで映画館の入り口で並ぶことなんてなかったのに並んだ。
ハイキューの封切りでもあり、ほぼほぼそのお客さんだった。すごい、日本のアニメすごい。

始まる。とにかく不安だ。ずっと不安で可哀想、ああ可哀想ホアキン。
この世界が幻想なのか本物なのか何の説明もないまま続行。劇とかも始まっちゃう。
とにかく小さなことから大きなことまで全てがどこかおかしい。

映画ってそういう現実と違うところをまず飲み込むところから始まるじゃないですか
ああ、魔法よね、宇宙よね、ゾンビよね。みたいな。
しかもそれに対して丁寧に説明すらしてくれる作品もある中、これは一切なし。
とにかく観る側の想像に任せて終盤まで進む。
ボーの住むアパートから変な家族が住む家から森の中の劇・・・

上映時間の179分はRRRと同じくらい。
RRRは体感時間2時間弱くらいだったように思う。としたらこの作品の体感時間は4時間越えだ。
だるいわけじゃなくてずっと癖になるキレイだけど決して幸せではない映像が流れている感じ。決して「何故」と考えてはいけない、と言うか考える隙さえ与えられず
一年で二、三日あるような、なんか何やってもダメな日を観ている感じ。
ロイアンダーソンのさよなら人類を観た時と感覚が似ていた。

小さな小さな伏線をペタペタと貼られて終盤雑にベリっと剥がされる。
それは何だか立派な瘡蓋を、まだまだ然剥がしちゃいけないタイミングなのに爪でガッと浮かせてガッと剥がされて・・・ああ、血が出ちゃった、また瘡蓋育てなきゃ・・痕になる。
ってところにまた伏線貼られた感じ。で、終わる。
てか伏線て「貼る」もんかよ。


終わってシアターを出ると、来た頃とは打って変わって静寂のロビー。
ボーはおそれているを観た人たちはゾロゾロと無言でそれぞれの場所へ去っていく。
もうすぐ0時になろうとしていた。
金曜日まで一生懸命働いて、平日最後の映画のご褒美にしては気持ちは晴れないけれど
帰りの車で私は syrup16g の生活を口遊んでいた。

涙流してりゃ悲しいんか
心なんて一生不安さ

生活はできそう?それはまだ
計画立てよう それは無駄

誰が何言ったて気にするな
心なんて一生不安さ

あ、A君のことを書くのを忘れていた。
月曜日の朝、A君と顔を合わせると何とも言えない、彼なりのホアキン顔をしていた。
無事に観賞もし、弟も無事に帰省し、甥と姪と平和に遊んだと言っていた。
ただ平和に甥と姪と触れ合っていても可哀想なホアキンが脳裏に何度もよぎったのだそう。

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